田口俊樹
早いものです。今年も翻訳ミステリー大賞選出のための第一次投票締め切りまで余すところひと月となりました。
音頭取りが投票できなきゃどうにもならんのですが、正直なところ、私の場合、あれとあれ、まだ二作しか決まってない、五作投票しなきゃならんのに。
今、三冊目の長〜いあれを半分ちょっと読みおえたところなんですが、これはもう当確なんで、実際は残り二冊。まあ、話題になったあれとあれを十一月中に読めば大丈夫だと思うんだけど。あれはよくてもあれがはずれだったら? なんて考えて、どうしても五作に足りなかったら、ちょっと気が引けるけど、自分が訳したあれを入れちゃおうか、すごく面白いのに、全然評判にならなかったし、売れてもないんで、ここで訳者が推さず誰が推す、なんてことも考える今日この頃、翻訳者のみなさん、今年もなにとぞ清き一票を!
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
横山啓明
第五回翻訳ミステリー大賞一次投票
まであとひと月になりました。
一年ってほんとうにあっという間ですね。
読まなければいけない未読の本がまだ何冊かあります。
このひと月でなんとか消化しなければ。
とはいえ、年一度のお祭り。堅苦しく考えずに
ゆるーく、楽しくやりましょうね、みなさん。
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
いまハマっているのが浪曲。ご存じ広沢虎造の「清水次郎長伝」。16枚組のCDを散歩に出るたび1枚ずつ聴いてるんですが、めっぽう面白い。胸のすくような敵討ちの話もあれば、案外かわいい子分達の挿話もある。宝の山を見つけた気分です。「酒のみねえ、寿司くいねえ、江戸っ子だってね」とか「馬鹿は死ななきゃなおらない」とか、名台詞や粋な啖呵もざくざく。「〽 武居のドモ安、鬼より怖い、ドドとどもれば人を斬る」なんて、ひとりでうなっておりますが。ただしこれ、聴きすぎると頭の中がすっかり浪曲モードになっちゃって、仕事にさしさわる。出力される訳文がみんな浪花節になっちゃいます。染まりやすい人は使用量を守って正しくお使いくださいね。目下のお気に入りは、桶屋の鬼吉が早桶をしょって黒駒一家に喧嘩状を持っていく挿話。痛快だし、とにかく可笑しい。同じやくざ者の話ということで、ルヘインの『夜に生きる』が好きな人にもお薦め。てのはちょっと強引かしら。
※10枚組、13枚組など、いろいろな版がありますが、収録話数のいちばん多い16枚組は現在入手困難の模様。図書館などにはわりと置いてあるようです。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:コンロン『赤と赤』 ウェイト『訣別のトリガー』 バリー『機械男』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
白石朗
早川書房本社ビルで本日10月31日(木)まで開催中の「ハヤカワ・ミステリ全点展示会」に行ってきました。1953年のスピレーン『大いなる殺人』から、ずらりとならぶ60年間の1775点は壮観のひとこと。ことさら演出するでもなく刊行順にひたすらならべることで出る重みと迫力もあるのですね。創刊当時の泥臭くも味のある具象画からはじまる装幀の変遷や、時代を反映する作品のセレクションの変遷も興味ぶかかったのですが、ポケミスをささえる翻訳陣のゆるやかな移り変わりにも感慨をいだいたり。
会場にいた同書房編集者のY氏は、以前いちばんお気に入りのポケミスのタイトルとして『笑ってくたばる奴もいる』をあげておられました。たしかに上に5文字題名をつけるだけでポケミス俳句(?)になるので秀逸なタイトルといえます。「空高く笑ってくたばる奴もいる」「墓を掘れ!笑ってくたばる奴もいる」「泣きねいり笑ってくたばる奴もいる」「わらう後家笑ってくたばる奴もいる」とか。おなじ7+5でも『カラスは数をかぞえない』ではこうはいかない。
当方はご贔屓タイトルとして『ぬれ手で粟』と『うまい汁』をあげたのですが、慧眼をもってなるY氏に「それはタイトルとして好きなのではなく、好きな言葉や願望がたまたまタイトルになっているだけでは?」とあっさり見抜かれてしまいました……。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。最新訳書はキング『11/22/63』、アウル『聖なる洞窟の地』、グリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』など。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
第4回読書探偵作文コンクールの発表は、あす11月1日(金)。今年は小学生だけに限定したにもかかわらず、過去最高の人数の応募がありました。
小学生のみなさんの作文を読んでいて感じたのは、大きく分けて、本そのものを紹介していくスタンスのものと、本を出発点として自分の体験や生活を語っていくものがあること。去年の選考でも話題になりましたが、いまの小学校では、むしろ後者の書き方が奨励されることが多いらしい。それはそれでいいし、書き方の定型に束縛される必要はないけれど、このコンクールでは、前者の優秀なものもしっかりすくいあげていきたい。極端に言えば、完璧なあらすじをひたすらまとめあげたものや、キャラクター紹介に徹しているものだって、その本の魅力が伝わってくれば、賞の対象であっていい、とわたし自身は考えています。その一方で、話のつづきや、登場人物への手紙や、絵つきの紹介文などももちろんOK。要は、どういう過程をたどったのであれ、1冊の本をたっぷり楽しんで、その思いをだれかに伝えてもらえばそれでいいということです。
今年は上記の両方のスタンスのものが最優秀作品(計3作)に選ばれました。当サイトでも該当記事に週末にリンクを張る予定。そんなことを頭に置いて、子供たちの文章を読んでもらえるとありがたいです。今年は優秀賞、特設のフィリップ・ニャーロウ賞も含めて計6作を順次サイトに掲載していきます。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )
加賀山卓朗
NHKのまわし者と思われても困るのだが、『地球イチバン』という番組が思わず引きこまれるほどおもしろい。イヌイットのイッカク狩りや、子供も大人も毎日走りまくっているメキシコの山岳民族や、モロッコの遊牧民族や。ちょっと見たことのない映像ばかり。客人をもてなすために、飼っているヤギを一頭殺す遊牧民族のおじさんが、大人は家畜ぐらいさばけないと、なんてぼそっと言うのもかっこいい。調べてみるとこの番組、昔からあるんですね。こんなにおもしろかったかなあ。
毎年出るのを楽しみにしている、C.J.ボックスの猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの新作『フリーファイア』もおもしろかった。私にとっては余計なことを考えずにいちばんわくわくできるシリーズ。本作は舞台がイエローストーンということだけでもう軽く基準値超えなんですけどね。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
このたび、ジョアン・フルークのハンナシリーズ最新作『デビルズフード・ケーキが真似している』が出ました。だれにも言えなかった驚愕の結末が、ようやくオープンに。驚いていただけるかしら。それともやっぱりねという感じでしょうか。わたしはけっこうびっくりしましたが。
ハンナシリーズのように、お料理やお菓子が登場する翻訳ミステリーはたくさんあります。わたしなどは、それを目当てに翻訳ミステリーを読むといっても過言ではありません。
作品のなかで重要な役割を果たすアレを作ってみたい、実際のコレはどんな味なのか食べてみたい、と思う人も多いはず。そんな夢を実現してくれるのが、先日このサイトで紹介された、「翻訳ミステリーお料理の会」です。翻訳者の芹澤恵さん、武藤崇恵さん、イラストレーターの宮崎裕子さんを中心として発足した会で、わたしもお手伝いをさせていただいています。料理(そしてもちろん試食)を通じて翻訳ミステリーのおもしろさを追求し、分かち合おうというのが会のコンセプト。実際に料理を作り、食べることで、作品に対する理解や愛着も深まるのではと思っています。読書会で意見を述べたりするのはちょっと苦手という人も、料理をしながらの雑談なら気楽に話せるのでは?
その「翻訳ミステリーお料理の会」の記念すべき第一回調理実習で、なんとハンナシリーズ第一作『チョコチップ・クッキーは見ていた』に登場する「チョコチップ・クランチ・クッキー」を作成することになりました。講師は不肖ワタクシが務めさせていただきます。レシピはこちらで用意しますので、本を読んでいなくても大丈夫。とっても簡単なレシピなので、料理初心者も歓迎です。くわしくは→こちらをごらんください。みなさまのご参加をお待ちしています。
(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇)