第46回 テロリストとCIAの攻防を、ひりひりするようなタッチで描く『ホームランド』

 あいかわらず中東では戦乱の種は尽きまじといった様子だわ、世界中でテロは起こってるわで、ニュースを見るたびにげんなりしてしまう今日この頃ですが、そういう時代だからこそ、迫真のスパイスリラーが作られたりもするわけです。てなわけで、今回ご紹介するのは、今アメリカでもっともハードなスパイスリラー『ホームランド』です。

 この作品、『24』のシナリオを書いていたこともあるハワード・ゴードンとアレックス・ガンザのコンビがプロデュースしてるんですが、イスラエルのテレビドラマを基にして作っているせいもあってか、とにかく設定がシビアでハード。『24』もたいがいでしたが、この作品のいやーな感じには及びません。

 物語は、中東で捕虜になっていた海兵隊員ニコラスがアメリカに帰ってきたところから始まります。

 アルカイダによるテロ計画を追うCIAの腕利きエージェント、キャリーは、ニコラスがアルカイダによって転向させられ、敵の工作員となっているのではないかと疑い、捜査を始めます。

 一方、妻子の待つ我が家に帰ったニコラスでしたが、なかなか平和な祖国の暮らしに馴染めず、メディアの取材攻勢や周囲の奇異の目にさらされ、家族全員が強いストレスを受けてしまうことに。

 はたして、ニコラスは本当にテロリストなのか? アルカイダのテロ計画の実体とは? ピリピリとした緊張感の中、「その瞬間」は刻一刻と近づいてくるのですが……。

 というわけでこの作品、片時も目を離せない強烈なスリラーとなっております。

 9.11同時多発テロ以降の、アメリカ社会が抱える不安を直撃してるし、それによってどういう悪影響が出てるか(排外主義とか、イスラム教やアラブ人全般に対する反感とか)もきちんと描いてるところがいいんですよね。

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 しかも、役者がまたいいのです。

 善人なんだか悪人なんだかさっぱりわからない、なんとも不気味な感じで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされているニコラスを好演しているダミアン・ルイスもいいんですが、なんといっても、キャリー役のクレア・デインズの熱演がすごい。

 キャリーはものすごく熱心で腕利きの、時に熱意のあまり暴走しがちな、要は映画やドラマの主人公によくあるタイプの熱血漢ぽく登場するのですが、実は双極性障害を患っていて精神的に不安定な人物なのです。そのキャリーの不安定さがどんどん増幅していくさまを、美人女優らしさをかなぐり捨てて熱演しているデインズの役者根性が実にいいのでした。

 この、主役二人が両方とも精神的に不安定、という設定が、ストーリーのハードさに輪をかけて、この作品に強烈なインパクトを与えているわけで、なんかもう毎回見終わると、ぐったりした気持ちになれます。

 それにしてもアメリカのテレビドラマはすごいなあ、と思うのは、人気が出た途端、延長が決まって、すでに第3シーズンに突入しているところ。

 それも、安易に物語を引き延ばしているわけではなく、毎シーズン、あっと驚く状況の大転換をおこなって、視聴者の興味を惹いているところが、実に上手いのです。

 だいたい、先に書いたように、最初の設定だと「ニコラスがテロリストかどうか」がわかったところで、キャラクター間の敵味方の関係が固定すると思うじゃないですか。

 ところが、第1シーズンのラストでその答がわかっちゃうのに、第2シーズンでも第3シーズンでも、敵味方の関係を全然固定させずに次々に新たな展開を用意しちゃうんだから、いやもう脱帽です。

 これ以上何を書いてもネタバレになっちゃうので、スパイスリラーが好きな人は、とにかく一度見てくださいね〜!

 さて、スパイスリラーといえば、最近、どんどん現代的なスパイものが翻訳されていますよね。

 その昔、「冷戦が終結した以上、スパイ小説は衰退するのでは」なんて危惧する声もあったりなかったりしたものですが、冒頭に書いたように、逆に21世紀になって以降、世界情勢はどんどんグダグダになっちゃってて、それがフィクションの世界にも影響して、スパイが跋扈しているようです。良いんだか悪いんだかねえ。

『ケンブリッジ・シックス』『甦ったスパイ』のチャールズ・カミング、『ツーリスト』のオレン・スタインハウアー、『インフォメーショニスト』のテイラー・スティーヴンス等、新たな才能もどんどん登場しているのですが、個人的には、かのジョン・ル・カレが今も健筆を振るい続け、重く暗くリアルな国際謀略を描き続けているのがいつも気になっております。

 21世紀に入ってからの作品群、『ナイロビの蜂』(これは映画版も傑作)、『サラマンダーは炎のなかに』『ミッション・ソング』『われらが背きし者』と、いずれも「今そこにある陰謀」を描いていて、ル・カレの気骨に圧倒されてしまいます。未訳の最新作 A Delicate Truth も対テロ諜報戦の闇を描いてておもしろそうなんですよね。

 もっとも、あいもかわらず暗くて重くて、エンタテインメントとしては読むのがどんどんしんどくなってきてるのも否定しませんけど(苦笑)。

〔挿絵:水玉螢之丞〕  

フォックスジャパンの“「HOMELAND/ホームランド」100倍楽しむ方法”

映画『ナイロビの蜂』予告篇

堺 三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。零細文筆業者。訳書近刊にコミックス『R.I.P.D.』、『2ガンズ』(共に小学館集英社プロダクション)。

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