『ジェーン・エア』を読んで〈はしばみ色の目〉ってどんな色だろうとドキドキした奥様、こんちには。『若草物語』を読んで〈塩漬けライム〉ってどんな味だろうとワクワクしたお嬢様、ごきげんよう。今月も女子ミスのお時間がやってまいりました。寒い毎日、片手に本、片手にホットチョコなんていいですよね。もちろん、「そのショコラが熱くなかったことを幸いに思え!」とオスカルごっこをするのを忘れてはいけません。

 いやあ、まさか平成も四半世紀が過ぎてクリスチアナ・ブランドの作品が読めるとは。『領主館の花嫁たち』(猪俣美江子訳・東京創元社)はブランド最後の長編です。読み応えガッツリ。しかも道具立てがたまりません。

 舞台は1840年、ウェールズ北部の辺境にある古い屋敷。そこを訪れたうら若き、けれど顔に傷のある女性家庭教師テティ。見分けのつかない美しき双子の少女。住み込み家庭教師と双子ってだけで古き佳き英国文学好きなら御飯三杯いけます。しかもこの館には250年にわたる呪いがかけられていて──。起きる怪異! 現れる亡霊! 滲み出る悪意! もう隅から隅までゴシックです。日に透かしたら「ゴシック」という文字が浮かんでくるんじゃないかってくらいの正統派ゴシックホラー、ゴシックロマンです。

 コックリル警部シリーズのような謎解きミステリではないけれど、技巧は炸裂。ブランドなら『猫とねずみ』の世界観がお好きという方は特にお気に召すのでは。

 コージーからはローラ・チャイルズ『あったかスープと森の雪の庭』(東野さやか訳・コージーブックス)を。武田ランダムハウスジャパンがなくなった後、原書房コージーブックスが受け継いでくれた〈卵料理のカフェ〉シリーズ第4弾です。松田青子『スタッキング可能』(河出書房新社)で登場人物のD山さんが読んでたアレですよ。

 カフェと書店と編み物クラブを、仲良しのアラフィフ3人組で切り盛りするシリーズ。首切り死体というコージーらしからぬ残虐な事件で物語の幕が開きます。でもどぎついのは最初だけ。近年のレシピ付きコージーの中では料理が最も実用的でおいしそうな作品です。料理だけじゃない、不幸があったときに地域の女性たちが助け合う場面、非日常の事件が起きても毎日のやるべき仕事をやることで地に足が着くという描写、お茶のサービスがあるだけで人生は楽しくなるという述懐。そういうリアルな生活感の積み重ねでコージーはできている。スザンヌが夫を亡くして一年、そろそろ彼の部屋を自分のための図書室に変えてもいいかな、と考える場面では前向きな強さに嬉しくなります。

 生活には潤いが必要だって思い出させてくれるコージーっていいよね。だってそもそもコージーって〈お茶とケーキ〉派だもの。人生の余裕のためのジャンルだもの。まあ、できればもうちょっと「推理」して欲しいとは思うけども。いっそ清々しいほど推理も謎解きもないからね、これ。

 ちょっと横道に逸れます。

 00年代、やたらとコージーが出された時期がありました。良質の物もありましたが、推理は二の次でレシピとロマンスばかりというものも多く、私はそれらを「量産型コージー」と呼んで評価の対象にはしませんでした。

 が、気がつくと。武田RHは既になく、他社もコージーの点数がぐっと落ちています。量産型だったはずなのに、今では月に2冊がいいとこです。いつの間にこんなことに。このままでは3Fの二の舞になってしまう。

 これはいかん。好きなら、盛り立てていかねば。量産型だろうがシャア専用だろうが、コージーの火を消してはいけない。てかシャア専用コージーって何だよ。三倍食うのかよ。

 おお、熱く語っていたら字数を使いすぎてしまった。さくさく行きます。カミラ・レックバリの〈エリカ&パトリック事件簿〉最新刊『人魚姫』(富山クラーソン陽子・集英社文庫)が出ました。スウェーデンミステリで、ノンフィクション作家のエリカと刑事のパトリックが夫婦で事件に挑みます。

 前巻まででエリカの個人的な問題がクリアになり、ようやく後顧の憂いなしに夫婦で事件に臨める本作。双子を妊娠中のエリカが大きなお腹をかかえて調査に飛び回るのにヒヤヒヤするけど、レーナ・レヘトライネン『氷の娘』(古市真由美訳・創元推理文庫)の妊婦マリアに競べればおとなしいものです。ってか北欧の妊婦ってこんなんばっかりか。

 真相はやや唐突だし、何より「こんなとこで終わるかっ!」というエンディングに身悶えしますが、重い話の合間に差し込まれる日常描写がいい。家事の手間をきっちり描く、というのはいい女子ミスの条件です。厄介な上司のメルバリが孫のオムツ替えに悪戦苦闘する様は大笑いできるよ。

 ミステリではありませんがコニー・ウィリス『混沌ホテル』(大森望訳・ハヤカワ文庫)も入れておきたい。短編傑作選のユーモア編とでも言うべき本書で、特に女子の皆さんにお読み戴きたいのが「女王様でも」。これは『最後のウィネベーゴ』(河出文庫)にも入っているので既にご存知かもですが、史上初の月経SFです。シャントを入れることで毎月の煩わしさから解放された時代、人間本来の自然な営みに戻るべきだという団体が現れ、娘がそこに入ってしまったことで家族が大騒ぎ。女子なら実感を持って大笑いできるはず。

 さて今月の銀の女子ミスは、スーザン・ヒル『丘』(加藤洋子訳・ヴィレッジブックス)です! てか作者がヒルで題が『丘』って。わざとだろこれ。

 舞台はイギリス田園地方の町、ラファトン。離婚したての女性刑事フレヤが赴任してきて、失踪事件の捜査にあたります。事件そのものはとっても陰鬱としててイヤな展開だし、物語は全体的にシリアスで暗いんだけど、このフレヤがいいのよー。仕事もプライベートも充実した時間を過ごそうと、地域の合唱団に入るのさ。料理の腕前は「何が悲しくて刑事になんてなったの? プディングを売って帝国を築けるじゃないの」と言われるほど。

 そんなフレヤが、なんと直属の上司サイモンに一目惚れ! 思い出して下さい、クラスや職場に片思いの相手がいる、あの感じを。中学生みたいにドキドキするフレヤが可愛いの。仕事が終わっても、サイモンがまだ署内に残っていると、ムダにうろうろしたりして。あ、公私混同はしませんよ。恋愛と仕事の境目がなくなるヒロインは女子ミス的にはダメです。フレヤはその点、きっちりしてます。

 物語は思わぬ形で真犯人が読者にだけ明かされ、そこからの「志村、うしろー!」的サスペンスったらありません。そして終盤の衝撃の展開。はっきり言って読後感は悪いです。でも読んでみて? 本国ではシリーズは七作目まで出ているとのことで、続刊が楽しみ!

 では今月の金の女子ミスを。

 私はコメダ珈琲でよく仕事をしますが、中日スポーツを読んでると、隣の席のお爺さんが話しかけてくるんですよね。「昨日は代打を早う出しすぎたでいかんわー」……仕事せねばと思いつつ、野球は私も嫌いじゃありません。ついつい乗ってしまいます。

 はい、もうお分かりですね。金の女子ミスはバロネス・オルツィ『隅の老人【完全版】』(平山雄一訳・作品社)です。え、隅の老人が女子ミス?と思ったあなた。実はこの作品、すごいんです。

 本書は喫茶店の隅の席に座って迷宮入り事件の謎解きを開陳する老人の話ですが、それを聞くのが女性新聞記者。彼女が仕事しながらお茶飲んでたら、いきなり貧相で顔色の悪いハ……いや、薄毛のお爺さんが寄って来て、頼んでもないのに事件の話を始めるわけですよ。しかも上から目線で! 一方的に! 知らない人なのに! 怖いよ。引くよ。今なら通報されるよ。けど女性記者はついつい聞き入ってしまって、恋人との約束も忘れちゃうというね。それ女子としてどうよ。

 いや、ポイントはそこじゃない。『隅の老人』一作目が発表されたのは1901年。そんな時代にオルツィは、女性記者を登場させてるってとこに注目。探偵役ではないにしろ、〈屋敷で働く〉以外の職業を持つ女性がシリーズミステリの主要人物として描かれたのは、これが初めてではないかしら。

 このあと、1910年にオルツィは『レディ・モリーの事件簿』で女性警察官を主人公に据えます。パトリシア・ウェントワースの女性私立探偵モード・シルヴァーが1928年、メアリ・ロバーツ・ラインハートの看護婦ヒルダ(ミス・ピンカートン)は戦後ですから、オルツィの書く女性像はかなり時代の先端を行っていたと言えます。女子ミス読者は押さえておきたい価値ある作品なのです。

 あ、ひとつお断りを。今回の【完全版】は品切れになるのが早く、まだ手元に届いてません。なので未確認ですが、雑誌掲載時のオリジナルに沿って女性記者の一人称になっているとか(だからポリーという名前も出ないらしい)。おまけになんと当時の挿絵が収録されてるんですって。私は前に原書単行本の挿絵を見たことがあるのですが、「いや、こんな格好で記者って!」と仰け反るようなヘアスタイルとドレスでした。そのあたりにも注目して【完全版】をお楽しみ下さい。

大矢 博子(おおや ひろこ)

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  書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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