第12回大阪レイモンド・チャンドラー読書会(3月15日)レポート

 前回の『冥闇』読書会から少し日が空いてしまいましたが、第12回目の大阪読書会、レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』/『ロング・グッドバイ』を課題書に執り行いました。

 課題書を発表したとき、常連の参加者から「そういえば、第一回の読書会のとき、次回課題書のリクエストにも真っ先に『長いお別れ』が挙がりましたよね。あのときは、いくらなんでもソレは手に余るんじゃないか、と思いましたが。そうですか。とうとうこれをやる日が来たか……」という感想が。そう、第1回は2011年の1月のことでした。それから定例読書会を11回、クリスティ読書会を4回経験し、参加者も世話人も、ぐっと成長し……たんかな? まあ、やってみればわかるでしょう。今回は広島から、書評家の穂井田さんが、偵察にいらっしゃいます。

 いつもは金曜の夜に大阪駅前のビルで行なっていた定例読書会ですが、今回は、時間も場所も変更。土曜の昼下がり、戦前のレトロな街並みが残る浮田地区。古い町屋を集会室として貸し出している場所を世話人が発掘。オーナーさんからも、よく見つけましたね、と言われたとか。外からでは、普通の古い民家にしか見えません。細長い民家の6畳と8畳の和室に、ありったけの机を細長く並べて座布団を配し、大人20人が、まさに膝つき合わせての読書会となりました。ちなみに構成は、男性6名、女性14名。そのうち学生さんが2名(パチパチ)。JRの神戸線が遅れて、神戸からの参加者はやきもきされたようですが、広島から参加の穂井田さんは迷わずに到着(パチパチ)。

 用意するお茶も、すぐそばの100円自販機で参加者に買ってもらうという手抜きの世話人ズでしたが、お隣のケーキ屋さんのお菓子と、差し入れのバームクーヘンをつまみながら読書会スタートです。

 最初に村上訳と清水訳、どちらのバージョンを読んだか尋ねてみました。両方読んだ人(片方をベースに、ところどころ拾い読みも含め)10人。清水訳のみが3人。村上訳のみが7人。リズムがあり切れがいい清水訳にたいして、村上訳は生硬な感じがするほど丁寧に訳されていて、好みが分かれます。

「他の春樹訳では、村上春樹が喋っている。だけどこの本に関しては、原文に忠実で作家への尊敬が感じられる」と熱く語るのは村上翻訳が大好きなTさん。

「訳の違いは、作家と翻訳者の違いでしょう。翻訳者は文章を作るときに無意識に手を加え、加工してしまうんです」と翻訳家の細美遙子さん。

「だけど清水訳のインパクトはすごいと思った。最初のほうにあるテリーの手紙など、清水訳のほうがぐっと迫ってきました」

「春樹訳もありかなと思ったんです。でも読み直すと清水訳はすばらしい。ぼくのなかでは、7対5で清水訳の勝ち。接戦じゃないけれど、いい試合でしたね」

「ン十年前に清水訳で読んで、チャンドラーにはまりました。村上訳が出たとき、嬉しくて単行本で買ったけれど、雰囲気が違って……。清水訳が抄訳でカットされていたことを知ったのもショックでした」

「若い人に薦めるのなら村上訳ですね。わたしたちは清水訳が染みこんでいるので、比較はしないほうがいい」というのは書評家の穂井田さん。なるほど、初めて村上訳で読んだ人は違和感なくすらすら読めたと言ってました。

 こんなに長くて饒舌な文体だとは思わなかったという声。

「読了したのは昼前です。マーロウの独白に思わずつっこみ入れてました」

「そうそう、こんなに分厚い本だったかなと思いながら再読しました」

「これがハードボイルド? と思ってしまった。もっと寡黙で格好いいのかと思っていたのに、マーロウ、損な方向にばかり動いて……アホとちゃうかって言いたくなった」

「気障だけど、不器用なところが見えるので、わたしはぎりぎり格好いいなと思った」

「頭のなかのヒーローのイメージ(ハンフリー・ボガートとかロバート・ミッチャムとか)、寡黙で冷たく、へらず口を叩く、に合わへんかった。しゃべり過ぎやで」

「上層部とか警察に楯突くのは納得できるけど、まわりに誰彼なくくってかかってる。とくに医者にはひどいよね。医者が嫌いなのかな」

「作家にたいしてもひどい。自分を投影して自虐的になっているのか」

「マーロウは結局なにもしてない。話がどんどん進むのかと思っていたら、描写が細かくて、登場人物が饒舌で進まない。だけど場面が印象的で味わい深いと思った」

「確かにプロットやストーリーはたいしたことないけれど、シーンはいいよね。細かいことにこだわらず、シーンを楽しむべき」

「チャンドラーの作品を映画にするときに、脚本家は苦労したとか。ストーリーがけっこういい加減だから」

「そういえば映画では最初のシーンに猫缶の話が出てきたよね」

 このあとしばし猫缶の話に脱線(原作にはないシーン)。そういえばこの貸し家、猫つきなんです。二階にイライザという猫ちゃんがいるんですよ。

 映画じゃないけど、『ロング・グッドバイ』がテレビドラマになるそうです。私立探偵役は浅野忠信、テリー役は綾野剛。美女役が小雪ということで、適役かどうか、喧々囂々の議論になるかと思いきや、「綾野剛の出ているドラマにはずれなし」という力強い一言で一件落着。さらに特撮ヒーロー好きの世話人ズのKさん情報によると、仮面ライダーにもフィリップ・マーロウの影響があるのだとか。『仮面ライダーW』にはフィリップという登場人物がいて……。

「綾野剛も仮面ライダーに出てたんだよね」

「えー、本当?」

「ライダー役じゃなくて、悪者役(?)のほうだったけど……」やっぱり綾野剛、恐るべし。話題をさらうな。

 突然ですが、小雪さん演ずる美女アイリーンの瞳の色は何色でしょうか。

「最初は青い瞳の女性とあってね、次は紫でどっちなんと思っていたら、最後はバイオレットブルー、そこに落着くのかと……」英語のブルーって、広いもんね。

NHKドラマトピックス 土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」

 作家になるまでのチャンドラーの話とか、ハードボイルドとはなんぞやとか、「九月の暁」という絵のこととか、ギムレットの味とそれをつくるバーテンダーの本の好みとか、ためになるお話もたっぷりあったんですが、一番話が盛り上がったのは、マーロウとテリーの男の友情について。マーロウについては、ホモセクシャル疑惑やら、甘ちゃんやら、中二病やら言われて、マーロウ分が悪し。資料を使わせていただいた名古屋の幹事Kさんが聞いたら嘆くよと、世話人が心配しておりました。

【参加者が持ち寄った本】

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 読書会を終えて、近所の焼き鳥屋にて、絶品の胆刺しを食しながら、チャンドラーのテキストで細部を読み直す楽しさを改めて教えられ、ようしもう一度読み直すぞと決意を新たにしたのでした。

報告者 大阪読書会世話人 小佐田愛子

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