昨日につづいて第五回翻訳ミステリー大賞二次投票に翻訳者のみなさまが投票メールに添えたコメントの一部を紹介します(前編はこちら)。なお、掲載にあたって編集した箇所がありますこと、ご了承ください。作品は得票数順、コメントは投票者名50音順です。

 また、当サイト人気連載「書評七福神今月の一冊」における各評者のコメントも添えました。

 候補作『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子訳(東京創元社)

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加藤洋子:暗くて痛い小説は苦手ですが、これは引き込まれました。作品の持つ圧倒的な力に捻じ伏せられました。やられた!

舩山睦美:暗く寒い旅路の果てに、心が熱くなる結末が待っていた。読み終わる瞬間に、読んでよかったとしみじみ思えるのは、悲惨な境遇から立ち上がる人間の勇気を讃えているからだろう。

北上次郎:北欧ミステリーの真打ちが再度登場だ。(中略)今回もたっぷりと読ませる。黙って読むべし!

 候補作『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳(創元推理文庫)

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井野上悦子:久しぶりのフロストワールドにどっぷりはまりました。翻訳も相変わらずすばらしい。

鈴木恵:翻訳のすばらしさが、内容の面白さとみごとに一体になった作品。翻訳者として、ぜひ多くの読者に読んでほしい作品です。

南沢篤花:最終的に『緑衣の女』と『冬のフロスト』で迷ったが、作品としての秀逸さはほぼ同等。であるなら、翻訳が見事としか言いようがない芹澤恵さんの訳出作品のほうを大賞に推したい。

 候補作『遮断地区』ミネット・ウォルターズ/成川裕子訳(創元推理文庫)

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川出正樹:分刻みで刻々と変わる局面に目が釘付けとなり、五〇〇ページの大部を一気に通読、読み終えた瞬間に思わず深く息を吐いてしまった。ああ、ようやくこの閉塞空間から解放される、と。緊迫した警察捜査小説であると同時に、血と暴力と狂熱に彩られた、今年度一押しのサスペンスフルな犯罪小説を絶対の自信を持ってお薦めします。

酒井貞道:個人的に興味深かったのは、2001年の作品なのに、本書で起きる騒乱が、直接の要因は異なる2011年のイギリス暴動を想起させることだ。個人は病んでいるかもしれないが、社会もまた病んでおり、解決の糸口すらつかめない。しかし絶望にはまだ早いと言わんばかりに、希望の光が差し込みもする。一筋縄では行かないドラマとテーマを扱う小説としては、ほぼ完璧な出来である。

千街晶之:意図せずして暴動を引き起こしてしまう関係者たちのエゴや愚かさの辛辣な描写は流石ウォルターズだが、一方で、パニックの中でも失われない人間の知性や冷静さも夜空の星のように輝きを放ち、感動を誘う。並行して語られる女児失踪事件の捜査のくだりが、暴動の凄まじい臨場感の前で霞んでしまった感はあるものの、ウォルターズの新境地にして傑作であることは間違いない。

吉野仁:荒廃した団地で起きた小児性愛者排除の大規模な暴動デモのゆくえとイカれた親子に監禁された女医の絶体絶命たる危機、そして失踪した少女を探す警察の捜査をめぐる三つ巴のサスペンス。まるで映像ドキュメンタリーを活字にしたごとき筆致により、「いま、ここ」で進行中の事件のような臨場感と凄まじい迫力が味わえる傑作だ。

 候補作『コリーニ事件』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳(東京創元社)

20130416191139.jpg(1票)

酒井貞道:娯楽や趣味の範囲を突き抜けて、読者の心の余裕を切り裂き、精神に直接突き刺さり、響きわたり、染み入り、いつまでも残る作品は『コリーニ事件』を措いて他にない。内容について多くは語らない。お願いしたいのは、ぜひ再読してほしいということだ。無駄な文章が一行もないことが、恐ろしいほどはっきりとわかるからである。本書の真価は、それを理解してはじめて実感できるはずだ。本書においては、ありとあらゆる箇所が、いずれかの登場人物の内面や生き方を示唆するために使われている。一見簡素に見える文体の、底知れぬ静かな深さ。それこそが本書の魅力の源泉である。

杉江松恋:『コリーニ事件』の簡潔さ、緊密さを心より愛する。過剰な描写、饒舌な語りよりも最近はこうした静謐さに心が強く惹かれるようになった。

●第五回翻訳ミステリー大賞:投票者コメントのご紹介(前篇)作品

●第一回大賞受賞作

●第二回大賞受賞作

●第三回大賞受賞作

●第四回大賞受賞作

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