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第2部 翻訳ミステリー大賞・読者賞を徹底的に語る!座談会

さて、頭の体操のあとは趣向変わって、「やっぱ凄いよ、翻訳ミステリー!」の時間。

イベントの前週に東京で発表された第5回翻訳ミステリー大賞、そして第2回翻訳ミステリー読者賞のすべてを、大阪の中心から力いっぱい発信です。

パネラー席には両方の賞を惜しくも次点で逃した『ゴーン・ガール』訳者の中谷友紀子さん、大阪読書会の世話人メンバーである影山さん、小佐田さん、吉井さん、浦野さんと、女性5名が並んでぐっと華やかな雰囲気に。

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(※写真はあくまでもイメージです)

まずはスクリーン上にふたたびのWikipedia。どなたが書いてくださったのか(シンジケートの中の人ではないらしい)、両賞の趣旨と概要、歴代受賞作品と候補作品がすっきりとまとめられています。 

そのリストにそって、越前さんより会場のみなさんへ、過去の受賞作をテンポよくご紹介。

第1回大賞 『犬の力』       ドン・ウィンズロウ 著/ 東江一紀 訳 

第2回大賞 『古書の来歴』     ジェラルディン・ブルックス 著/ 森嶋マリ 訳 

第3回大賞 『忘れられた花園』   ケイト・モートン 著/ 青木純子 訳

第4回大賞 『無罪INNOCENT』    スコット・トゥロー 著/ 二宮馨 訳

パネラー席のテーブルには、各回の覇者たちが並んでいます。一作一作が歴史ですね。

そして今年度、第5回については一次選考通過の作品群もずらりと並べられました。ここでもう一度、翻訳ミステリー大賞とはなんなのか、を考察。

この賞の選出方法は二段階方式。一次選考では、参加資格を持つ(フィクションの訳書がある)翻訳者が対象期間中に刊行された翻訳書から5作品を選び、順位をつけて投票。そこで支持を集めた作品が二次に残るわけですが、これが僅差となるため、昨年度は6作品、今年度は7作品が候補作となりました。二次投票では、1月から3月までに候補作をすべて読了したうえで、最も薦めたい1冊に1票を投じます。二次のみの参加も可能ですが、つまり、最低でも今回なら7作品、うち3作が上下巻なので都合10冊の本を読み終えなければ、投票することはできません。

ただでさえ睡眠時間常時不足の翻訳稼業、その短い睡眠をさらに削ってでも本を読み、本当に読んでもらいたい翻訳作品を訳者みずからその目で選んで伝えたい——そんなストイックでマゾヒスティックな職人の意地と心意気こそが、翻訳ミステリー大賞なのです。だから、受賞作候補作、どれを読んでも面白くないわけがない!

第5回7位 『コリーニ事件』      フェルディナント・フォン・シーラッハ 著/ 酒寄進一 訳   

第5回6位 『遮断地区』        ミネット・ウォルターズ 著/ 成川裕子 訳

第5回5位 『冬のフロスト』      R・D・ウィングフィールド 著/ 芹澤恵 訳

第5回4位 『緑衣の女』        アーナルデュル・インドリダソン 著/ 柳沢由美子 訳

第5回3位 『シスターズ・ブラザーズ』 パトリック・デウィット 著/ 茂木健 訳

第5回2位 『ゴーン・ガール』     ギリアン・フリン 著/ 中谷友紀子 訳

越前「ぼくの1票は、この『ゴーン・ガール』に入れたんですけどね」

(訳者の中谷さん、ひたすらぺこぺこ恐縮の図。でらカワユス♪)

以後すくなくとも5回は繰り返されるこの(↑)やりとりを挟んだのち……

素晴らしいライバル作品群を退けて、栄えある大賞に輝いた作品のご紹介!

第5回翻訳ミステリー大賞

『11/22/63』 スティーヴン・キング 著/ 白石朗 訳 (文藝春秋)

客席に配られた受賞者メッセージをこちらに転載しておきます。

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巨匠キングの最高傑作との呼び声も高いこの作品、内容の素晴らしさは後の座談会にとっておいて、とりあえずここでは「この本がいかにとんでもなく分厚いか」に焦点があてられました。

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まさにドカ弁サイズ。ダンベル体操もできちゃう上下巻。

しかも中までぎっしり二段組み。超弩級の迫力本。

なのに、読み終わるともっと読んでいたかったと思う図抜けたリーダビリティーで、すべてが破格ということですね。堂々の大賞受賞、おめでとうございます!

つづいては、第2回翻訳ミステリー読者賞の紹介へ。

その名のとおり、読者の選ぶその年の一冊。投票資格は読者であること、ただそれのみ。

毎年翻訳ミステリーを何十冊と読んでいる強者も、はじめて読んだ一冊にガツンとやられた初心者も、「すごいよ、これ!」と思ったその作品に投票ができる、まさに待ち望まれていた賞、読者による読者のための読者の賞です。会場のみなさんに参加が呼びかけられるとともに、立ち上げを担った全国翻訳ミステリー読書会連合有志の方々が運営する読者賞情報サイトも紹介されました。

第1回は、1人につき1作品選んで投票という方式でおこなわれ、なんと3作品が同点1位!

『解錠師』       スティーヴ・ハミルトン 著/ 越前敏弥 訳

『吊るされた女』    キャロル・オコンネル 著/ 務台夏子 訳

『深い疵』       ネレ・ノイハウス 著/ 酒寄進一 訳

第2回の今年度は、投票者に持ち点5点が与えられ、1〜3作品に点数を振り分けるという方式に。

 そして、54.2点を獲得して堂々の1位に輝いたのは——

第2回翻訳ミステリー読者賞

『三秒間の死角』

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム 著/ ヘレンハルメ美穂 訳(角川文庫)

こちらも客席には訳者、そして著者からのメッセージが配られました。5月11日の朝日新聞記事のなかでも触れられている海を越えたメッセージ、先の読者賞情報サイトに全文掲載がありますので、まだお読みでないかたはぜひ。

訳者のヘレンハルメ美穂さんが、「この本の長い旅の一端を担ったものとして、読者のみなさまに心からお礼を申し上げます」という文でメッセージ後半をはじめていますが、その“長い旅”について、越前さんより経緯が語られました。どんな旅だったのか、どれほど長かったのか、どんな困難を経て読者の手元へとたどり着いたのか。

シリーズ最高峰と目される本作の翻訳が出来上がった矢先に、なんと版元が倒産。そのままお蔵入りにさせてなるものかと、担当編集者だった染田屋氏が執念で企画を引き抜いたのち、氏の移籍先では翻訳小説の出版ができないところ、グループ会社の角川文庫に引き受けてもらうという離れ業を実現。ただ、十月末に刊行されたために、ほかのどの賞獲りにも参戦できないというさらなる憂き目に遭遇し……じつは、読者ならだれでも参加できる3月締切りの読者賞に望みを託し、多くの翻訳家や書評家もこの本にこぞって投票したのだとか。4月28日の記事で猫谷書店さんも熱く熱く訴えておられますが、ここ大阪でも「この本が読者賞を獲ってくれて本当に嬉しい」という熱い言葉とともに、願いのバトンが客席の一人一人にしっかり渡っていたようでした。

ここで照明が落とされ、一同スクリーンに注目です。

(後編につづく。後編掲載は1、2週間後になります)

飯干京子(いいぼし きょうこ)

大阪在住。関西読書会世話人メンバーの1人。英語学校でTOEICや英文法の講師やってます。好きなもの牛乳。でも身長150cm。過去の訳書にグレッグ・ルッカ『逸脱者』『哀国者』『回帰者』、リンダ・フェアスタイン『焦熱』など

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