既報のとおり、明日6月13日(金)は、作家アン・ビーティを大特集したイベントを開催します。ゲストの作家山内マリコさんとともに、倉本さおり、杉江松恋の二人が、この大作家とそこから派生するさまざまな小説の話題について語りつくしますよ!

 そこで本日は、明日のイベントで使用されるレジュメを先行公開いたします。アン・ビーティとはいったいどういう作家なのか。そして、ビーティが代表するミニマリズム作家、1980年代の女性作家にはどういう作品があったのか。そうしたブックガイドにもなる内容だと思います。

 どうぞご覧ください。

「君にも見えるガイブンの星」イベント紹介はこちら。

アン・ビーティ大好き!

2014年6 月13日

於:新宿Live Wire Cafe

SIDE1:

【杉江松恋が見たアン・ビーティの魅力】

 小説を読むときはいつも、作者がどのように世界の中に招き入れてくれるのか、と楽しみにしてページを開きます。ビーティ作品を読んで驚かされたのは、いつもすでにパーティが始まっている、ということ。読者はなんの前置きもなく、いきなり世界の中心に立たされます。ビーティはそこにいる人々の関係を細かく説明しようとはしません。しかし、交わされる会話を聞いているうちに自ずとそれが見えてくるのです。室温で置かれたバターが溶けていくように。「世界に身を置くこと」の愉悦を私はビーティ作品から感じます。

 もう一つ感じるのは、人間が視覚にとらわれた存在だと強く意識させる小説だということです。登場人物たちの心の中に起きているさざめきを、ビーティは彼らの視線の動きによって表現しようとします。何かを見ると、何かが思い起こされるのです。そうした形で綴られた小説は、とても明確な輪郭を持っており、強い印象を私の中に残してくれます。

【杉江松恋が考える、アン・ビーティを物語る3つのポイント】

●離婚、あるいは友達に戻った恋愛関係

●場所、特に家が喚起するもの

●壊れやすいもの、の小説

【杉江松恋お薦め。アン・ビーティから派生する必読書3冊】

〜ミニマリズムの作家たち編〜

『愛について語るときに我々の語ること』レイモンド・カーヴァー(中央公論新社/村上春樹訳/1980年)

『ファミリー・ダンシング』デイヴィッド・レーヴィット(河出書房新社/井上一馬訳/1984年)

『バック・イン・ザ・ワールド』トバイアス・ウルフ(中央公論社/飛田茂雄訳/1985年)

【杉江松恋から山内マリコさんへの質問】

 2013年12月に発表された『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎)を読んだとき、ガツンと頭をやられる感覚を味わいました。これは中年男の加齢臭に侵食されることを拒む女性が、「男たちが絶対所持していない武器」だけを見付け出して反撃する小説だと思って、こういう風にポップな書き方ができるのかと思ったのです。『この世界の女たち』で特に印象的だと私が感じた作品は、「言い返さない女性」が主人公のものが多かったように思います。主人公は男たちを前にして強い態度をとることができないのですが、その胸のうちには「でも、そうやって言いなりになるのは嫌だし、駄目なのに」という思いがある。そうした不穏な状況を描いた作品として表題作などを読みました。「おんなのこたちのたたかい」を書いた山内さんが、そうした作品群をどう読まれたかが私はとても気になっています。

SIDEB:

【倉本さおりが見たアン・ビーティの魅力】

「孤独」にはいろんな顔があります。たとえば、ビーティの描くそれらの表情は「困惑」と「諦め」ではないでしょうか。

 自由と孤独は紙一重、とはよくいったもので、ルールを手放すということは、それまで他人同士をつなぎあわせていた理解の糸口をすくなからず失うことをも意味します。カウンター・カルチャーに大きく揺さぶられた時代を経て、既存の価値基準や社会規範から自由になった人びと——とりわけ80年代の女性たちは、同等か、それ以上の孤独も引き受けなければならなかったことでしょう。ビーティ作品の登場人物の多くは、複数の離婚を経験していたり、家族との隔絶を味わっています。その祖母や母親にあたる世代から見れば、自分たちの人生から大きく外れた彼女たちの生き方は理解を超えたものとして映ったはず。けれど彼女たちにしてみれば、もはや母親と同じように生きることはできない。望むと望まざるにかかわらず、時代が動いてしまっているからです。

 誰とも確かなつながりのないまま、身ひとつで途方に暮れる人びと。その先にある妥協や諦念をけっして見逃さず、ただ静かに寄り添ってやる。いうなれば、ビーティなりの「ささやかだけれど、役に立つこと」がそこに息づいているような気がします。

【倉本さおりが考える、アン・ビーティを物語る3つのポイント】

●女性同士、とくに母娘の関係

●おいしそうなのに食べたくならない料理の数々

●犬の小説

【倉本さおりお薦め。アン・ビーティから派生する必読書3冊】

〜同時代(80年代)に紹介された女性作家編〜

『ファスト・レーンズ』ジェイン・アン・フィリップス(白水社/篠目清美訳/1989年)

『ボビー・アン・メイソン短篇集 上・下』ボビー・アン・メイソン(彩流社/亀井よし子訳/1989年)

『セルフ・ヘルプ』ローリー・ムーア(白水社/干刈あがた・斎藤英治訳/1989年)

【倉本さおりから山内マリコさんへの質問】

ちょうどひとまわり下の世代(80年生まれ)の作家として、80年代という時代に対してどんなイメージや思いを抱いているか。(テレビドラマや映画、ポップカルチャーのイメージ、日本の80年代作家との比較、自分たちの世代との違いなどなど)

[日時] 2014年6月13日(金) 開場・19:00 開始・19:30

[会場] Live Wire Cafe(Biri-Biri酒場改め)

     東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F (Googleマップ

    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分

    ・丸ノ内線・副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分

    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分

[料金] 1000円 (当日券200円up)

※領収書をご希望の方は、オプションの「領収書」の項目を「発行する」に変更してお申し込みください。当日会場で発行いたします。

 ご予約はこのサイトからお願いします。

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