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おおいに盛り上がったところで、われらが関西翻ミス読書会、世話人メンバーズの出番です。大賞作品と候補作品の魅力をがっつり語るコーナー。筆者、檀上の仲間を見守りつつ(今日は読書会ちゃうのよ、NOTネタバレ天国、だいじょぶ?)とひそかにハラハラしたのですが、約1名「ネ、ネタバレしちゃいけないんですよね?」って悶絶しそうな人がいたものの、みんな堂々のプレゼンターぶり。「読んでよかった」「ほんとに面白かった」と興奮冷めやらぬままの言葉は、波及効果が絶大です。

大賞『11/22/63』

 吉井「これほど分厚い本なのに、がんばって読んだという感じはまったく無く、それどころか本のなかに入りこんだらもう、出たくなくなってしまって。終わってほしくないと願う、幸せな読書体験でした。若い日のキング自身を彷彿させる主人公が、過去と現在を行き来しながら歴史を変えようと試行錯誤を繰り返します。壮大な枠組みのなか、政治の話ももちろん面白いですが、それよりもっとパーソナルな部分に焦点があてられた物語として、深く感情移入しながら読みました。主人公がパソコンや携帯電話のない世界に行くせいか、せわしない日常からとてもいい感じに切り離してもらえたなと思います」

第7位『コリーニ事件』 

吉井「先に読んだ短編集の『犯罪』『罪悪』がすばらしく、長編が出たと聞いてこれはもう絶対に読もうと。静かな淡々とした語り口で、派手な仕掛けとかがあるわけじゃないんですが、いいんですよこれが。深く迫ってくるというか、考えさせられるというか」

小佐田「これ、強く推したいです。若い人に読んでほしい。駆け出しの弁護士が初仕事で恩人を殺した犯人を弁護する羽目になって、それでも逆境のなかで真摯に仕事に向き合おうとする、その姿勢に打たれます。ドイツの法律を改正させることになった本でもあります」

第6位『遮断地区』

浦野「もともとファンなんですが、ウォルターズといえば嫌なやつばかりでてくるイメージなのに、この作品は閉鎖社会の暗部を舞台にしつつも登場人物にはいい人がたくさん。小児性愛者にまで共感を覚えてしまって。新境地の本作でやっぱりウォルターズは女王だと確信しました」

小佐田「はらはらどきどきが止まらないパニックサスペンス。キャラがたってて、とにかくおもしろかった! そうそう、冒頭近くに記事が挿入されていて、その最後の署名を見て、あっ、と思いました。処女作『氷の家』の登場人物アン・カトレルだったんですよ」

第5位『冬のフロスト』 

影山「フロストはこれが初読で、いままで自分はなんて損をしてたのかと。とことん下品でダサい警部なんだけど、それだけじゃなかった。傷を負った人たちを気遣う人情にじんときちゃいました。どうまとめるのか心配になるほど同時多発の事件の数々、でもこれ、リアルな警察の日常なんですよね」

吉井「話の面白さはもちろんですが、それよりなにより訳文のボキャブラリーが最高で。いったいこの言葉、原文はどうなってるの?って何度思ったことか。まったく透けて見えないんですよ。ここでは紹介できない訳語もありますが(笑)、もうね、たまりません。翻訳に感動!」

第4位『緑衣の女』

影山「『湿地』につづいて邦訳2作めとなるアイスランドの作品。ヤク中の娘を持つ主人公の警部が、いい味だしてます。陰惨なDVの描写が出てくるんですが、過去のどろどろや家族のどろどろが事件に暗く関わってくるこの雰囲気、あ、日本のミステリーにすごく似てる!って思いました」

小佐田「とてもミステリーらしいミステリーです。誕生会で子供がなにか手に持ってて、『それ、骨だよ!』ではじまるんですよね。科捜じゃなく考古学者がじっくり調べてるあいだに、戦時と現在の両側から砂をとり崩すように話は進み、結末が見えたと思ったら、最後の大どんでん返しにやられました」 

第3位『シスターズ・ブラザーズ』

影山「ゴールド・ラッシュの時代。シスターズという姓の殺し屋兄弟が『西にいって1人殺ってこい』とオクラホマのボスに言われて出かけるんですよ、馬に乗って。道中、二人のすることは残酷きわまりないんですが、語りのせいかじつにまったりのんびり、ほのぼのと言っていいような雰囲気で進んでいきます」

浦野「殺し屋兄弟のうち、おっとり者で心根の優しい、だけどキレるとヤバい弟が語り手。ノワールのような、西部劇のような、でも途中にファンタジーっぽいエピソードもあって、なんとも独特な世界です。長い旅を終えた最後のシーンがわたしは好きでした。そこでほっと救われた気がします」

第2位『ゴーン・ガール』

大賞と読者賞の両方を惜しくも次点で逃したものの、本国でもベストセラー記録を更新し続けたこの作品は、昨年のミステリー界でもっとも話題を呼んだ一冊でした。上巻から下巻に移った瞬間の衝撃はまさに破壊的。

こちらは訳者の中谷友紀子さん×越前さんの対談でご紹介です。

越前「この作品と出会ったきっかけから聞かせてください」

中谷「師匠の田村義進さんから紹介いただいたエージェントさんを通して、ギリアン・フリンの二作目にあたる『冥闇』を訳させていただくことになりました。その訳出の最中に新作がニューヨークタイムズのトップリストに載ったと知らされて」

越前「ベストセラー連続記録がすごかったですね。なんども言うように、ぼくは『ゴーン・ガール』に投票したんだけど、理由はミステリー読者以外にも受け入れてもらえると思ったからです。普通小説としても読める。これ、結婚する前にぜひ読んだほうがいいって言う人がいたり、いや、これから結婚するなら絶対読むなって人がいたりするんだけど」

中谷「妻の語りと夫の語りで交互に進んでいくんですが、どちらもほんとにメンドクサイ人たちで。でも、ある意味、典型的な夫婦にも思えます。妻のエイミーはすべてを認めてもらわないと気がすまない女で、夫のニックはいちいち言葉にするのが面倒な男で」

越前「訳者はたとえ登場人物がイヤなやつであってもそいつと何か月かどっぷり付き合わなくちゃいけないわけで、そういう面ではどうでした? 感情移入しないようにするとか?」

中谷「いや、けっこう感情移入はしました。エイミーのほうに。引きこまれるというより、入ってこられるというか、とりついてくる感じです」

越前「内容はあまり語れない、読んで驚いてほしい話ですが、すでに映画化も決定してベン・アフレックが

ニックを演じるとか」

中谷「じつは訳出のときに、まさにベン・アフレックをあてて訳してたんです。ハンサムで顎のところが割れてるって記述があったので」

越前「たしかに、ベン・アフレックならアゴ割れてるね」

会場ではみんなでトレーラー映像も鑑賞しました。小説とはまったく異なるエンディングが用意されているとのこと、こちらも観にいかなくては。

 最後の最後、読者賞の『三秒間の死角』。これはもう、損したくなければ「問答無用で読みなさい!」

と、熱き指令がくだったところで、まだまだ話したりないままに時間切れのお開きとなりました。

終了後、数々の作品をあれもこれもとご購入いただき、抱えて帰ってくださったみなさんに感謝です。

また、準備から後片付けまで一手に引き受けてくださった紀伊國屋書店グランフロント大阪店のみなさん、本当にありがとうございました。そうそう、書店員Y嬢の締めの挨拶で「版元の倒産で絶版というお話のあった『古書の来歴』も3冊だけなんとか用意してます」とのサプライズが! なんと日本全国の紀伊國屋書店からこの日のために掻き集めてくださったのだとか。貴重な3冊はあっというまに大阪の読者の手に渡っていきました。

次回また、7月には読書会とのコラボで、10月には越前さんとのコラボで、紀伊國屋書店さんとイベントを開催させていただく予定です。大阪のみなさんも大阪未体験のみなさんも、ぜひ一度遊びに来てくださいね。

(完)

飯干京子(いいぼし きょうこ)

大阪在住。関西読書会世話人メンバーの1人。英語学校でTOEICや英文法の講師やってます。好きなもの牛乳。でも身長150cm。過去の訳書にグレッグ・ルッカ『逸脱者』『哀国者』『回帰者』、リンダ・フェアスタイン『焦熱』など

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