20130627043830.jpg 田口俊樹

 もう十何年もまえになりますが、オーストラリア人の若い女性とざる蕎麦を食べてたときのこと。

 その女性、日本語はぺらぺらで、箸もきちんと使えるんだけど、見ていると、蕎麦をつゆにたっぷんたっぷんに浸して、二、三本ずつつまんじゃ、おそるおそる口に運び、できるだけ音を立てないように、唇を蠕動運動させながら口中に送り込んで、もぐもぐやってます。

 見ていて、苛々しちゃってね、私。蕎麦ってな、こうやって食うんだとばかり、つゆをちゃちゃっとつけて、ずるずるすっぽんごっくん、と手本を示してやりました。

 その数日後、今度は四十代、五十代の女性たちとおんなじようにざる蕎麦を食べました。見ていると、みなさん、ずるずるずるずる、盛大に音を立てておられる。私が数日前に示したお手本どおりに。それを見て、つくづく思いました——女も歳を取ると、こうなるか。

 これって絶対、矛盾してますよね、私。

 そんな昔のことを思い出したのは、最近のパチンコはボタンを押したり、レヴァーを引いたりするからです。そうすることで、大当たりの確率がわかったり、最後に大当たりになったりするんです。別に押したり引いたりしてもしなくても、たぶん変わらないと思うんだけど。でも、いずれにしろ、ただ一度だけ押したり引いたりすればいいんです、それも軽くね。

 ところが、見ていると、血相を変えて、もう死に物狂いで、何度も何度も押したり引いたりしている(文字どおり、というと語弊がありますが)往生際の悪いお婆さんがいます。なんとも見苦しい。一方、同じことを若い娘がやっても、全然見苦しくない。むしろ可愛く見えちゃったりなんかする。

 これって絶対、矛盾して——ませんね、私。

 ただ単にお婆さんより若い女性が好きなんですね、はい。

 子育ての経験が豊富ってことで、チンパンジーの世界では年増に人気があるそうですが、ヒトの世界じゃ、やっぱ娘十八、番茶も出ばなですよね。それに異論を唱えるつもりは全然ありません。むしろもろ手を挙げて賛成しちゃいます。

 でも、ですよ、最近のアイドルって若すぎません? さすがにAKBも今はだいぶ大きくなったけど、そのほかの雨後の筍アルファベット三文字集団。聞くと、まだ中学生とか小学生っていうじゃありませんか、あなた。

 そりゃ年寄りより若いのがいいつったって、限度ってものがありそうな気がするんだけど。子供が色気のいの字もない、ひらひらの衣装を着けて飛んだり跳ねたりしてるのを見て、何が面白いんでしょう……って、はい、これって、ただただこっちが歳を取っただけの話ですね。

 歳を取ると、時間の経つのが早いって言いますが、ほんと、こないだどうにか年を越せて正月に餅食って酒飲んで浮かれてたら、もう十月の声。

 ということで、翻訳ミステリー大賞の投票準備をしていただく季節となりました。前置きがすご〜く長くなりましたが、実はそういう話だったんです。

 翻訳者のみなさん、今年もなにとぞよろしく! 

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)

 20130627043831.jpg  横山啓明

板橋区立美術館で

『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』

という展覧会をやっています。近々行く

予定でいます。

先日、スパンアートギャラリーへ行ったとき、

ギャラリーのオーナーが丁寧に絵の説明を

してくれました。はい、彼こそ、種村季弘氏

のご子息、品麻氏です。

そういえば(と、ここで本棚へ)2012年の

ミステリマガジン12月号「ゴシックの銀翼」

に品麻氏のエッセイが載っていましたね。

展覧会へ行く前に予習ということで

『幻想のエロス』『影法師の誘惑』

『土方巽の方へ』などお気に入りの本を

読み返しています……が、そろそろ、

翻訳ミステリー大賞の投票が迫ってきたので、

積ん読状態のミステリーも消化しなければ。

あー、時間がほしい。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco

 20130524023841.jpg 鈴木恵

この間に読んだ新刊のなかでとりわけ面白かったのが、ジョエル・ディケール『ハリー・クバート事件』。殺されたノラとはいったいどんな少女だったのか。強烈な謎に引っぱられて読みおわるまで、ほかのことが手につかず、おかげで馬券を買わずにすみました。ありがとう。しかもこれ、個人的にはちょっぴり胸キュン小説でもありまして、事件が起きたのとほぼ同時代の1976年当時、一部に熱狂的なファンを生んだ映画《白い家の少女》のジョディ・フォスター(今のじゃありませんよ)をノラに脳内キャスティング。しあわせな読書でした。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:ウィンター『自堕落な凶器』 バリー『機械男』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM

  20130912093838.jpg  白石朗

 大森望・牧眞司編『サンリオSF文庫総解説』がすばらしい。各作品のレビューがどれもこれも錆びかけた記憶中枢のツボをいちいち直撃、仕事中も読み耽ってしまう。この文庫の創刊は1978年。同年大学生になったこともあってほぼリアルタイムで買って読んでいた。思い出深い作品も多い。いまも大半は手もとにあるけれど……『眩暈』『はざまの世界』を借りてった人、怒らないから返しておくように。

 それとは無関係に、フランク・ダラボン監督、トム・ハンクス主演の映画『グリーンマイル』がようやくBlu-ray Disc化されて、12月に発売とのこと。DVDが廃盤状態だったので待ち望んでいた人も多いのでは(あ、DVD版も同時に再発されるようです。かくいうぼくもそのひとり。今年はキングの原作『グリーン・マイル』(こちらはナカグロあり)も、藤田新策氏の装画に飾られた文庫上下巻というハンディな新装版として刊行されたので、あわせてお手にとっていただければ、と。

(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。最新訳書はヒル『NOS4A2—ノスフェラトゥ—』グリシャム『巨大訴訟』キング『11/22/63』アウル『聖なる洞窟の地』など。ツイッターアカウント@R_SRIS

  20131127082907.jpg 越前敏弥

 先日の『インフェルノ』特別読書会@大塚国際美術館では、作者がいくつか仕掛けたミスリードの罠のうち、訳者があまり意識していなかったものに、思いのほか多くの人が引っかかっていたことが判明。そうか、そうだったのか。こういうのって、ネタバレ全開の読書会だからこそわかることで、それだけでも徳島へ行った甲斐があったと思う。ネタバレ可の場所でしかできない翻訳の裏話もできて、すっきりしたし。

 参加者30名のうち、わたしのブログやこのサイトの案内ではなく、大塚国際美術館のサイトをまず見て申しこんでくれた人が5、6人いたことにも感動。美術には興味があるけどミステリーはほとんど読んだことがない人や、持ち寄り型の読書会の経験はあるけど課題書を読む形ははじめてという人、美術館のボランティアの合間に参加した人など、ふだんいないタイプの参加者の話もたくさん聞けました。

 こんなふうに、周辺の人たちを巻きこんでいけそうなイベントをまたやりたいので、アイディアがある人、教えてください。

 徳島特別読書会については、大阪読書会の世話人のみなさんが何回かに分けてレポートを書いてくれます。お楽しみに。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )

  20130222205223.jpg 加賀山卓朗

 A・S・ウィンター『自堕落な凶器』(年間翻訳技能賞もの)や、ジョン・アーヴィング『ひとりの体で』(バイセクシャルにもいろいろ)など感想を書きたい本もあるのだけれど、フィリップ・シーモア・ホフマン祭りが止まらなくなってしまった。稀代の名優ですね。

 私的No. 1をあげると、迫力No. 1は『ザ・マスター』、憑依No. 1は『カポーティ』、怖いNo. 1は『その土曜日、7時58分』、カワイイ(失礼)は『ビッグ・リボウスキ』、自然体は『マグノリア』、ほかにも『リプリー』とか『M:i:III』とか、『ダウト〜あるカトリック学校で〜』、『脳内ニューヨーク』、『マネーボール』……どんだけ出てるんだ。

 しかしながら、かっこいいNo. 1はダントツで来月公開の『誰よりも狙われた男』だと思います、商売抜きで(爆)。写真家でもある監督アントン・コービンが撮ったこの映画の写真集まで買ってしまいそうで我ながら怖い、そのくらいのインパクト。この方面が好きなかたはどうぞお見逃しなく。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)

20131128014219.jpg 上條ひろみ

 NHKの連続テレビ小説「花子とアン」は今週が最終週。翻訳者の大先輩、村岡花子さんがヒロインということで、毎朝興味深く視聴していました。「生きた証として、この本だけは訳したい」。ああ、なんてカッコイイのでしょう(うっとり)。朝から胸熱で、何度もウルウルさせられました(明日死ぬとなったら、妻が訳した本を読みたいと言ってくれる夫とか。現実ではありえない。宝塚か?)。村岡さんが空襲から原書を守り、敵性語にもかかわらず戦争中こつこつ訳したおかげで世に出ることになった『赤毛のアン』。わたしは子供のころ『赤毛のアン』を読んで翻訳もののおもしろさに目覚め、のちに翻訳者をめざすことになったので感無量です。

 その『赤毛のアン』シリーズにも登場するルバーブのお菓子を作ってみませんか? というわけで、ちょっと強引につなげてしまいましたが、10月4日(土)の翻訳ミステリーお料理の会・第三回調理実習、まだ若干空きがあります。お申し込みは→コチラ。まだルバーブを食べたことがない方も、すごくおいしいのでぜひ挑戦していただきたいです。ルバーブタルトもルバーブのデザートスープも絶品ですよ〜。

 ついでに、拙訳のお菓子探偵ハンナ・シリーズ第15弾は、現在鋭意ゲラ読み中&レシピ試作中です。

 それではみなさま、ごきげんよう、さようなら。

(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇)

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