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 続いて、64位〜100位の発表です。

【64位(11ポイント/2票) 16作】

  • 『密室』シューヴァル&ヴァールー(スウェーデン)
  • 『タンゴステップ』ヘニング・マンケル(スウェーデン)
  • 『制裁』ルースルンド&ヘルストレム(スウェーデン)
  • 『冬の生贄』モンス・カッレントフト(スウェーデン)
  • 『犯罪心理捜査官セバスチャン』ヨート&ローセンフェルト(スウェーデン)
  • 『スミラの雪の感覚』ペーター・ホゥ(デンマーク)
  • 『スノーマン』ジョー・ネスボ(ノルウェー)
  • 『死者の声なき声』フォルカー・クッチャー(ドイツ)
  • 『きたれ、甘き死よ』ヴォルフ・ハース(オーストリア)
  • 『黒のクイーン』アンドレアス・グルーバー(オーストリア)
  • 『両シチリア連隊』アレクサンダー・レルネット=ホレーニア(オーストリア)
  • 『判事と死刑執行人』(裁判官と死刑執行人)フリードリヒ・デュレンマット(スイス)
  • 『オリーブも含めて』アンドレア・ヴィターリ(イタリア)
  • 『盗まれた夢 モスクワ市警殺人課分析官アナスタシヤ』アレクサンドラ・マリーニナ(ロシア)
  • 『アムステルダムの異邦人』ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク(オランダ)
  • 『パウリーナの思い出に』(短編集)アドルフォ・ビオイ=カサーレス(アルゼンチン)

 『スミラの雪の感覚』は1993年のガラスの鍵賞(北欧最優秀ミステリ賞)受賞作。

 『制裁』は2005年のガラスの鍵賞受賞作。

 『きたれ、甘き死よ』は1999年のドイツ・ミステリ大賞受賞作。

【80位(10ポイント/1〜2票) 6作】

  • 『妖女ドレッテ』ワルター・ハーリヒ(ドイツ)(2票)
  • 『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ(アルゼンチン)(2票)
  • 『探偵ダゴベルトの功績と冒険』or「奇妙な跡」バルドゥイン・グロラー(オーストリア)(2票)
  • 『楽園を求めた男』マヌエル・バスケス・モンタルバン(スペイン)(1票)
  • 『顔に傷のある男』イェジィ・エディゲイ(ポーランド)(1票)
  • 『ペンギンの憂鬱』アンドレイ・クルコフ(ウクライナ)(1票)

 『妖女ドレッテ』は江戸川乱歩が戦前の一時期、日本の探偵小説はこの作品の方向を目指すべきではないかとまでいったほどのドイツミステリの古典的名作。

 探偵ダゴベルト・シリーズの短編「奇妙な跡」は江戸川乱歩編『世界短編傑作集』第2巻(創元推理文庫、1960年)などで読める。

【86位(9.5ポイント/2票)】

  • 『ネルーダ事件』ロベルト・アンプエロ(チリ)

【87位(9ポイント/1〜2票) 5作】

  • 『スミルノ博士の日記』S・A・ドゥーゼ(スウェーデン)(2票)
  • 『夜と灯りと』(短編集)クレメンス・マイヤー(ドイツ)(1票)
  • 『ブラックアウト』マルク・エルスベルグ(オーストリア)(1票)
  • 『捜査』スタニスワフ・レム(ポーランド)(1票)
  • 『最後の証人』金聖鍾[キム・ソンジョン](韓国)(1票)

 戦前の日本で高い評価を受けていたスウェーデンミステリの古典、『スミルノ博士の日記』はほかに『小酒井不木探偵小説全集』第6巻(翻訳集1)(本の友社、1992年)でも読むことができる。

【92位(8.5ポイント/2票)】

  • 『催眠』ラーシュ・ケプレル(スウェーデン)

【93位(8ポイント/1票) 6作】

  • 『パパ、ママ、あたし』カーリン・イェルハルドセン(スウェーデン)
  • 『カイウスはばかだ』ヘンリー・ウィンターフェルト(ドイツ)
  • 『祖母の手帖』ミレーナ・アグス(イタリア)
  • 『Q』ルーサー・ブリセット(イタリア)
  • 『枯草熱(こそうねつ)スタニスワフ・レム(ポーランド)
  • 『アウェイゲーム モスクワ市警殺人課分析官アナスタシヤ』アレクサンドラ・マリーニナ(ロシア)

【99位(7.5ポイント/2票)】

  • 『笑う男』ヘニング・マンケル(スウェーデン)

 ヴァランダー警部シリーズ第4作。

【100位(7ポイント/1票)7作】

  • 『踊る骸(むくろ) エリカ&パトリック事件簿』カミラ・レックバリ(スウェーデン)
  • 『グルメ警部キュッパー』フランク・シェッツィング(ドイツ)
  • 『謝罪代行社』ゾラン・ドヴェンカー(ドイツ)
  • 『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム(ポーランド)
  • 『火葬人』ラジスラフ・フクス(チェコ)
  • 『ペトロフカ、38』ユリアン・セミョーノフ(ソ連)
  • 『影のドミノ・ゲーム』パコ・イグナシオ・タイボ二世(メキシコ)

 『踊る骸(むくろ)』はすでに6作邦訳されているエリカ&パトリック事件簿シリーズの第5作。10月にはシリーズ第7作『霊の棲む島』が邦訳出版予定。

 『謝罪代行社』は2010年のフリードリヒ・グラウザー賞(ドイツ語圏推理作家協会賞)受賞作。

 ロシア(ソ連時代含む)からは58位にドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』が入ったほか、64位にアレクサンドラ・マリーニナ『盗まれた夢』、93位に同作者の『アウェイゲーム』、100位にユリアン・セミョーノフ『ペトロフカ、38』が入った。アレクサンドラ・マリーニナはソ連崩壊後の1993年にデビューしたミステリ作家。モスクワ市警殺人課分析官アナスタシヤ・シリーズが6冊邦訳されている。先に邦訳されたのは『盗まれた夢』だがこれはシリーズ第3作で、『アウェイゲーム』がシリーズ第2作。第1作は邦訳されていない。現代ロシアの代表的なミステリ作家にはほかにボリス・アクーニンがいる。ファンドーリンの捜査ファイル・シリーズが3作訳されており、今回のアンケートでも票を投じた方はいたが、ベスト100には入らなかった。

 日本での邦訳状況だけを見ると「ソ連ではSF小説は盛んだったが、ミステリ小説はなかった」と勘違いしてしまいそうだが、実際はスパイ小説も含めるのならば、ソ連ではずっとミステリ小説が書かれ続けていた。1940〜50年代にかけてはニコライ・シパーノフ(1896-1961)がソ連のシャーロック・ホームズを生み出そうという意気込みで探偵ニール・クルチーニン・シリーズを書いていたし、1950年代半ばからはアルカージー・アダモフ(1920-1991)らが警察による集団的捜査をリアルに描く作品を発表。1960年代には、謎とその解決に重点を置いたフーダニット物を執筆するパーヴェル・シェスタコーフ(1932-2000)、ヴィクトル・スミルノフ(1933- )、ニコライ・レオーノフ(1933-1999)らがデビューしている。以上に挙げた5人は邦訳はない。ユリアン・セミョーノフ(1931-1993)はソ連時代の人気ミステリ作家。1950年代後半に作家デビューし、1960年代に入ってからミステリを書き始めた。『ペトロフカ、38』は1963年の作品で、日本では1965年にポケミスで出版されている。モスクワ警察特別捜査班の刑事3人が強盗事件を捜査する話で、ユーモアありサスペンスありの傑作である。

※107位以下は筆者のサイトにまとめてあります(非英仏語圏ミステリベスト100)。

「非英仏語圏ミステリベスト100」結果発表、「その4」では、北欧ミステリベスト10、ドイツ語圏ミステリベスト10、「その他」ミステリベスト10、および作家ランキングを発表します。

松川 良宏(まつかわ よしひろ)

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 アジアミステリ研究家。『ハヤカワ ミステリマガジン』2012年2月号(アジアミステリ特集号)に「東アジア推理小説の日本における受容史」寄稿。「××(国・地域名)に推理小説はない」、という類の迷信を一つずつ消していくのが当面の目標。

 Webサイト: http://www36.atwiki.jp/asianmystery/

 twitterアカウント: http://twitter.com/Colorless_Ideas

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