全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 去年、翻訳者の三角和代さんが当サイトに書かれた記事【疲れを忘れるくらい疲れることをする人たちのお話『ウィンブルドン』】を覚えてらっしゃる方も多いと思います。その熱い想いが届いたのか、このたび奇跡の復刊! 神様、東京創元社さま、ありがとう!!!

 というわけで今回は、37年前のテニスの王子様(?)の愛と青春、スリルとサスペンス、そして一瞬も見逃せない迫力ある試合描写で最後の一ページまで手に汗握ること間違いなしの、ラッセル・ブラッドン『ウィンブルドン』(創元推理文庫)をご紹介します!

 主人公は、オーストラリア・チャンピオンのゲイリー・キング(23歳)と、ソ連チャンピオンのヴィサリオン・ツァラプキン(17歳)という、2人のプロテニス・プレイヤー。彼らは、キングの母国で開かれたトーナメントで出会います。

 かつて選手だった母のもとで育ち、すでにプロとしての意識が高く、ダイナミックなプレイで観客を魅了するキング。

 かたや、子供のように素直で愛らしい少年ツァラプキンは、美しいフォームで華麗なプレイを見せ、ストイックな態度で試合に臨み、国家の思惑を越えてただただテニスをすることを楽しんでいます。

 タイプは違う2人の天才同士の初対戦後、キングはツァラプキンに海パンを放り、2人乗りのバイクで海に行きます。幼い頃から練習に明け暮れて友達がいない彼らは、言葉は交わせなくても、ごく自然と心を通わせたのでした。

 その後世界のトーナメントでめきめきと頭角を現したツァラプキンは、ある事件が発端で、オーストラリアに亡命します。詳しくは書きませんが、このくだりのツァラプキン、もうね〜、読んでて顔が赤らむほどほんっと純愛なんですよ!!! ここからキングは彼の保護者で父親がわりで友人でライバルになるという特殊な状況になり、一家も一丸となって全力で彼らをサポートすることに(追い討ちをかけるように、キングの両親がすごい台詞をガンガン繰り出すので乞うご期待!)。

 それからというもの、2人は一心同体で世界をまわります。まだ言葉が不自由な相棒の代わりに、キングは飛行機の予約等を担当、その代わりにツァラプキンは洗濯や身の回りのものを用意するという、もう冷静ではいられないこの設定は一体……。ふと思ったんですが、キングとツァラプキンの年まわりって、宗方コーチと岡ひろみとほぼ同じなんですよ! 本書が出たのが1977年、日本ではまさに『エースをねらえ!』が連載中で大ヒットしていた頃だったんですね。あのころは高校生になったら藤堂さんやお蝶夫人みたいな人がいるんだなあと思ってましたが、実際はそんなわけはないというか、今考えたら尾崎さんの諦観ぶりとか全然10代の男の子じゃないんですが(笑)。

 脱線してしまいましたが、亜麻色の髪の美少年ツァラプキンは、行く先々で大人気を博します。順位もどんどん上がっていきますが、いいテニスにこだわる彼は、相手のペースを乱したり駆け引きで勝利を得るような、いわゆる大人の試合を嫌っていたものの、トップに近づくにつれ、いつかは避けて通れないことを痛感します。そしてついには全テニスプレイヤーの憧れ、ウィンブルドンで世界の頂点に達する日がやってきました。

 さあこれから待ちに待った決勝戦! どんな試合になるのか! 勝つのはどっち!? と思ったところがほぼ全体の半分。どっち応援したらいいのかしらなんて、試合にドキドキした途端に事件発生! そうだったこれミステリーだったんじゃん……(ボケ)。そのぐらいもう2人のスポーツ青春ものとして読んでたんですが、しかしそこからがお立ちあい! 全世界が見守るテニスの頂上決戦。エリザベス女王も観戦する中、ある人物の策略で、冷酷非情な犯罪計画の幕が切って落とされます

 ここからは、未読の方のお楽しみとして口をつぐんでおくにこしたことはないですが、ほんのちょっとだけ書きますと、犯人とそれを阻止せんとする人々との攻防には、ネットをはさんで飛び交うボールを追うように、読んでいる私たちも交互に揺さぶられ続けます。そして最後にこの犯罪の真相が明かされた時の衝撃。その歪んだ情念は、主人公2人と対比されることによりさらに暗さが増し、戦慄せずにはいられません。

 それにしても、文章だけでスポーツの臨場感があそこまで描ききれるとは! 現在、書店で平積みになっているはずのこの傑作本、ぜひ読んでくださいね!!

 観客でいっぱいの競技場における犯罪映画といえば、『パニック・イン・スタジアム』『ブラック・サンデー』などが有名ですが、ここでは国境を超えた2人のライバル同士がスポーツを通して繰り広げるドラマ『ラッシュ/プライドと友情』(2013/米・独・英)をご紹介します。実在のF1レーサー、イギリスのジェイムズ・ハントとオーストリアのニキ・ラウダという2人が、栄光と挫折、トラブルと再起を経験し、(いい感じに腐りつつも)深い友情を育んでいくさまを描いた作品です。実はこれも時代背景が『ウィンブルドン』と同時期なので、キングとツァラプキンを思い浮かべながら、当時の服装や髪型、使用されるヒット曲なども楽しんでみてはいかがでしょうか。

『ラッシュ/プライドと友情』予告編

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 Twitterアカウントは @suttokobucho

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