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【写真】会場の立教大学 ©Marei Mentlein

 先日行われた北欧ミステリーフェス2014につきまして、ドイツ大使館文化サイト「Young Germany」にレポート記事を書きました。

 媒体の性質上、上記記事【天の巻】はどうしても一般論的な内容にならざるを得ません。実際には一般論を踏み越えた領域での感想もあるので、この場を拝借してそのあたりを記述してみたいと思います。

【1:非ミステリ業界系の参加者・関係者はどのくらい楽しめたのか?】

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【写真 ©Marei Mentlein】

 日本の文化趣味市場にて、「北欧」はインテリア・アート・観光といった領域で確固たるブランド力を発揮しているため、わざわざミステリに頼って文化的アピールを行う必要がない。だからこれまで、北欧諸国大使館の文化担当者は、エンタメ文芸を積極的にはアピールしていない模様です。

 それゆえ今回のイベントについて、「大盛況でよかった!」と全員で言いつつ、本当に状況の楽しさを満喫したのが、実はミステリ業界系の参加者だけだったりしたらちょっとマズい。北欧文化趣味の人や外交関係の皆様が、「いやー、ミステリ業界の人って濃いですよね。圧倒されちゃいました〜(^_^;)」という感じで終了していたらいかんかもー、などと勝手に気を揉んでいる次第です。

 こういうイベントは、実はミステリ業界外にミステリの魅力をアピールする格好のチャンスです。本そのものの面白さ以上に、「この業界は、この人たちはなんだか面白そうだ。もうちょっと付き合ってみっかな…」と外部の人に感じさせるような、天岩戸伝説的な引力を放つことが出来たのか…?

 とはいえ、伝道のヤル気が昂じすぎて無理強いみたくなってもよろしくない。そうなるとむしろ嫌われてしまいます。このあたりのさじ加減が難しいですね。

 ちなみにドイツ文芸の場合、このような素敵最終兵器の威力により、ドイツ文化センターおよびドイツ大使館が味方となってくれて、現在、安定的かつ継続的に面白文芸アピール活動を展開できる状況です。

 まあ、ドイツの話は個人的資質のジャンル無用的な凄さがカギとなっている事例ゆえ、他にそのまま応用できる話ではないけど、自分に何か協力できる余地があれば是非したいと思っています。

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【写真】2日目イベントの開会挨拶、スウェーデン大使館のアダム・ベイェさん。

彼の独特のキャラクターは外交業界内でひそかに有名で愛されている!^^ ©Marei Mentlein

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【写真】代官山蔦屋書店でのイベントの模様。 ©Marei Mentlein

【2:ああ、事前に知っていれば!】

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【写真 ©Marei Mentlein】

 堂場瞬一さんの「北欧ミステリー聖地巡礼」のコーナーで、『特捜部Q』シリーズの舞台となるコペンハーゲン警察署の外観を紹介し、「この半地下になっているあたりが特捜部Qの場所っぽいんですけどねー」という話をされていたのですが——

 実は私、あの中に入ったことがあります。

 しかも実際に特捜部Qのモデルとなった部屋を見ました。

 写真も撮りました!

 冗談でしょうけど、アサド用ミニ絨毯もありました!(笑)

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【写真】コペンハーゲン警察本部の半地下、特捜部Qエリアの廊下。雑然とした雰囲気はまさにあの作品世界そのまま。左側奥に見える旗は署内郵便セクションの標識。男性はコペンハーゲン警察・広報担当のHansenさん。とても親切で、本文中にあるように凄いミステリファン!^^ ©Marei Mentlein

 これはミステリマガジン誌2012年5月号に掲載されたのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、ドイツのキールにある実家に帰省した際、コペンハーゲン警察にメールで取材を申し込んだら思いのほか歓迎されたのです。しかも署内を案内してくれた現職の警察官の方が大のミステリマニアで、

「特捜部Q、何巻まで読んだ? ドイツ版は3巻までしか出てない? 残念だねー。4巻がちょー面白いんだから!」

「もちろんユッシ・エーズラ・オールスンはここに見学に来たよ。そうそう、だから描写がけっこうリアルなんだけど、実は、わざと実際と違うように書いている箇所もあってね……」

 とか、おもしろ話が尽きなくて大変でした。

 ああ、事前に今回の演出の件を知っていれば! 事前に堂場さんにいろいろ話題と資料を提供できたのに、と残念です。

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 ちなみにコペンハーゲン警察と同様、マンケルの「ヴァランダー警部の里」スウェーデン南岸の町イースタと、ネスボのハリー・ホーレ警部シリーズの舞台となるオスロの探訪写真もあるので、機会があればお見せしたいと思います。というか、また北欧ミステリイベントがあれば自分で持って行けばいいのか!(笑)

【写真】「ヴァランダー警部の里」イースタ訪問時の一枚。小さな街にも楽しいアート系装飾があるのがさすが北欧!^^ ©Marei Mentlein

【3:ちょっとしたドイツミステリとの比較】

 先日、ドイツミステリ『沈黙の果て』(シャルロッテ・リンク)のレビュー記事を書きました。実はこの作品は、カミラ・レックバリの『氷姫』と同時期に発表されており、完璧主義の女性が被害者になる、という妙な点で共通しています。

 双方とも、その完璧主義性が犯行をめぐる心理の深い底流になっているのですが、『氷姫』の完璧主義の背景が割と個人的なものである一方、『沈黙の果て』の場合、「ああ、ドイツ人の場合はやっぱりね…」という共通認識に収束しながら盛り上がる点が対照的で、このあたり、なにやら社会的な気質の違いが明確に窺えて面白いです。

 そう、エンタメ文芸は比較文化的な視点から読むといろいろな本質がメタ的に見えてくるのが面白い。あまり安直な類型・ステレオタイプ的な方向に突き進むのはよろしくないけれど…(^_^;)

 ……と、私の業界的所見はこんな感じです。

 そして【天の巻】と同じく、関係者の皆様のご意見をここで紹介させていただきたく思います。

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【古市真由美さん:翻訳家】

日本に多い、いわゆる「北欧ファン」に、どうやって「(北欧)ミステリファン」になってもらうか、これはわたしたちの大きな課題だと思っています。

 今回、「北欧は大好きだけどミステリはよくわからない」という皆さんもご来場くださり、そんな方々にミステリへの扉を開くという意味では、一定の意義があったかなと感じています。

 今後同種の企画があるなら、誰をターゲットに何を目標とするか、明確に絞るといいのかも。たとえばひとつのイベントの中で時間帯によりターゲットを変え、趣向も変える、なんていうのも「あり」でしょうか。運営が大変かもしれませんが。

【写真】 左から古市真由美氏(フィンランド語:「マリア・カッリオ刑事」シリーズ等)、ヘレンハルメ美穂氏(スウェーデン語:「ミレニアム」シリーズ等)、柳沢由 実子氏(スウェーデン語:「ヴァランダー警部」シリーズ等) ©Marei Mentlein】

【堂場瞬一さん:作家】

 海外の警察の方がオープンなのは、今回の取材旅行で実感しました。逆にオープン過ぎて不気味になり、日本の警察の秘密主義が懐かしくなったぐらいです。

【佐藤香さん:集英社】

 小説の中にある場所に行くのってとてもドキドキしますよね!

 私もジェイムズ・トンプソンに出てくるヘルシンキの通りや酒場などを歩き、ひとりで謎の写真を撮るあやしい観光客となったことがあります。

 そうそう、トンプソンといえば、『白の迷路』が12月16日に発売されます。

 宣伝、失礼いたしました。

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【金関ふき子さん:集英社】

●北欧5大使館のかたがたと、出版社の東京創元社のみなさま、映像関連のお仕事をしているかたなどと、力を合わせたわけですが、学園祭を思い出しました。楽しかったです。

●文化の違う北欧の国とそのお人柄を垣間見られたような気がしました。

●来日作家のケアもしていたので、特に当日はうまく動けませんでした。身体がふたつあればいいのに、と何度も思いました。

●日本語で広めることにおいては、やはり出版社が主導になるので、おもったより仕事量が多かったです(進行台本作りとか、プログラムとか、出演者の交渉とか)でも、今となってはいい思い出。

●杉江松恋さんにご参加いただけたことで、この会が成功に近くなったと思いま す。感謝してもしたりないくらい。みな、そう思っていると思います。

●堂場瞬一さんのお話が抜群に面白かったです。

●北欧ミステリーを日本に広めるのに、ほんの少しお役に立てたかと思います、 それが心の支えでした。

●また来年もやってほしいです。今度はサブのお手伝いします。

【写真】立教大学イベント司会:杉江松恋氏 ©Marei Mentlein】

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 ありがとうございます!

 終わった直後にもちろん打ち上げとかはあるのだけど、このような「想いがにじむ」感想の数々を読むと、少し時間が経って落ち着いた頃に所見を述べ合う場があっていいかな、という気もします。

 そんな感じで一種のお手伝いが出来たのであれば、私としても嬉しいです。

 ではでは、今回はこれにて Tschüss!

(2014.12.13)

マライ・メントライン(Marei Mentlein)

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 ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介される場合が多いが、自国の身贔屓はしない主義。猫を飼っているので猫ラブ人間と思われがちだが、実はもともと犬ラブ・牛ラブ人間。

 ツイッターアカウントは @marei_de_pon

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