他人に本棚を見られるのは人前でパンツを脱ぐことのように恥ずかしい、と言ったのは群ようこだっただろうか(のっけからウロ覚えで恐縮です)。

 でも、毎日どんな本を読んでいるのかは人に知られても別にいいかな〜というより、翻訳ミステリー布教(「不況」とか言っちゃダメ!)のためにむしろ積極的に知らせていきたい! ということで、毎月読んだ本から何冊かピックアップして、読書日記という形でご紹介させていただきたいと思います。とくにテーマもこだわりもなく、レビューと呼ぶにはおこがましい、ゆる〜い内容ですが、どうかおつきあいくださいませ。

 まあ、日記を公開するのも恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけどね。

 古いのも新しいのもごちゃまぜで読んでいますので、何が出てくるかはお楽しみということで。

 ■1月×日

 食べ物系コージーは実にバラエティに富んでいて、大好きなジャンル。

 リヴィア・J・ウォッシュバーン『焼きたてマフィンは甘くない お料理名人の事件簿』の売りは、主人公がお料理上手のおばあちゃんというところだろう。おばあちゃんといっても六十代で、まだまだ若いけどね。

〈お料理名人の事件簿〉シリーズの五作目です。

 元中学校教師のフィリス・ニューサムは夫の死後、自宅で下宿屋をはじめ、いずれも元教師という同年代の下宿人たちとおだやかで愉快な老後をすごしている。

 これがこのシリーズの基本設定。

 お料理上手でイベントがあるたびにおこなわれる料理コンテストにはかならず参加するフィリス。今回は収穫祭の料理コンテストにパンプキン・クリームチーズ・マフィンを出品するも、お祭りの飾り用のカカシに見せかけた男性の死体を発見してしまう。死んでいたのは現役教師の夫で、その死体の口にはなぜかフィリスのマフィンがはいっていた。

 今回はかわいいけど手のかかる孫のボビーを預かりながらの探偵活動で、さすがのフィリスもお疲れの様子。四歳男児の世話はおばあちゃんひとりではさすがにきつそうだけど、こういうとき下宿人がいると助かります。みんな元先生だから子供の世話ならお手のものだし。

 なんかね、フィリスが実に品のいいおばあちゃんでいいんですよ。ボーイフレンドもちゃんといるしね。

 素朴な家庭料理がたくさん出てきて巻末にレシピもついてます(ちなみに甘くないマフィンは出てきません)。

 おばあちゃん探偵といえば、もっとはっちゃけたキャラのコリン・ホルト・ソーヤー〈海の上のカムデン騒動記〉シリーズも好き。

 ■1月×日

 ポール・アダムの『ヴァイオリン職人の探求と推理』がめちゃくちゃおもしろかったので、シリーズ二作目の『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』は期待度MAXで読みはじめたけど、結果は……期待値を上回るおもしろさだった。それってすごいと思う。

 イタリアのヴァイオリン職人兼修復師ジャンニが、殺された美術品ディーラーが残した黄金の箱の謎をさぐることで、殺人事件の解決にひと役買う。いや、ひと役買うどころか、ほとんど警察顧問みたいな感じ? ジャンニが捜査に口をはさんでも、グァスタフェステ刑事は全然いやがらないし、むしろすすんでジャンニに情報を流し、捜査に同行させて外国にまで連れていっちゃうんだから。

 このイタリア警察のゆるさにはちょっとびっくり。でも嫌いじゃない。素人探偵はたいてい警察に悩まされるけど、それがけっこうストレスだったことにこのシリーズを読んで気づいた。まあ、グァスタフェステはジャンニの友人でもあるけどね。

ちなみにグァスタフェステは四十代なのに、六十四歳のジャンニといっしょにいると、なんだかすごい若造感。どこか危なっかしい感じさえする。それだけジャンニの現役感が強いってことかな。

 今回はパガニーニの波瀾万丈の生涯と、彼にまつわるエピソードが謎解きの鍵になっていて、読んでいてとても興味かった。

 ジャンニは若きロシア人ヴァイオリニストの悩みも解決しちゃうし、相変わらずいぶし銀の魅力。料理ができるのもポイント高い。

 全然関係ないけど、二〇一四年に宝塚歌劇団星組が上演したミュージカル『眠らない男・ナポレオン』で覚えたポーリーヌとかウジェーヌとかミュラの名前がちょこっとだけ出てくるのも、ヅカファンとしてはうれしかった。役名だけで萌えられる、それがヅカファン。

 ■1月×日

 やっぱりジェフリー・ディーヴァーはページ・ターナーだ。

 分厚い! 二段組み! と思っても、気づいたら読み終えている。

『ゴースト・スナイパー』はリンカーン・ライムものの第十作目。

 例によって最後まで気が抜けません。

「どんな思想を持とうが許される地球上でただ一つの国」アメリカ。

 そのアメリカを憎むテロリストかもしれない男がバハマで暗殺され、ライムたちチームは科学捜査を依頼される。

 テロリスト予備軍とはいえいちおうアメリカ市民だからね。

 ということは、ライムたちが挑む相手はアメリカ合衆国政府?

 証拠オタクのライム、今回は初の海外旅行でバハマに飛びます。

 だって現場がバハマだし、物的証拠をうやむやにされたくないから。

 アポなしでバハマ警察に乗りこんだり、悪者と格闘したりといつになくアクティブで、介護士のトムはもちろん読んでいるこっちもハラハラしましたわ。

 そのころサックスはニューヨークで犯人に接近。間一髪で難を逃れながら危険な駆け引きを続行中で、こちらもハラハラ。

 というわけでページが進む進む。

 犯人はゴースト・スナイパーと言うだけあって、犯行の証拠を消すその徹底ぶり、プロ意識は『ゴーストマン 時限紙幣』のゴーストマンにも通じるものがある。

 しかも料理の鉄人、いや達人で、愛用のナイフは貝印“旬”シリーズというこだわりよう。この人の作る料理、食べてみたいけど、食べたらそれが最後の晩餐になるね、たぶん。

 料理と言えば、バハマのハリケーン・カフェのコンク・フリッターも超おいしそうでした。ビールに合いそう。

 ■1月×日

 ずっと気になっていたジェイムズ・レナーの『プリムローズ・レーンの男』

 とくに予備知識なく読みはじめたら、ぶっ飛びました。

 まさかこういう話だったとは!

「予想の斜め上を行く展開に目が点になり続ける!!!」

「読まないと絶対に公開する唯一無二のエンターテインメント」

 と帯にあるけど、全然大げさじゃなかった!

 一年じゅうミトンをはめ、世捨て人のような暮らしをしていた老人“プリムローズ・レーンの男”が惨殺される。

 その四年後、妻を自殺により亡くし、失意の日々を送っていたノンフィクション作家デイヴィッドが、編集者の勧めでその事件を調べはじめると、死んだ老人と亡き妻のあいだに奇妙なつながりがあったことがわかる。

 まあ、そのあたりまでは、普通に読んでいけば、普通に謎が明かされるんだろうな、と思える展開。

 ところが!

 下巻途中あたりから怒濤の展開で、もうびっくりですよ。

「えええっ!」と二度読みしつつも先が気になってハイスピード読み。

 一瞬頭のなかがごちゃごちゃするけど、落ちつくといろいろ腑に落ちることもあり……

 いや〜やられた!

 たしかにこれは読んでいない人に説明するのがむずかしい本だ。

 とにかく「読んでみなはれ!」と(「マッサン」の鴨居社長風に)言うしかない。

上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、マキナニー〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。最新訳書はフルーク『シナモンロールは追跡する』。ロマンス翻訳ではなぜかハイランダー担。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇。