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 泣き出しそうな僕のために花吹雪が舞うTOKIO担の奥様、こんにちは。お花見のBGMは「Sakura」で決まりのアラシアンズなお嬢様、ごきげんよう。嵐なら「サクラ咲ケ」もいいですよ。ニノのソロパートがないのが不満だけど。そんな春爛漫の今回、お送りするのは2月分です。ええ、書き間違いじゃありません。2月分です。深く考えずに受け入れてください。

 まずはロマサスから。ロマンスの女王、ノーラ・ロバーツ『姿なき蒐集家』(上下)(香山栞訳・扶桑社ロマンス)です。作家兼ハウスシッターのライラが、シッター先のロンドンテラス(NYに実在する巨大アパート群)の部屋から向かいの建物で起きた殺人を目撃。被害者の兄である売れっ子画家のアッシュと知り合ってあんなことやこんなことがある(←雑な粗筋紹介)という、極めてオーソドックスなロマサスですね。

 しかしオーソドックスってのは実は偉大。ほら、暗殺者がそこまで迫ってるのにヒロインがバカだったりヒーローがヤリチ……げほげほっ、えっと、絶倫だったりすると「何やってんだよお前ら」ってイライラするじゃありませんか。でも人物造形が実に常識的(財力だけは非常識)で、そういうストレスはいっさいナシ。ロマンスのテンプレをきちんと抑えつつ、純粋にサスペンスの構造で盛り上げてくれます。クライマックスなんか息するの忘れるね。てか常々思ってたけど、ノーラってホットな場面より格闘場面の方が100倍上手い。

 そんなノーラの初期の傑作『サンクチュアリ』『モンタナ・スカイ』も2月に復刊されたぞ! 未読の方はぜひ。特にミステリ者には『サンクチュアリ』がオススメだ。(ていうか『サンクチュアリ』を取り上げるべきだったのではないかと今気づいた。余力があれば来月やるかも)

 コージーからはシャロン・フィファー『月夜のかかしと宝探し』(川副智子訳・原書房コージーブックス)を。アンティーク雑貨探偵シリーズの第4作です。ヒロインのジェーンはアンティークやコレクティブル(アンティークではないが蒐集価値のあるもの)の”拾い屋”なんだけども、この職業って、北森鴻の冬狐堂シリーズと同じようなもんだよね? いやあ、ジャンルと国が変わると同じ職業でも雰囲気がぜんぜん違うなあ。

 今回は、知り合いの農場から謎の骨が出たと聞いて駆けつけたジェーンが死体を発見するというお話なんだけども、うーん、このシリーズはコージーミステリとしてはツボを押さえててよくできてるんだけど、相変わらずヒロインの立ち位置がよくわからない。探偵の名刺を作ろうかってくらいなのに調査は行き当たりばったりだし、拾い屋としても自分の思い入れ優先でビジネスとしては首をかしげる部分が多いしなあ。まあ、探偵というより物語を動かす役目としてみればいいのかな。

 でもね、今回の読みどころは何と言っても動機ですよ。なんとなくほのめかされていた事情が、まさかそっちに転ぶとは! 昔から住んでるコミュニティが舞台のコージーならではの切ない動機です。もうひとつ、ジェーンと母のネリーがあるモノを前にあるコトを話す、今回のラストシーンは良かった。子供のいないあたしですら感じ入ったのだから、母親の皆さんはもっと染みるんじゃないかしら。

 エリザベス・L・シルヴァー『ノア・P・シングルトンの告白』(宇佐川晶子訳・ハヤカワ・ミステリ文庫)のヒロインは死刑囚のノア。35才。殺人罪で収監されて10年になる。本書は死刑執行日まであと半年となったある日、ノアのもとをふたりの弁護士が訪れる場面から始まり、現在と過去を行きつ戻りつしながらノアの人生が語られる。

 いやあ、これは一気読みだったわ。ノアの過去の話はいったいどこに向かってるのかわからず、読者はただ語られるままに追うしかできないし、構造も決してこなれてないんだけど、だんだんつながりがわかってきて事件へと至る道筋が少しずつ見えてくると心拍数が上がったね。

 物語のテーマは死刑制度の是非で、テーマがテーマだけにすっきりした解決はないだろうと思ってはいたけど、終章の歯切れの悪さと言ったら予想以上よ。もう、もにょるもにょる。これ、読んだ人と話し合ってみたいなあ。女性死刑囚の最後の数ヶ月と事件までの道筋、という点では先月紹介したハンナ・ケント『凍える墓』と読み比べてみるのも面白いかも。

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 今月の銀の女子ミスは、コリン・ホルト・ソーヤー『旅のお共に殺人を』(中村有希訳・創元推理文庫)だ! 大好きな《海の上のカムデン》シリーズの8作めにして、とりあえずの最終巻。本国での刊行に追いついてしまったそうで、コリンさん、ご高齢だし、もしかしてシリーズはここまでなのかなあ。悲しい。もっと読みたいよキャレドニア……。感謝と惜別の思いを込めてシリーズ全作対象に、20140923091323.png銀の女子ミスを贈呈します。特にあたしのオススメは『フクロウは夜ふかしをする』『ピーナッツバター殺人事件』のあたり。

 寂しさ満載で読み始めた本作は、おなじみカムデンの面々がメキシコツアーに繰り出し、当然そこで事件が起きるというもの。ジジババならではの旅行風景に何度も吹き出したね。謎解きの方は、まあ、犯人が自分からベラベラしゃべってくれるというお気楽加減だけども、それでも「あっ、あれってそういう意味だったのか!」と膝を打つ箇所は随所に。でもやっぱり最大の魅力は、キャレドニアたちの”生活”と”ものの見方”にある。

 以前、ダニエル・フリードマン『もう年はとれない』紹介したときにも書いたけど、おじいちゃんミステリは「若い頃と同じようにやれる自分」にこだわるのに対し、おばあちゃんミステリは「年をとった今だからできることを楽しむ」ってスタンスなのよね。抗ってないの。いろんなところが衰えて死が身近になって、そういうことをぜんぶ当たり前のこととして受け止めて受け入れて、その上で今日を楽しむおばあちゃんたちが最高。

 年寄りという名前でひとまとめにしがちだけど、それぞれ歴史と個性を持つ別々の人間であるということ。70歳も80歳も今の続きにあるのだということ。上手な歳の取り方ってのがあるということ。大笑いしながら、いろんなことを教わりました。ホントこのシリーズは最高のロールモデルだわ。こんなふうに歳をとりたい、こんなおばあちゃんになりたいと思わせてくれたシリーズでした。ありがとうございました。

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 そして金の女子ミスは、エルスベツ・イーホルム『赤ん坊は川を流れる』(木村由里子訳・創元推理文庫)に決定!

 本邦初紹介のデンマークの作家ですね。主人公は女性新聞記者のディクテ。そして彼女の親友で妊婦のイーダ・マリーと助産師のアネ。どういう話かというと──いやあ、これはもう木村由利子さんの訳者あとがきを引用するしかないでしょう。

《四十歳を迎えようとする彼女たち三人は、少なくとも外見はさっそうと仕事をこなす”できる”女達ではあるが、いずれも心に何ほどかの屈託を抱え、家庭との両立に悪戦苦闘しながら生きている。(中略)しかもパートナーがいながら、王子様を待ち焦がれている節がある。まるで乙女だ。これは謎解きを一要素に持った、四十乙女の成長と青春の物語なのだ。そして事件を通じてそれぞれいくらかの成長を遂げた彼女たちは、幸せな、少なくとも以前よりは不幸でない生活に戻る。次の事件が起きるまでは。》

 これぞ女子ミスではないか! あとがきによると女性作家が書く女性主人公のミステリを北欧では「フェミクリミ」というのだそうで、女性の日常生活に事件をからめているのが特徴。なるほど確かに、従来の猟奇で重くて不幸な北欧ミステリに比べると、生活描写が多い。そして同じフェミクリミであるカミラ・レックバリやレーナ・レヘトライネンに比べると「前向き度」が高く、ヴィヴェカ・ステンより展開が早い。まあ、まだ一作だけなので先はわかんないけど、少なくとも本書の読後感はかなりいいよ。読後感のいい北欧ミステリなんて、それだけでレアでしょう!(乱暴な決めつけ)

 ただ、これだけ読むとコージーなイメージを持たれるかもしれないが、事件はかなり重いよ。新生児の死体に赤ちゃん誘拐事件だもの。赤ちゃんにまつわる2つの事件の真相や如何に、というのが話の中核なわけだけど、いや、これ、テーマは別にあるね。「男はアテにならない」だ。

 イーダもアネも作中でかなりシビアな事実に直面する。したらばさ、いやもう、どっちも配偶者がチョー逃げ腰。違うタイプの逃げ腰メンズ。その果てにイーダは「夫っていらなくね? あたし全部自分でできるんじゃね?」と気づき、アネは「自分は慰め役で夫は慰められ役で、そういう役回りなのねあたしの人生(溜息)」と気づく。このくだりには思わず笑ったね。あ、男性の名誉のために言っときますが、いい男も出てきます。

 三人の女の物語がメインではあるけど、ミステリとしてもなかなか。事件の真相とヒロインの過去が重なるくだりは特にいい。今月の金のフェミクリミ、四十乙女の成長と青春の物語。今後も期待できそうですことよ奥さん!

大矢 博子(おおや ひろこ)

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  書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』(東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室』シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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