2015年3月14日、千葉県チバ・シティにおいて第9回千葉読書会が開催された。課題本はスティーヴン・キング著、白石朗訳の『グリーン・マイル』

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『グリーン・マイル』は1996年に6ケ月連続で毎月1冊ずつ全6冊の分冊形式で刊行されたスティーヴン・キングの小説である。翻訳は翌1997年に新潮社から同様の分冊形式で刊行され、全6冊の購入者には《オリジナルスクリーンセーバー》がプレゼントされた。対象OSはWindows(98,DOS/V)で、メディアは3.5インチの2HDのFDDだったのが思い出される。

(写真左:スクリーンセーバー収録のフロッピーディスク)

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 物語は監獄映画の巨匠フランク・ダラボンにより1999年に〈グリーンマイル〉として映画化されているため皆さんご存知の通り、1930年代にコールド・マウンテン刑務所の看守主任を務めていたポール・エッジコムの語りで進む。双子の少女を強姦殺害した罪で死刑囚として刑務所の死刑囚舎房に収監されたジョン・コーフィが起こした奇跡と、それを物語ることを運命付けられた男の物語である。

(写真右:上記スクリーンセーバーの画面サンプル)

 そんな『グリーン・マイル』の読書会のために日本全国からチバ・シティに駆けつけたのは、ゲストの白石朗氏を含めた全24名。参加者は女性の比率が少し高かった印象を受けるが、他の地域(札幌、東京、横浜、神戸に参加した経験から)の読書会と比較すると男性の参加者比率が多かったような気がする。

 会場に到着すると、世話人たちが準備の真っ最中。

 と言うのも、ゲストの白石朗さんからの各種プレゼントや、各参加者からの差し入れや資料が多く持ち込まれ、更に今回の千葉読書会は参加希望者が多く定員枠を若干増やしたこともあり、それらの準備で世話人たちはてんやわんやだった模様。

 今回の千葉読書会は、従来のように参加者を2つのグループに分け、グループ内で話し合った内容をベースに、他のグループに発表・説明し、質疑応答をするスタイルではなく、全体を1つのグループとして討議をすすめるスタイル。

 この読書会のスタイルについては、他の地域の読書会でも、参加定員数と時間配分にはさまれ、読書会の進行方法を試行錯誤しているようだが、千葉読書会として一石を投じた感があった。

 さて、読書会の内容についてだが、驚いた事にキングを初めて読む方が多かったのが印象的だった。話を聞いてみると、キングは翻訳ミステリーではないと思っていた、と発言する方が何名かいらっしゃった。千葉読書会はミステリーと言うジャンルにこだわりのある方が多いのかも知れない。無限にある小説からジャンルを手がかりに好みの小説を探す訳ですからね。

 その関係からか、『グリーン・マイル』をミステリーとして読み、ポール・エッジコムを《信頼できない語り手/Unreliable narrator》として捉え、実際に何が起きて、何が起きていないのか、を考察する場面が興味深かった。

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 また前述のように1999年にフランク・ダラボンにより映画化されていることもあり、映画は観たが原作は今まで読んでいなかった、と言う方も多かったような印象を受けた。これは映画化作品の宿命で、有限な人生を考えた場合、映画を観たので原作は読まなくて良いや、と言うことになってしまうのはいた仕方がないと思った。

(写真左:映画〈グリーンマイル〉プレスリリースと劇場用パンフレット)

 そこでは映画と原作の違いや、読書会に参加していない人が映画に激怒している話や、参加していない人が語った『グリーン・マイル』はキング作品の中で最も《恐い小説》である論、等の話題にも広がった。

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 また、ジョン・スタインベックの『ハツカネズミと人間』『グリーン・マイル』との相似性や、聖書からの引用や影響、特に《サウロの改心》の話題も興味深かった。欧米文学のキリスト教的背景や、それを知らないと解釈が困難な作品や、キリスト教的な背景を持っている人が思う、また《サウロの改心》かよ、的な話題も興味深かった。

(写真右:当日配布の資料の一部)

 読書会の終盤は白石朗氏からのプレゼントのじゃんけん大会や猟奇の鉄人氏からの古書プレゼント大会、ここでは言えない資料やオフレコ情報などが楽しい。

 場所を変えての懇親会は、読書会での話題が深く濃く進行し、また昨今の各国ミステリー事情、映画や小説、またはさまざまなオフレコ情報が飛び交っておりました。

 その後の懇親会二次会では若手諸君の非常にマニアックな嗜好を垣間見ることに。わたしが彼らの年齢の頃はなんにも考えていなかったですよ。末恐ろしいでございます。

 そんな末恐ろしい若手諸君が懇親会二次会でサイフをなくすと言うミステリー的な事象が複数起きるなんて。

 怖い恐い。そんな千葉読書会でございました。

tkr2000

 サラリーマン。北海道出身、大阪ときどき東京の二重生活。現在「スティーヴン・キング研究序説 ココログ分室」「ホンヤクモンスキーの憂鬱」他を運営中。ツイッターアカウントは @tkr2000

世話人よりひとこと(高山真由美)

 tkr2000さん、レポートをありがとうございました。

 本文中に出てくる、tkr2000さんが耳にされた「キングは翻訳ミステリーではないと思っていた」というご意見は、わたしにとっても意外でした。ひと口に「ミステリー」といっても、捉え方はほんとうに十人十色ですね。

 世話人自身はけっこう大雑把です。むしろみなさんから「え、これってミステリーなの?」「あれもミステリー扱いでOKなの?」といわれて驚いています。独自基準をひとつ披露しますと、物語を牽引する道具として〈謎〉が使ってあればそれはミステリーです。道具はひとつでなくともOK。〈謎〉が最大の道具でなくともOK。そう考えるとほら、あれもミステリー、これもミステリー。課題書も(もっといえばふだん読む本も、さらにいえば翻訳ミステリー大賞の一次投票のときも)そういうゆるーい基準で選んでいます。

 そうそう、ちなみに若手諸君のサイフはすべて当日のうちに見つかっていますのでご心配なく。この日は最後までドタバタ走り回りました(笑)。

 次回につきましてはきのう告知が出たばかり、6/27(土)『歌うダイアモンド』です。その次は10月下旬を予定しています。

 それでは、またチバ・シティでみなさまにお会いできるのを楽しみにしています。

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