昼は占星術師、夜は女性バーテンダーの探偵アシスタント

 数年前からリーディンググラスなしでは本を読めなくなってしまった。とくに夕方以降の電車で省エネのため蛍光管を間引きしているまさにその真下に立ってしまうと、まったく読めない。若いころから目が良かった人は早く老眼になるってほんとうだったのね……(自分はまだ若いとアピールするつもりはありませんが)

 そんなわけで移動時の読書はもっぱらキンドルになってしまったこのごろ。充電しわすれていて活字のない時間を過ごさねばならないときもあるけれど、何かと便利なのはまちがいない。今回ご紹介する Zanna Mackenzie の In the Stars も電車で読むキンドル作品を探していて見つけた。

 本作はアンバー・リード・シリーズ1作目。主人公アンバーは昼はローカル新聞で占星術師マダム・ザンバーとして占いコーナーの執筆を担当し、夜は女性バーテンダーに早変わりしてパブで働いている。切なる願いは「もっとエキサイティングな人生を送る」こと。周囲の友人や同僚はキャリアアップしてやりがいのある仕事に就いているし、学生時代の恋人エニスはいまや映画スターとなり、まさに人生の絶頂期にある。それに比べて自分ときたら、ほそぼそと占いの記事を書くばかりで、毎日の生活でいくらか華やいでいるのは、夜、田舎のパブでお客に飲みものを出すときくらいなもの。なんて平凡でつまらない人生なのだろう。

 ところが、ある日を境にアンバーの生活は一転する。ほかでもないエニスのきょうだいジョエルが不自然な死にかたをする。自殺か他殺か。ジョエルの死に疑問を抱いたエニスは、著名人の事件調査を手がける探偵事務所CCIAの探偵チャーリーを雇い、その調査の手伝いをアンバーにしてほしいと言ってきた。エニス自身がチャーリーを雇ったのに、彼を100パーセント信頼することができないからというのだ。それに地元の事情をよく知るアンバーがいると、チャーリーの調査に別の視点を加えられるかもしれない。

 探偵のアシスタント! 変化に乏しいつまらない毎日を過ごしていたアンバーが、突如として殺人事件の調査の手伝いをすることになり、夢見ていた以上に刺激的でエキサイティングな日々になりつつあった。しかも、思ってもいなかったすばらしいおまけつきだ。チャーリーはとんでもなくデキる男で、信じられないほどセクシーなのだ。つまり、人生に期待するのを諦めちゃいけないってこと。

 殺人事件の調査を巡るアンバーたち登場人物のやりとりが、早い展開でコミカルに描かれている。好奇心が強く、観察力に優れたアンバーはよく語り、あちこち首をつっこみ、占星術師やバーテンダーの立場も生かして事件の真相に近づいていく。それと同時にハンサムな探偵チャーリーとの距離も変化する。

 殺人事件を追うミステリー要素に加え、アンバーのときにコミカルな公私の生活をのぞき見するようなストーリーは典型的な chick-lit 作品。すでに、ポップスターの殺人事件を扱ったシリーズ2作目 Precious、オスカー女優のストーカー事件を描いた3作目 Forever Mine まで発表されており、アンバーはCCIAの探偵見習いとして、さらに積極的に事件調査にかかわっていく。もちろん、チャーリーとの関係も進展中。ミステリーとロマンスを同時に味わいたい女性読者には楽しみなシリーズに成長しそうだ。

片山奈緒美(かたやま なおみ)

翻訳者。北海道旭川市出身。リンダ・O・ジョンストン著『愛犬をつれた名探偵』ほかペット探偵シリーズを翻訳。カリスマ・ドッグトレーナー、シーザー・ミランによる『あなたの犬は幸せですか』、介助犬を描いた『エンダル』、ペットロスを扱った『スプライト』など犬関係の本の翻訳にも精力的に取り組む。JKC愛犬飼育管理士、和ハーブインストラクター。> 最新訳書は『大学では教えてくれないビジネスの真実』(アレクサンドラ・レヴィット著、アルファポリス)。

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