今回、翻訳ミステリー大賞シンジケートの事務局から『メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロード』の紹介を書いてほしいとの依頼をうけ、わたしは本当に心の底から驚いた。たしかに映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』には、「今作のマックスは人間ではなく、サンダードームの科学者が造りあげたサイボーグだった」という驚愕のサプライズが仕掛けられている。しかし、それだけをもってして、この映画を“ミステリー”と呼ぶのはいささか牽強付会なのではないだろうか?

 ……というのはもちろんウソなわけで(「ゲッ、『マッドマックス』の新作ってそんな映画なの?」と驚いた人は急いで劇場にGOだ!)、『怒りのデス・ロード』にミステリー要素はほぼ皆無。律儀な上に潔癖症で非論理的なことのキライなわたしは、「これってぜんぜんミステリーじゃありませんから! これがミステリーなら、『アベンジャーズ』なんて新本格ですから!」と、いったんは原稿依頼を断わろうと考えた。

 だがしかし……人間とは弱いものだ。そのときわたしの脳裏をヨコシマな(←横縞じゃないよ)思いがよぎった。もし今回の原稿を引きうければ…………

 この本が来年の翻訳ミステリー大賞を獲るかもしれんぞ!!!!

 いやー、そう思ったら俄然ワクワクしてきたわたしである。大賞受賞の賞金をガッポリ手に入れたうえに、監督のジョージ・ミラーから祝電が来ちゃったりして、「こんぐらちゅれーしょん! こんかいのじゅしょうは、YOUのほんやくのおかげデース!!」とか言って、撮影に使ったマックスの革ジャケットをお礼に送ってくるかもだぞ。おおおぉぉ、書くぞ書くぞ、オレは『メイキング・オブ・マッドマックス』の紹介文を書くぞぉぉぉぉぉ!!!!

 ということでこの本だが……タイトルからもわかるとおり、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の貴重な写真が満載のヴィジュアル・ブックである。もちろん写真だけでなく、さまざまな製作秘話もてんこ盛り。なかでも日本の読者には、黒澤明監督『七人の侍』(というより、ジョン・スタージェス監督『荒野の七人』)が下敷きになっているという部分が興味深いだろう。

『怒りのデス・ロード』は「ひとりの女戦士とマックスが、悪の独裁者から5人の娘を救う」というストーリーが前面に出ているが、全体を鳥瞰すると「悪の独裁者(山賊)の悪政に苦しむ貧しき人々(百姓)を救うため、戦士(侍)が立ちあがる」という物語が根幹にあるのがわかる。マックスが運転する大型トラックに乗っているのが七人。この七人が悪の独裁者を倒すために力を合わせるわけだ。ちなみに、トラックをひたすら追いかけて最後に仲間に入れてもらう若者ニュークスは『荒野の七人』におけるホルスト・ブッフホルツの役どころ。また、「今回のマックスにはちょっと主役感が希薄」なのは、彼の役どころがスティーヴ・マックィーン+宮口精二にあたるためで、そもそもの狙いどおりなのだという。当然のことながら、主役はリーダー格の女戦士を演じるシャーリーズ・セロンであり、セロンがこの映画でスキンヘッド同然の髪型をしているのは、ユル・ブリンナー(および志村喬)へのオマージュなのだそうだ。

 ……という、いかにももっともらしい話をいま勝手につくってみたが、じつはこれまたウソである(←おお、二重に仕掛けられたトリック! これぞ驚天動地! 麻耶雄嵩もビックリだ!)。はははは、この本はね、日本での映画公開の12日前に「2週間で翻訳してちょ!」と依頼され、血ヘドを吐きつつ卒倒しながら翻訳したモノなんだよ。わたしと編集者と監修者の血と涙の結晶なんだよ。そうそう簡単に内容を教えるワケにはいかないんだよ。ははははは。

 ということで、詳しい中身を知りたい方は……

 お願いだから買って読んでね、よろしく哀愁!!!

◆映画オフィシャルサイト http://www.madmax-movie.jp/

◆映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』予告編

矢口 誠 (やぐち まこと)

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1962年生まれ。翻訳家・特撮映画研究家。光文社「ジャーロ」にて海外ミステリの書評を3年間担当。主訳書は『レイ・ハリーハウゼン大全』(河出書房新社刊)。最新訳書はローレンス・トリート『絵解き5分間ミステリー 名探偵からの挑戦』(扶桑社)。好きな色は赤。好きなタイプの女性は沢井桂子(←誰も訊いてねぇーよ)。

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