シェトランド。

 白状すると、シリーズ一作目の『大鴉の啼く冬』を翻訳するまで、それがどこにあるのかさえ知りませんでした。スコットランド本土から百六十キロほど北にいったところにあるイギリス最北端の島々って、もうほとんどノルウェーなのでは……。

 実際、調べてみると、シェトランドは九世紀ごろから長いこと北欧人の支配下にありました。それがなぜ現在はイギリス領になっているかというと、一四六八年にデンマークの王女がスコットランド王のもとへ輿入れした際、持参金の抵当としてオークニー諸島とシェトランド諸島がスコットランドに譲渡され、それがそのまま三年後に併合されたためでした。その当時の影響はいまでも色濃く残っていて、シェトランドの地名の大半は古北欧語からきているそうです。

シェトランド四重奏(カルテット)〉は、そんなシェトランドの四季折々に起きた殺人事件を地元のペレス警部が解決していくという四部作で(順番は『冬』『夏』『春』『秋』)、最終章の『青雷の光る秋』でいったん幕を下ろしました。

 それから半年後の春、ペレス警部は今回ご紹介するシリーズ五作目の『水の葬送』で、あらたな一歩を踏みだすことになります。

シェトランド島の地方検察官ローナは、小船にのせられ外海へ出ようとしていた死体の発見者となる。被害者は地元出身の若い新聞記者だった。本土から派遣された女性警部がサンディ刑事たちと進める捜査に、病気休暇中のペレス警部も参加し、島特有の人間関係とエネルギー産業問題が絡む難事件に挑む。〈シェトランド四重奏(カルテット)〉を経て著者が到達した、現代英国ミステリの新たな高み。解説=若林踏

(東京創元社サイト http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488245092 より)

 本書に登場するペレス警部は病気休暇中ということで、本調子からはほど遠い状態です。けれども、別れた奥さんから“感情の垂れ流し”とまで揶揄されたことのある共感能力の高さは健在で、今回も関係者の話に辛抱強く耳をかたむけ、犯人の心情に思いをはせながら、事件を解決へと導いていきます。

 このシリーズは本国イギリスで《シェトランド》というタイトルでTVドラマ化され、わが国でもAXNミステリーで放映されました。いくつか設定の変更はありますが、事件の裏にある濃い人間関係や粘り強いペレス警部の捜査といった要素は原作そのままですし、なによりも目のまえに映しだされる荒涼とした美しいシェトランドの風景が圧巻です。機会があれば、ぜひご覧になってみてください。こちらもお薦めです。

 ●ドラマ《シェトランド》予告篇 – Shetland Trailer(BBC One)

●AXNミステリー内《シェトランド》サイト

http://mystery.co.jp/program/shetland/index_s01.html

●東京創元社サイト内記事「現代英国本格のさらなる高みへ——シェトランドの新たな物語 アン・クリーヴス『水の葬送』[2015年7月]

http://www.webmysteries.jp/topic/1507-04.html

自訳書読書会ドキドキ☆初体験レポート・第三回千葉読書会(アン・クリーヴス作『大鴉の啼く冬』)レポート(執筆者・玉木亨)

http://wordpress.local/1353798258

玉木亨 (たまき とおる)

この猛暑のなか、日照りのウェールズを舞台にした作品を翻訳中。そのあとは、極寒のイーリーを舞台にした作品にとりかかる予定。

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