名古屋読書会登山部

富士山頂『北壁の死闘』読書会レポート〈前編〉

※名古屋読書会有志のみなさんによる「富士山頂読書会」のレポートが届きました。お楽しみください。

 また、自発的、自然発生的な読書会やファンイベントについて、レポート等掲載のご希望があればご相談ください。(事務局)

 あれは一年前、第12回名古屋読書会二次会の席でのこと。

 アルコールが回っていつも以上にごきげんのC嬢が、だしぬけに「富士山に登りたいんやけどー!」と叫び、登頂経験のある加藤隊長が「いいねえ、つきあうよ」と応じるや、周囲から「あたしも登りたい!」「わたしも!」「はーい、あたしも〜!」と次々に手が挙がり……あれよ、あれよという間に、名古屋読書会登山部が結成された(酒の勢いってコワイ)。

 決行日は一年後、手筒花火師の顔を持つ隊長のスケジュールに合わせて、7月第2週の週末に設定。ぶじ登頂を果たした暁には山頂で読書会を開催することも決まった(「日本一高いところで読書会?」「いやーん、ステキ」「読書会としては世界一高所かも」「ギネスに載るんじゃね?」「あたしたち、グレート!」……繰り返すが、酒の勢いってコワイ)。もっとも、課題本が選定されたは決行の二カ月半前だったけれど。ね、隊長?(→後編参照)。

 初期メンバーは、7名。加藤隊長のほかはすべて女性で、しかも山登り経験皆無の者が4名。いくら彼女たちがジム等で日々体を動かすスポーツウーマンでも、いくら富士山が観光地化されて軽い気持ちで登るバカもn……もとい、若者が大勢いるといっても、日本一高いお山は経験なしにひょいひょい登頂できるほど甘くないはず。かくして、「日本一高いところで読書会」めざして、われらが登山部の練習登山が始まった……。

 記念すべき(?)第一回めの練習登山は、4カ月後の11月末、隊長の地元近郊にある宇蓮山(929.4m)で行なわれた。愛知県民の森からハイキングコースが何本か整備され、その日の状況によってルートを選べるし、防災無線もトイレも各所に設けられて、安全性はばっちり。しかも紅葉の美しい時期だ。部員たちはあれこれ情報交換しつつ、胸を躍らせてその日を待ち受けた。だが2日前の時点で、無情にも、天気予報は雨!

「ええーっ、いきなり雨中登山?」「いい経験になるかもよ」「初っぱなから新調のレインウェアを使うわけ〜?」「装備の確認になるじゃん」「あたし、やだーっっ」

 前日夕方まで決行するか否か判断が揺れたが、降りはじめが早まって、朝は少し雨が残るものの途中から晴れ間も期待できそうな状況に。関東から参加する姉妹2名との顔合わせもあるし、とにかく決行して、危険そうなら引き返すことになった。

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雨あがりの霧にけぶる宇蓮山山頂

 当日の朝、不安のにじむ笑顔で慣れないレインウェアを着こむ部員たち。いやいや、この程度の小雨ならなんとかなるさ、と意を決して歩きだしたとたん、ざーっと強まる雨足。周囲の紅葉は燃えるように美しい……はずだが、雨粒に邪魔されてよく見えない。「なんの修行ですか〜、この状況〜っっ」と、おのおの心で突っこみつつ、舗装されたなだらかな林道を一歩ずつ踏みしめていく。幸い、林道から本格的な登山道に入るころには雨がやみ、部員たちの顔に安堵の色が浮かんだ。だが試練は続く。雨で増水した1m幅の沢をキャーキャー悲鳴をあげながら渡り、濡れ落ち葉で滑りやすい岩場をこわごわと歩き、階段状の急な山道をぜいぜい息を切らしてひた登る。

 弱音なんて吐くものか。進め、進め、われらが読書会登山部。富士山頂読書会めざして、突き進め〜っ。

 結局、宇蓮山山頂まで登ると下山の予定時間に遅れそうなことから、山頂への分岐地点でハイキングコースを折り返し、登山届けに記入した時間ぴったりにぶじ下山した。疲労困憊で足取りがおぼつかない部員たちの顔は、達成感に輝いていた。

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下山途中の林道沿いの紅葉

 こうして富士山頂読書会が一歩近づいた。だが、やがて部員たちの心に大きな懸念がよぎりだす。山登りシーズンのオフ期間、隊長はマラソン大会にせっせと参加していたが、恐ろしいまでにことごとく雨にたたられたのだ。ある大会などは、出走開始後から雨が落ちはじめ、隊長がゴールしたころにあがったという。そのうえ、2月中旬に登山部一部メンバーで猿投山(629m)に登ったときも、曇りの予報だったのに集合場所で隊長と合流するなり小雨がぱらつく始末。ここへ至って部員たちは大っぴらに懸念を口にしはじめた。「ひょっとして、隊長、雨男?」「そういえば、前回富士山に登ったときも、晴天だったのが急に激しい雨に降られたって言ってた」「そうそう、下山したらまた晴れたって……」「まさか」「じゃあ、あたしたちの決行日も……?」

 降る……きっと降る……雨が降る、ぜったい降る、いやぁぁああ……!!

 うろたえて、まだ新しいレインウェアにせっせと防水スプレーを噴きつける者、念入りにアイロンをかける者(理由は「ゴアテックス」「アイロン」でぐぐってね)、レインカバーつきのチェストポーチを買いに走る者(それも複数名)、はてはレインウェアの上から羽織るオーバーレインウェアまで買ってしまった者……。

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ひとりトレイルランニングの格好をして、猿投山を走る加藤隊長

隊長と合流するたびに雨粒が落ちてきたのは偶然ではないはず

 冬が過ぎて、山登りシーズンが再開した。さあ、練習登山もここからが本番だ!

 しかし、4月末に御在所(1212m)に出かけたはいいが、お約束のようにこぬか雨に降られ、隊長は鎖場で女性陣をサポートして頼もしいリーダーっぷりを示したにもかかわらず「いい隊長なんだけどね、雨さえ降らせなきゃ」「雨雲を呼ばなかったらパーフェクトなんですけど」「雨男の部分だけ、どっかへ捨ててくれないかなー」等々ひどい言われよう。さらに、(隊長は参加しなかったけれど)5月の第2回猿投山登山でも小雨にたたられ、これはやはり……と思われたところで、歯車が逆回転しはじめた。

 5月末、女性陣だけで登った伊吹山(1337m)では、直前まで雨の予報だったのが一転して晴れ、青空のもと、眼下に広がる琵琶湖を眺めながら最高の気分で登ることができた。その翌週、待望の男性部員ふたりめ(後編の全身緑男K氏)が参加した第3回猿投山登山でも、怪しい空模様ながら最後まで雨粒は落ちることなく、部員たちの心に希望の光がともりはじめた。

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御在所のキレットをおそるおそる進む部員たち

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快晴の伊吹山を力強く登っていく部員たち

(ちなみに、名古屋組が中部圏で地味……もとい、地道な練習を重ねるいっぽうで、札幌読書会から参加のマダムKは屋久島へ、関東組の姉妹ふたりはなんと、はるばるマチュピチュまで遠征に出かけていた。スケールでかすぎ……!)

 砂利道、ガレ場、岩場、木の階段、浮き石、キレット、鎖場、沢渡り、尾根道……とひととおり経験し、部員たちの足運びがさまになってきた。装備も検討を重ね、万全だ。6月には、奇しくも第14回名古屋読書会の会場近くで開催された「夏山フェスタ」に一部部員が参加して、山の天気について有意義な講習を受けた。あとは当日心して登るだけ。

 だが、そうは問屋が卸さない。決行日の前週、南海上の熱帯低気圧がみるみる発達してついに台風9号になり、数日後には10号、さらには11号まで発生した。

「トリプル台風!?」「なんで、この時期に?」「隊長、ひどい」「やっぱり嵐を呼ぶ男だったんだ」「もう、やだぁっ」

 動揺する部員たちを尻目に、「名古屋読書会登山部vsトリプル台風」とうれしげに煽る、お祭り男の加藤隊長。じわじわと迫りくる3つの台風。

 もはやこれまでか、と思われたところで、部員の祈りと名古屋読書会みなさんの応援が天に通じたのか、台風9号、10号ともに進路がそれていき、11号が足踏みして、当日の朝は前日までの雨続きが嘘のような青空が広がった。よし、天はわれらが登山部に味方した。いざ出陣じゃ〜っ!

 そして午前7時半、名古屋組集合場所の新東名浜松サービスエリアで、筆者(きょんた)は涙まじりの笑顔で一同を見送ったのだった……。

 え……? 見送った?(後編へ続く)

きょんた @kyontata

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お気楽主婦。またの名を穀潰し。筆名で横の物を縦にして細々と家計に貢献中。赤ヘルを熱愛しているのに、なぜかドアラ県在住。鳥好き。

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