シリアルキラーの息子ジャスパー(ジャズ)・デントを主人公とした青春ミステリ『さよなら、シリアルキラー』の続編『殺人者たちの王』がまもなく刊行されます。

 アメリカの田舎町ロボズ・ノッドに暮らす17歳の男子高校生ジャズ。21世紀最悪の連続殺人犯ビリー・デントを父に持ち、幼いころから殺人の英才教育を施されて育った彼は、前作『さよなら、シリアルキラー』において、その知識や経験を駆使し、町で起こった連続殺人〈ものまね師事件〉を解決に導きます。

 今作『殺人者たちの王』の幕開けはそれから二カ月後。ジャズのもとにニューヨーク市警の刑事が訪れます。ニューヨークで起きている猟奇的な連続殺人〈ハット・ドッグ・キラー事件〉の捜査に力を貸してほしいというのです。しぶしぶ承知し、ニューヨークへ同行したジャズ。ところが、新たに発見された被害者の遺体には〈ゲームへようこそ、ジャスパー〉のメッセージが。そして事件の背後に父ビリーの影がちらつきはじめ……。

 シリアルキラーの息子という自らの血に苦悩するイケメン高校生のジャズはもちろん、強くて聡明な黒人ガールフレンドのコニーに、血友病患者で口だけ番長のヘタレキャラの(でも友情に厚い)親友ハウイー、そして強烈な存在感を放つソシオパスのビリーと、キャラの立った個性的な登場人物が多いのも本シリーズの大きな魅力です。

 コニーは今回、ジャズとの関係について、高校生カップルらしい悩みを抱えるのですが、そこでジャズにかける言葉がとても素敵で、作中でジャズが感動したのもうなずけます。このほかにも、ジャズを追ってニューヨークへ行くことを許さない父親に啖呵を切る場面など、今作ではコニーのかっこよさが際立っています。

 ハウイーは今回も、愛すべきお馬鹿キャラとしての魅力が全開。20歳以上も年上の女性に言い寄る場面は笑えるのと同時に、ただよう哀愁と健気さにほろりとさせられたりも。ハウイーって、どこか子犬のような愛らしさがあって、訳者も大好きなキャラクターです。

 そして今作でももちろん、ジャズと父ビリーの対決がクライマックスとなっています。前作以上に緊迫感あふれる父と息子の心理戦の場面は、ビリーの底知れない邪悪さにもがいて抵抗しようとするジャズの必死さと絶望感がひしひしと伝わってきて、訳していても胃がキリキリしたのをおぼえています。

 はたしてジャズは、無事に事件を解決できるのか。そしてダークサイドに堕ちることなく踏みとどまれるのか。何かとハラハラドキドキの展開が待ち受けています。

 なお、このジャスパー・デント・シリーズは三部作で、本作はその二作目にあたります。シリーズフィナーレとなる三作目 Blood of My Blood(原題)の刊行は来年初夏の予定。本作を読んで続きが気になってしかたないというかたにも、それほど長くはお待たせせずにすむと思いますので、どうかご安心を!

満園真木(みつぞの まき)

 東京在住の翻訳者。訳書はバリー・ライガ『さよなら、シリアルキラー』、エミリー・セントジョン・マンデル『ステーション・イレブン』、ベリンダ・バウアー『ラバーネッカー』など。仕事のあいまの楽しみはもっぱらテレビドラマを見ること。最近では、『ウォーキング・デッド』のシーズン5を一気見しました。

■担当編集者よりひとこと■

 ミステリには珍しい3部作という形をとっているこのシリーズ、本書はちょうど真ん中の2巻目にあたります。普通2巻目というと中だるみになってしまいがちなものですが、とんでもない、1巻目はほんの小手調べ、前奏曲だったのだと思わせるほど勢いを増していきます。舞台も田舎町ロボズ・ノッドからニューヨークに移り、ジャズが挑む事件もよりスケールを増し、謎は複雑になり……。満園先生が主要キャラクター3人、ジャズ、コニー、ハウィーについては、熱く語ってくださっていますので、付け加えることはないのですが、ちなみにわたしはハウィー好きです。そして……そして、ラストにはびっくり! 本当に罪作りな終わりかたです。実は3巻は〇〇が??で、△△なんです。ネタばらしはいたしませんが、絶対期待を裏切らない驚愕の展開が待っています。お楽しみに。

(東京創元社編集部・K)   

 

◆あわせて読みたい東京創元社サイト掲載記事

【随時更新】訳者自身による新刊紹介 バックナンバー