【キンドル版もあり】

フェイ・ケラーマン? だれだっけ?”という出だしで『初心者のためのフェイ・ケラーマン入門』を書いたのはいつだっけ? と調べてみたら、なんと4年以上も前! 忘れもしない、あのとき“願わくは邦訳が途中でフェイドアウトしませんように!”と叫んだのがたたったのか効いたのか……いったんは本シリーズを“卒業”(笑)したつもりだったが、なんの因果か、もとい、ご縁あってふたたびデッカー&リナ・シリーズをお届けする運びとなった(ありがたや〜)。辛抱強く待っていてくださったファンの方、本当にお待たせしました。

 本書『目隠し鬼の嘘』はシリーズの18作目。12作目の『新人警官の掟』(創元推理文庫刊)から5作分、時間にして10年ほど飛ばした格好になるが、この間にさほど大きな変化はないのでご安心を。

 デビュー作『水の戒律』で30代だったデッカーもすでに50代、少しずつ老いを実感するお年頃になった。愛娘のハンナからときに邪険にされていじけたりもするが、熱血刑事ぶりは相変わらず。一方のリナは、40代になってもなぜか容色は少しも衰えず、こちらも相変わらずの良妻賢母ぶり。結婚して17年がたち、いまやすっかり安定したデッカー家なので、初期のころの家族小説色は薄まり、もう警察小説と呼んでいいのではないかと思う。

 物語の舞台は今回もロサンゼルスで、深夜に通報を受けたデッカーが現場に駆けつけると、大企業のCEO夫妻と警備員とメイドが銃殺され、長男が瀕死の重傷を負っていた。

 被害者が有名人で多重殺人だったことから、デッカー率いる特別捜査チームが結成され、おなじみのマージ・ダンとスコット・オリヴァーのコンビのほか5人の精鋭が選ばれて、被害者一族の背景を探る捜査がはじまる。膨大な数の関係者に加え、陪審員に選ばれたリナと、裁判所でリナに声をかけてきた謎の男までがからんできて、やがてこの男が意外な形で捜査の重要な鍵を握ることになるのだが……。

 わたしの大好きなマージが今回も大活躍! 新人警官だった娘のシンディは修業を積んでどうやら一人前の刑事になったようだ。登場場面はないものの、息子のサミーとジェイク、『木星の骨』でマージが教団から命がけで救出して養女にしたヴェラの近況などもちらほら出てきて、なつかしいやらしみじみするやら。

 とまあ、いろいろ思い入れのあるシリーズではあるが、訳者自身も途中は未読(す、すみません!)、以前の内容は記憶のかなたなので、なにも気にせずさらっと本書から読んでいただければ充分です。もう過去はいらない、とバックじいさんも言ってることだし。

(でもでも、願わくはせめてあと数作は邦訳が出ますように!)

高橋 恭美子(たかはし くみこ)

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 北の国の翻訳者。ぬくぬくの部屋で猫あんかを膝に雪を見ながら仕事をするのが至福のひととき。いまは終日零下の街で灼熱のリオ・デ・ジャネイロと1920年代の狂騒のパリを舞台にした壮大な物語を翻訳中。今年の目標はトウシューズで踊ること。バレエ・ミステリがあったら絶対やりたい!(もちろん動物ミステリも)

■担当編集者よりひとこと■

 えっ、フェイ・ケラーマンの新刊? しかもあのリナ&デッカー・シリーズの続き? 版元は……どこ?! とお思いの皆様、はじめまして。このたび晴れて名作シリーズを引き継ぐこととなりましたハーパーBOOKSと申します。米国の大手出版社ハーパーコリンズの日本支社ハーパーコリンズ・ジャパンから昨年7月に産声をあげた文庫レーベルでして、本年から翻訳ミステリーを毎月刊行してまいります。

 その記念すべき新年第1弾となるケラーマンは小社が世界展開する作家の一人。本書も昨年9月のポーランドを皮切りに、スペイン(10月)、フィンランド・ノルウェー・スウェーデン・日本(2016年1月)、チェコ・フランス(2月)、イタリア(3月)、ポルトガル(5月)と各国ハーパーコリンズで続々刊行が決定。最も翻訳に時間がかかる日本がビリじゃないところに我ながら日本人の勤勉さを感じます(というか翻訳の高橋さんに感謝です・涙)。

 本国ではすでにシリーズも23作目に突入。警察小説として円熟味を増しますます筆の冴えわたるケラーマンに、ぜひ今後もご期待ください。 

(ハーパーBOOKS編集部:担当O)   

 

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