2016年初めの読書会は某図書館の会議室より始まりました。
都心の公園の中にあり、緑が綺麗で図書館としての建物も素敵な場所です。
課題本はセバスチャン・ジャプリゾ『新車の中の女』新訳版です。参加者の中にはフランスミステリー自体を読んだことがない人もいれば、課題本の旧訳を読んだことのある人、同著者の『シンデレラの罠』を読んでいる人もいて、今までとは少し違った感じの読書会の始まりでした。
おおむね面白かったという感想が多かったですが、「ミステリーとしてはどうなのか?」という意見もありました。ミステリーとして無理のあるところやご都合主義が気になる人は、疑問が先にきて内容に入り込めなかったという話がありました。いっぽう、小説としては少々の穴はあっても良いのではないかという寛大（？）な読み手は、世界感が壊れていなければ穴やツッコミ所があってもこの本の欠点とはいえず、反対に長所になるのではないかとの意見でした。
小説の舞台はフランス。登場人物のファッションから小道具の使い方までがお洒落で素敵です。大人感・お洒落感・洗練された生活感などがいっぱいで、それだけで最後まで読ませてしまうのではないでしょうか。センスの良さはジャプリゾお得意だと思うのですが、白いスーツを着て乗り回す車も魅力的、欠点として書かれている近眼さえもチャーミングに見えてしまうという人がいれば、隙がなく鼻につくほど恰好良く書きすぎていると感じる人もいました。
ミステリーは最初の出だしが大事！ この本は出だしがとにかく素敵で良かったという人がいれば、最初の1行で引いてしまったという人もいる。それでもこの本が面白いのはなぜだろう？
いったい何が真実で何が嘘なのか——不安定で不条理な世界感を、最初から最後まで壊さず書ききっているところが良かったからではないでしょうか。
主人公が何処に行くのかが全く分かりません。ロードノベルっぽい内容なのですが、実際に辿りつく先がハッキリしないまま進む怖さ、サスペンスがあります。主人公と第三者に語りが変わるところは緻密に計算されていて、テンポ良く切り替わり違和感なく話は進むのに、それさえも嘘か真なのか、騙しているのか騙されているのか、ミステリーなのです。自分から見た自分と他人から見られている自分のギャップを、上手い見せ方と発想の転換の凄さでより複雑に話を進めていく所が良かったとの意見に、多くの参加者さんがうなずいていました。
そしてキャラクターの設定と造形が上手く、ミステリーなのに悲劇感が出てないと。主人公2人の女性は年相応の女性としての行動や気持ちの揺れ動きなどが良く描かれていると女性の参加者から話が出たのですが、男性参加者の一部からは主人公の女性が怖いとの感想も出ました。性別によって感じ方の違いが出たのは意外でした。主人公の女性たちは突拍子もなく行き当たりばったりな事もする、だけど冷静で計算高いところも垣間見えて、振り幅の大きなキャラクターは魅力的だという話が出ました。他のキャラクターについては「にっこり歯磨き」さんが好きとの発言があって、思わず会場に笑いが起こるという感じでした。
でもツッコミ話は続いて、「そもそも“にっこり歯磨き”って意味がよく解らないし、原文はどうなっているの？」「荷物が鰯というのは本当なのか？」「死体って臭わないの？」「同じ服を着ているだけで人を間違える？」などなどの疑問が出ました。ミステリー読みの人って凄い。重箱の○○まで、ですね。
そんなツッコミもジャプリゾは百も承知で書いていたのではと言う意見もありました。凝り性な所は計画的に、その他はサラリと書いて後で何を言われても余裕でかわしてしまう感もあり、今の時代にはない豊かで大人でお洒落な本になっているのではないでしょうか——と、最後に全体的なまとめのようなお話がありました。
読書会の終わりにはフランスミステリーの現状について世話人の方よりお話があり、「フランスミステリーに限らず皆さん翻訳ミステリーを読みましょう」という締めで本会終了となりました。
みなさま、福さんによる読書会レポートいかがでしたでしょうか？
福さんは全国各地の読書会に遠征されているので、シンジケート後援読書会の参加者さんのなかにはご存じの方が多いかと思います。東東京読書会には過去11回中10回参加してくださっています。
今回は世話人から福さんにぜひにとお願いして、参加者さんの立場からレポートを執筆していただきました。世話人がまとめるのとはまたちがった形で、読書会の自由でランダムな雰囲気をおわかりいただけたのではと期待しています。
次回東東京読書会は5月29日（日）開催、課題書はスティーヴン・キング作品です。後日、こちらのサイトで正式に告知いたしますので、カモーン・アンド・ジョイナス！
（東東京読書会世話人・島村浩子）