蒸し暑い日本の夏を先取りしたような、6月終盤の土曜日、翻訳ミステリーお料理の会は第6回の調理実習を行いました。今回は、オヴィディア・ユウのアジアン・カフェ事件簿シリーズから、ココナツミルクで炊き込んだごはん、ナシレマッとおかず数品、デザートにお芋を使ったエスニック風のお汁粉をこしらえました。講師は同シリーズの訳者でお菓子名人でもある森嶋マリさん。

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今回のレシピ・カードは「プラナカン・ハウス」。

在住者の方に、現地で撮影していらした写真を見せていただきましたが、

実物もカラフルでかわいらしい外観をしています。

ご興味のある方は→http://singapore.navi.com/special/5034153

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今回はこんな食材を使いました。

まずは今回の主役であるナシレマッから。といっても、ジャスミンライスにパンダン・リーフなる香草とショウガとココナツミルクを加えて分量まで水を入れ、あとは炊飯器にお任せ、というお手軽スタイル。おかずにはナスのサンバル・ソース添え、ピーナツの揚げたの、イカン・ビリスという煮干しの揚げたの、添えもののゆで卵ときゅうりの薄切りを用意します。そこに森嶋さん特製のエスニック風ピクルス、アチャーも加えて、エスニック・カフェ風に一皿に盛り込むという趣向。いずれも聞いただけでは、なんだか難しそうですが、調理法はいたってシンプル。揚げるだけ、炒めるだけ、茹でるだけ、あえるだけ。サンバルは東南アジアの食卓にはよく登場する、唐辛子をたっぷり使った辛いソースで、本格的にこしらえる場合は石臼に石のすりこぎを使ってごりごりすりおろしていきますが、今回はちょっとはしょって瓶詰の市販品を使いました。同時進行でボボチャチャをこしらえます。タピオカを茹で、サツマイモを茹で、ココナツミルクとグラメラというココナツ原料の砂糖と香草を加えて……即席のココナツ汁粉といったところでしょうか。こちらもタピオカが半透明になってお芋が茹れば、ほぼ完成です。もしかして、翻訳ミステリーお料理の会の調理実習史上(ってまだ、たったの6回目ですけど)、完成までの所要時間は最短記録を更新かも。ということで、あっという間に試食タイムとなりました。

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アンティ・マリこと森嶋さん特製のアチャー。

複雑で奥深い味にごはんがすすみます。

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お椀を使ってナシレマッをこんもり。

まわりにおかずを盛りつけます。

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デザートのお汁粉も添えて。

グラメラの優しい甘さが夏向き!

今回のスペシャル割引は、作品の舞台にちなんで「シンガポールに住んでいたことのある方」。試食をしながら、現地で撮影していらした写真を見せていただき、いろいろお話をうかがいます。そうそう、訳者の森嶋さんも取材を兼ねて一週間ほど滞在していらしたそうで、シリーズ二作めに登場するブア・クルアを使ったお料理も試食してきたとのこと。そのお話も聞かせていただきました。ご存じのようにシンガポールは他民族国家。主にマレー系、中華系、インド系、アラブ系の人たちに近隣のアジア諸国から働きに来ている人たちも加わり、日常生活に使われていることばはもちろん、お料理も生活様式も建物も着るものもそれぞれ独自の彩り豊かな文化を展開しています。そんなお話から「今回のナシレマッは、マレー系のお料理だけれど、アチャーはインド料理でも出てくるし、サンバルはインドネシアでも使われるし、いろいろな国のお料理がバランスよく盛り込まれていて、シンガポールの象徴のような一品だと思う」という感想も。まさにそうかもしれません。そうした彩り豊かな街を舞台にしたこのシリーズの最大の魅力は、主人公のアンティ・リーのキャラクターと彼女のこしらえるプラナカン料理にまつわるあれこれですが、もうひとつ、多民族国家ならではの社会問題がさりげなく作品のモチーフとして取り上げられているところも。この夏休み、忙しくて旅行なんて行っていられない、という方、このシリーズで”書斎の旅人”と洒落込むのもいいかもしれません。

ところで、調理実習名物の「余った素材でもう一品」。はい、今回も出ました。今回サツマイモは茹で時間を短縮するために皮を剥いて使いました。その皮を丁寧に剥いて取っておき、揚げ油で素揚げにし、グラメラとピーナツのみじん切りであめがらめにする、というもの。今回は「たぶん、お芋の皮の素揚げぐらいは出てくるんじゃないかな〜」と予想していましたが、それのうえを行く手の込みよう。スタッフ一同、そして参加者のみなさんも感心しきりでした。

今回はお肉っ気ゼロのメニューでしたが、揚げ煮干しと豆の香ばしさ、サンバルの辛さも手伝ってスプーンが止まらなくなり、デザートのお汁粉まで完食すると、あれっと思うほど満腹に。満足しつつ、手際よく後片付けをすませて解散となりました。というわけで、おかげさまを持ちまして、第6回調理実習も、無事に打ち上げることができました。

食材を準備するのに季節を無視できず、なかなか定期開催とはまいりませんが、これからも細々と、おいしくておもしろいものをこしらえていきたいと思っています。引き続きみなさまからのリクエストを募集しています。「あの作品に出てきた、こんなお料理をこしらえてみたい」というご希望がありましたら、mys.cooking@gmail.com までお寄せください。

翻訳ミステリーお料理の会、世話人一同

芹澤 恵(せりざわ めぐみ)

翻訳者。〈翻訳ミステリーお料理の会〉世話人。食いしん坊兼呑み助。自称料理好き。ありものでこしらえるシンプルな料理(別名“手抜き”)を得意とする。訳書にウィングフィールド『冬のフロスト』、ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る』、パチェット『密林の夢』、サーバー『傍迷惑な人々』他。

◆翻訳ミステリーお料理の会レポート・バックナンバー

■翻訳ミステリーお料理の会 公式サイト http://mysterycooking.jimdo.com/

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