※読書会参加者有志のみなさんによるスピンオフのレポートが届きました。お楽しみください。

 また、自発的、自然発生的な読書会やファンイベントについて、レポート等掲載のご希望があればご相談ください。(事務局)

 東海地方から九州までの梅雨明けが発表され、ここ名古屋も灼熱の太陽が照りつける真夏日となった7月18日、名古屋読書会乙女支部によるフレッド・ヴァルガス『死者を起こせ』(藤田真利子訳/創元推理文庫)読書会が開催されました。

 名古屋読書会乙女支部というのはなにかと申しますと、登山部同様、名古屋読書会から派生したスピンオフ読書会で、乙女の集いなのかとよく誤解されるのですが、そんなことは全くありません! 

 コラムニストの山崎まどかさんが SPUR 2011年11月号やミステリマガジン2014年4月号で提唱されている“乙女ミステリ”というジャンルから課題図書を選ぶことが多い点から、名古屋読書会世話人の大矢博子さんが命名して下さった集まりです。

 今まで取り上げた作品は、小規模開催時のものも含めると、『杉の柩』『毒入りチョコレート事件』『血染めのエッグ・コージイ事件』『スイート・ホーム殺人事件』『ポアロのクリスマス』『ジェゼベルの死』『月長石』『犬は勘定に入れません』『ねじの回転』『レベッカ』『ドゥームズデイ・ブック』『暗い鏡の中に』といった、女性好みの舞台設定や道具立てにこだわった作品ばかり。読書会自体も、博物館で開催されたチョコレート展と絡めて『毒チョコ』、“ゴー・ビトゥイ—ンズ展〜こどもを通して見る世界〜”という美術展と絡めて『スイート・ホーム殺人事件』、赤い屋根の可愛い洋館の一室を借りて『エッグコージイ』、また別のお屋敷のインド風味の舞踏室で『月長石』、といった試みをしてまいりました。必須ではなく希望者だけ参加のゆるいドレスコードを決めることもあり、『エッグコージイ』で(物語上では卵は何の関係もないけど)卵グッズが、『犬勘定』では犬猫金魚グッズが大集合しました。“乙女”というのは課題本やその楽しみ方の傾向を示しての言葉であって、参加者を示すものではなく、もちろん参加するのに老若男女その他何の条件もないことを重ねて申し上げます。

 そして今回の課題本『死者を起こせ』はこんなお話。

何年も失業状態でどん詰まりな歴史学者マルク(中世専門)は、似たり寄ったりな境遇のマティアス(先史時代専門)とリュシアン(第一次大戦専門)を誘い、元刑事である伯父アルマンを加えた4人でパリの閑静な通りに建つボロ館での共同生活を始める。ボロ館の隣に住む引退したオペラ歌手ソフィアは、ある朝庭に突然ブナの若木が植えられていたことに怯えていた。誰が何のために? 夫に不安を訴えてもとりあってもらえず、彼女は隣人となった3人組に木の下を掘ってみてほしいと頼むのだが……。

 この3人の歴史学者が登場する物語は“三聖人シリーズ”と銘打たれ、2作目『論理は右手に』、3作目『彼の個人的な運命』が出ています。

 今回の会場は、改修工事のため来年の4月から1年間の休館が決まっている名古屋市公会堂、その4階特別室です。高い天井に高い扉と高い窓、壁の一面には暖炉という重厚な室内。中央を占める円卓にレジュメを並べて準備完了です。レジュメの内容は、幹事1による三聖人シリーズに似通った魅力を感じる作品の紹介、幹事2作成の簡単な登場人物表とフレッド・ヴァルガスの他の邦訳作品の紹介、参加者のおひとりBさんに考えていただいた妄想キャスティング、といったもの。次々にやってくる参加者のみなさんで円卓が埋まり、読書会の始まりです。ツイッターでの告知・募集に応えて集まった参加者は12人、うち半数の方が前日の岐阜読書会との連日参加、関東や関西など遠方からおみえの方も3人いらっしゃいました。

 まず最初にひとりずつ一言感想を言ってもらい、そのさいに登場人物の誰が好きかも教えてもらいます。リュシアン5.5票、マルク3.5票、マティアス3票という結果でしたが、「3人1セット」「3人で探偵として一人前」「だから1人は選びにくい」という意見が複数出ました。また、マティアスは裸族(自分の部屋ではいつも半裸か全裸)じゃなかったらいいんだけど……という方も何人かおり、裸族はそんなに問題があることなのか? という話にも。リュシアンの恋愛にまっったく縁がないところがいいと強く主張する幹事1は、いやリュシアンは一切表には出さないけど愛情を内に抱える人間だと思うな〜という意見をうけ衝撃のあまり椅子ごとあとずさり回転し(回転する椅子だったのです)、猛烈マルク推しな幹事2は、マルクは神経質で繊細で強情って登場人物表に書いてあるけどいったいそれのどこがいいの? と真顔で聞かれて数秒間固まっておりました。

 一巡する間にもいろいろと意見が出て、そのまま自由な発言がいきかう場となります。「3人そんなに仲良しってわけじゃないんだね」「お互いにあんまり踏み込まない」「だけど相手が書いてる論文とか本とかはこっそり読んでて結構認めてるところがいい」「お互いの専門の時代をdisるんだけどそのdisり合いの息が合ってるのがいいですよね」「私、大学で歴史やってたんですけど、自分の専門以外の時代に対してケッとなるのはすごくわかります」「(一同)へええ〜そうなんだ!」

「キャラクター重視の作品なのかと思ってミステリー部分はあまり期待していなかったらちゃんと面白かった!」「でもこの犯人はちょっとフェアじゃないかも」「○○の登場が唐突すぎ、最初のほうでもうちょっと○○の描写があったらよかったのに」「○○が言及はされるのに姿を現さないことで不気味な存在感を出したかったのでは」「登場人物たちのエキセントリックな性格や言動が、ちゃんと事件解明につながるきっかけになっているところにおお〜と思った」「3人それぞれ見せ場があって、話が動いていくのが面白い」「てっきりソフィアは○○○○と思ってました」「私も」「私も」「私、オペラ鑑賞が趣味なんですけど、オペラが好きな人なら最初の方でマティアスがオペラの役名をいくつも並べる台詞で、あれ? とひっかかるんですよね、それであとから、だからか〜って思いました」「(一同)へええ〜そうなんだ!」

「三聖人というシリーズ名から、昔の話なのかと思ってたら意外と現代だった」(作中年は1993年です)「いつの時代でもおかしくない話」「“消えた隣人”という謎も普遍的」「携帯電話は普及してないけどスキャナーはあるんだね」「スキャナーが九キロって重っ! 昔だ! って思いました」「リュシアンがかばんに香水入れてきてるのにびっくり」「フランスっぽい」「かばんにパンも入れてる」「このパン絶対むき出しだよ」「そこもフランスっぽい」「私はこの話、好きな要素はたくさん入ってるのに何かいまいちなんだよね、フランスが合わないのかなあ?」「そういうことも、あるよね……」「フレンチ・ミステリって確かになんか、クセがあるから」「クセ、ありますね」

「訳者の方もあとがきで書いてらっしゃるように、ヴァルガスの文体っていいですよね。次々にいろんな人の思考に入って、その思考がまたとりとめなくて、本筋に全然関係なかったりするのが、いいですよね」「センテンスが短くてどんどん切り替わる文章が面白いです。これは訳者の方の個性なんでしょうか、原文がこうなんでしょうか」「どうなんだろうね〜」(誰も答えられない)

「シリーズの中ではどれが一番面白いの?」「どれも面白いです(即答)! でも選ぶなら、う〜〜ん、『彼の個人的な運命』かなあ」「ですかね〜」

 そんなこんなを話すうちにお時間となって、読書会は終了です。名古屋駅からほど近い古い町並みが残る界隈の、古民家を改装したフランス家庭料理のお店に移動しての二次会はたいへんおいしく楽しく、一同おなかいっぱいになり散会となりました。参加してくださった皆さま、ありがとうございました。

ちえ(ツイッターアカウント:@nichico8

キヨ(ツイッターアカウント:@keropankumapan

各地読書会カレンダー

これまでの読書会ニュースはこちら