全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 実生活ではごめんこうむりたいですが、ミステリを読んで”まんまとだまされる”のはこたえられないですよね! 登場人物の会話の中にヒントが巧みに隠されていたり、真剣に推理しようと取り組むほどミスリードに引っかかったりしながら読み進み、ラストの謎解きで全く思いもよらない真相が明らかになった時ほど嬉しいことはないのでは。さて、それが視覚で楽しめるのがマジック、奇術、イリュージョン。クリストファー・プリースト『奇術師』も、幻想的な舞台に驚きのトリックが隠されていましたが、翻訳ミステリ界でマジックといえば、まず思い出すのはクレイトン・ロースン! 

 偉大な奇術師であり、マジックグッズ専門店を経営しているグレート・マーリニ(又は大マーリニー)のシリーズは有名ですが、今回はロースンが別名義で発表していた奇術師探偵ドン・ディアボロが主人公の中編集、『虚空から現れた死』(訳・白須清美/原書房)をご紹介します。

 鮮やかな緋色の舞台衣装をまとい、派手で華麗なマジックショーを見せるハンサムな青年マジシャン、ドン・ディアボロ。しかしそれはあくまでも舞台での名前であり、本名はおろか、出身も年齢さえも謎につつまれています。驚愕のマジックもさることながら、彼の謎めいた雰囲気と鍛え上げた肉体はあまたの女性ファンを魅了し、ショーは連日満員御礼。エンタメ世界の頂点ともいえるニューヨークの劇場から無期限の契約を取り付けています。

「過去からよみがえった死」では、そんなディアボロの楽屋に入りこんできた美女が謎の死を遂げます。密室状態だった犯行現場からは、どこからともなく現れた不気味なコウモリが飛び立ち、死体の首には小さな赤い傷が……。続く「見えない死」は、なんとニューヨーク市警本部の一室で、巡査部長が射殺体で発見されます。しかも犯行はチャーチ警視の目と鼻の先で行われたのです!

 実際マジシャンだったロースンの手による不可能犯罪2作は、人間消失、瞬間移動、縄抜け、読心術などなど、マジックのタネあかしを盛りこみながら、読者の期待を裏切らない驚きの真相が用意されています。

 マジシャンには美女のアシスタントがいるのが定説。もちろんディアボロも、ある重大な秘密(!)を持った美女とステージに出ています。が、この2作の読みどころは彼と多彩な仲間とのチームワークによる事件の解決です。まずは一番弟子のチャン。インドの路上で奇術の修行をしていましたが、ディアボロの技にたちどころに魅了されて押しかけ弟子に。エラリイとジューナを思い出す方も多いかも。そして舞台関係の特ダネを狙ってディアボロにつきまとうゴシップ記者のウッディは、愛嬌ある若者で、情報収集もおてのもの。その機転で何度となくディアボロのピンチを救います。舞台裏装置の設計と製作を受け持つカールは、計算力と記憶力が抜群で、恩人のディアボロをサポート。2作目では、いかさまカード賭博師のホースシューや小男ラリーなども登場。

 グレート・マーリニは警察と友好関係を築いていましたが、ディアボロが巻き込まれる事件を担当するいかつい外見のチェイス警視は、軍隊式で猪突猛進。おまけに謎が大嫌いで、不可解な事件が起きるとすぐ彼に疑惑の目を向けます。2作目では犯人から大胆な犯罪予告の挑戦状が届くのですが、次から次へと変装し、一歩先で犯人探しに奔走するディアボロと、彼を犯人と決めつけて怒りながら追跡するチェイス……って、まんまルパンと銭形警部みたいなんですよ!! そう思うと他のメンバーもそう見えてきたり(なんたって不二子ちゃんも○○いるし!)。追いつ追われつのハラハラドキドキな展開と、思わず目を丸くしてしまう奇想天外なトリックに謎解き。残暑厳しいこの季節、ラストで霧が晴れたようにスカーっとする痛快なこの作品、未読の方はぜひお試し下さいませ。

 さて、80年代ぐらいからか、大規模なマジックはイリュージョンと呼ばれて全世界に中継され、デヴィッド・カッパーフィールドが最も有名なイリュージョニストとしてお茶の間に知られるようになりました。遠距離での瞬間移動や、自由の女神を消失させるなど、まさに魔法のようなトリックを見せてくれた彼。3年前に公開された映画『グランド・イリュージョン』では、今まで披露された彼のイリュージョンの数々が形を変えて使われていましたが、9月1日から公開される続編『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』では、本人自らが製作者として名を連ねています。

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 華麗で大胆なイリュージョンを駆使して、巨悪を倒し、世の中の不正を暴いてきた犯罪集団”フォー・ホースメン”。その名は世界中に轟き、数え切れないファンを獲得したが、アメリカ国内では、警察およびFBIから指名手配犯として追われていた。大がかりなトリックで悪党を懲らしめてから1年、散り散りになって行方をくらましていたメンバーたちが、ある日再び集結する。今度のターゲットは巨大IT企業。新発売のスマートフォンに恐ろしい陰謀が隠されているという情報を得た彼らは、その発表会に潜入。イリュージョンでプレゼンをのっとり、企みを暴こうとしたその瞬間、事態は急変。突如追われる身となったホースメンたちの前に不敵な笑みを浮かべて現れたのは、天才エンジニアとして知られていたウォルター・メイブリーだった。

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 前作で大活躍したお馴染みのメンバーたち — その繊細なルックスからは想像もできない大胆なイリュージョンが得意のリーダー、ダニエル(ジェシー・アイゼンバーグ)、人の精神をやすやすと手玉にとるメンタリストのメリット(ウディ・ハレルソン)、夢のような手さばきでカードを操るジャック(デイヴ・フランコ) — に、新メンバーとして、エグいトリックで観客を翻弄するルーラ(リジー・キャプラン)が参加。FBI捜査官のディラン(マーク・ラファロ)に、イリュージョン暴露派の第一人者サディアス(モーガン・フリーマン)も続投しますが、今回最も手強い悪役であるウォルター役はなんとダニエル・ラドクリフ! ホグワーツで習得した魔法を全否定するがごとく(?)、4人のイリュージョンを科学で次々と見破っていきます。この彼がなんとも憎々しいキャラなんですよ。親戚の子供のようにハリーの成長を見守っていたファンの方々にはショックかもしれませんが、そこは「こんなに大人になって」と喜んであげてください(笑)。

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 前作をご覧になった方なら、この映画のイリュージョンの絶妙な見せ方と大胆なトリックがいかに痛快だったかご存じだと思いますが、今回の続編はそれを超えたといっても過言ではありません! 文字通り手に汗握ってハラハラし、驚きの展開に目を丸くして、見事にだまされた時の快感といったら!!! 

 楽しみを奪わないようこれ以上は口をつぐんでおきますが、一つだけお願いがあります。この映画は絶対に1作目を観てから観てください! 前作で起こったある事件や、キャラクターたちもつながっているのですが、なによりも、

 この映画は両方観て初めて完成するトリックが隠されているんです!

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 鑑賞後、もし前作がヒットしなくてそれだけで終わってしまったらそのトリックが無駄になってしまうはずなんだけどとか、もともと1作で終わるはずが続編を作って、そのトリックを追加したと考えるには割と厳しいけどなあと悩んだり、原題 Now You See Meって…このことか! などなど、あれこれ考えられてとても楽しいです!

 最後に、「見えない死」の中でディアボロが口にしたこの一言……

奇術師は、あまりにも不可能に見えるトリックを使ってはいけないんだ——観客が信じてくれない。

 ……さて、これはこの映画にもあてはまるのでしょうか。その答えはぜひ劇場で!

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▼公開情報

  • タイトル:『グランド・イリュージョン 見破られたトリック
  • 公開表記:9月1日(木) 全国ロードショー!
  • 配給表記:KADOKAWA
  • 著作表記:TM & © 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

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