今回は元海兵隊武装偵察隊のローガン・ウェストが活躍するマシュー・ベットリーの Overwatch(Atria/Emily Bestler Books、2016年)を取り上げます。

 イラクより帰還して以来酒に溺れていたローガンは、突然現れた男に現地から持ち帰ったイラク国旗を渡せと迫られる。その旗は武装勢力の待ち伏せに遭って10名の部下を失いながら敵を全滅させた任務に絡んだもので、今はローガンが率いた小隊で一等軍曹を務めたジョン・クィックの手元にあった。
 不意を突いて相手を倒したものの、敵の手が別居中の妻、サラにも伸びていると判断して彼女の家に駆けつけるローガン。イラク駐留時代に知り合ったFBI(連邦捜査局)捜査官のマイク・ベンソンの力を借りてサラを救出し、妻を拉致しようとした男からメキシコの犯罪組織、〈ロス・トロス〉と契約してテキサス州サンアントニオに拠点を置くホアン・ブラックが元特殊部隊隊員を集めて旗を手に入れようとしている、との情報を引き出す。
 その頃、モンタナ州に隠棲していたクィックはブラックによって送り込まれたカルロス・クィンタナ率いる4人組に襲撃されていた。2人を返り討ちにしたものの、自宅に保管していた旗は奪われてしまう。
 ベンソンはローガンやサラを襲った男たちの携帯電話に記録されていた複数の電話番号を監視しつつ、サンアントニオに向かう。ローガンとクィックも同行するが、到着と同時に監視対象番号の一つが観光地であるアラモ砦の近くで使用されたとの連絡を受けて急行する。
 ブラックの部下に旗を手渡したクィンタナはローガンたちに見つかり、激しい銃撃戦の末に逮捕される。
 ブラックがメキシコの〈ロス・トロス〉の拠点に逃げ込んだことを突き止めたベンソンはFBIを通してメキシコ政府に協力を要請する。急遽HRT(FBI人質救出チーム)とFES(メキシコ軍特殊部隊)の合同作戦が展開されることとなり、ローガンとクィックも作戦への参加が認められてメキシコへ向かう。
 
 とにかく戦闘場面の多い作品です。
 旗を巡る事件と、4年前にローガンの小隊が多数の戦死者を出してしまったイラクでの任務が交互に描かれますが、銃撃戦やナイフを使った格闘にカーチェイスが満載で、ベネリ(散弾銃)やキンバー(拳銃)、HK(サブマシンガン)にタボール(アサルトライフル)といったメーカーの銃器が次から次へと登場して銃弾が飛び交います。
 戦いの舞台はメリーランド州からモンタナ州、テキサス州と目まぐるしく変わり、メキシコに移ってもまだ黒幕の正体とその目的は不明のまま、一気に結末までなだれ込む構成で、イラクでいくつもの任務をこなしてきたローガンとジョンが活躍するのはもちろんのこと、冒頭では危険にさらされながらも果敢に戦うサラの姿も描かれています。
 久しぶりに「血沸き肉躍る」と感じられた痛快な作品で、アクション好きの読者にお薦めです。
 著者のマシュー・ベットリー(公式サイト)はニュージャージー州の生まれ。大学卒業後、5年間の企業勤務を経て1999年に海兵隊に入隊、ジブチやイラクに派遣された経歴の持ち主。アルコール依存症を克服し、もう10年酒を口にしていないことも公表しています。
 
■作品リスト
 Overwatch(Atria/Emily Bestler Books、2016年)
 Oath of Honor(同上、2017年)
 Field of Valor(同上、2018年)
 Rules of War(同上、2019年)

寳村信二(たからむら しんじ)

ようやく映画館が営業を再開したので、昨年見逃した『新聞記者』(監督:藤井道人)を鑑賞したところ、観客は自分一人だった。

 

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