3/18に行われた札幌読書会のレポートをお届けします。

 課題書はクリストファー・プリーストの『奇術師』でした。

 あらすじをざっとご紹介します。

 フリージャーナリストのアンドルーは絶えず「記録にはない双子の兄弟」の存在を意識しながら暮らしていた。そんな折、彼の祖先にしてマジシャンのアルフレッド・ボーデンの著書がケイトという女性から送られてくる。彼女の祖先もまたルパート・エンジャというマジシャンで、どうやら彼ら二人は一瞬で離れた場所に移動してみせる「瞬間移動」の仕掛けをめぐって対立していたらしい。ボーデンの回想録とエンジャの日記が語るその真相とは……。

 参加者は総勢27名。3テーブルに分かれてのディスカッションです。

 テーブル名を「ハリー・フーディーニチーム」「プリンセステンコーチーム」「マギー司郎チーム」と仰々しくしたのに、進行役の世話人は誰一人として鳩や国旗を出すことはおろか、縦じまを横じまにすることもできず、黄色いジャケットすら着ていないというサービス精神の足らなさ。誠に申し訳ありません。

 実は当日、第二部にご出演のプロマジシャン、スペンサートリックス氏(「スペちゃんって呼んで♪」というご本人の希望により、以下スペちゃんに統一)から「ボクも読書会にいていいですか?」と想定外の嬉しいお申し出があり、スタート時点から同席していただくことに。というわけで、さすがの世話人もプロマジシャンの前でコシヒカリをササニシキに変える度胸はなく……(いなかったらやってたのか!?)

 前置きはこれくらいにしまして、ディスカッションの様子をお伝えしましょう。

 虚実ないまぜの語りに気持ちよく翻弄された方、戸惑いの大きかった方などさまざまだったようです。

 感想も対極的なものが見受けられました。

・「読んでいるうちに前提が変化してしまう」⇔「迷子になる感じがいい」

・「途中で実在の人物が出てきて一体なにを書こうとしているのかわからなくなった」⇔「上手にリアルに落とし込んでくれた」

・「そもそも書いてあることが信用できない」⇔「嘘が書いてあると予測して読むと楽しい」

・「二人とも話し合えばもっと短く終わってた」「そこまでする?」⇔「ライバル同士のかけひきを楽しんだ」

 また、クラシカルなミステリー小説だと思って読み進めていたのに途中から思いもよらない方向に転じていってどうしていいのかわからなかったという感想は各テーブル共通してあがっていたようです。

 そして容易には解けない謎……(かなり意味不明な表現であることをお許しください。未読の方のお楽しみを奪いたくありませんので)

「本当に○○だったの?」

——さぁどうでしょう? 映画ははっきりと描いていましたが。

「あの日記は○○されてたの?」

——それらしい記述はありますが、どの程度なのかわかりませんね。

「二人の日記の最後の文章は何を意味してるんだろう?」

——既読の方もぜひもう一度見返してみて下さい。

「“アレ”の後で残るのってどっち?」「最後に出てきた人は誰?」

——多分“あっち”だろう、多分“あの人”だろうということで大方の意見は一致しましたが仮説はいくつもありましたね。

「gはグラム? ギニー?」

——おそらくギニーと思われます。グラムの前提で話し合ってたテーブルの仰天ぶりといったら!(笑)

「23って何?」

——最後の方にでてくるある数字。○○○○/23とあります。お分かりの方、札幌読書会までメール下さい!

 なかなか鋭い指摘も。

「ジャーナリストが話をややこしくしてるだけぢゃ……」

——た、確かに……

「すべてを仕組んだのは“ほにゃららさん”である!」

——なんという斬新な説! 言われてみたら確かに無理がない!(字数で見当がついてはいけませんので「ほにゃららさん」としました)

 話せば話すほど疑問が湧いてきて、これだ! という答えもなかなか見つからない。これぞ幻想小説の醍醐味でしょうか?

 迷子になる感覚がクセになりそう♪という方はプリーストファンからおススメのあった『逆転世界』『魔法』も必読かもしれませんね。

 そして休憩をはさんで今回の目玉企画【奇術師×奇術師】の始まりです。

 プロマジシャンにパフォーマンスだけでなく課題書を読んで話をしてほしいというあまりに風変わりなこの企画。頼む方も頼む方だけど、あっさり引き受ける方も大物。

 一体これからなにが始まるのだろうかと会場内はとまどい半分のそわそわした雰囲気です。

 ではまずざっくりとした感想を……と水をむけたらなにやら挙動不審なスペちゃん……あれ? 体調悪いですか? 大丈夫? ……いやその、あ、ちょ、ちょ待っ……(場内きゃーっ! の悲鳴)口から超絶危険なものをするする〜っと出してすっきりにっこりのスペちゃん。感嘆とともに自然と拍手が。このパフォーマンスだけで今までのビミョーな空気が一変、もう期待しかない! というワクワク感に満ちています。魔法がかかった瞬間でした。

 進行役の世話人もポカンとしそうになり、慌てて軌道修正です。いざ質問をば!

「エンジャとボーデンはどちらが共感できる?」

——ボーデンだそうです。その理由には会場中が納得。

「もし“アレ”が手に入ったら使いますか?」

——ここでいきなり銭ゲバキャラに変身したスペちゃん。そうか、それがプロの考え方なのか……

「小説内での(マジシャンによる)インチキ降霊術は許せますか?」

——スピリチュアルの入り口から話はメンタリズムの深〜いところへ。

「映画と小説を比較しての感想は?」

——ダンゼン小説がお気に入りだそうです!

 どんどん話は広がり、ご自身のマジックとの出会い、ギョーカイの裏話とビジネス観、マジシャンとして生きる者かくありたしというご自身の理想像まで、一を聞いたら十返ってくるくらいの勢いでたくさん話して下さいました。

 もちろんマジックのパフォーマンスもこってりと。

 ボーデンのカードトリックの再現、「分身」が増えていくコイン(しかも質量が、が!)、そしてその名もズバリ「閃光の中で」(>エンジャの演目名)など課題書にちなんだオーダーメイドのマジックです。なんだかとっても贅沢な気分。

 それからは怒涛のスペちゃんオンステージです。出たり消したり移動したり、心の中を読まれちゃったり、失敗したら流血の大惨事! というハラハラものだったりと息つくヒマがありません。かと思えばランダムに開いた本のページの内容が…! というマジックで使ったのがS・キングの『小説作法』という小粋な演出でミステリーファンを唸らせたりとサービス満点。

 その後の懇親会もずーっとスペちゃんのボール支配率は100%(笑)

 何気ない話の延長には必ずマジックありという、あなたどれだけ仕込んでるんですか!? と問い詰めたくなるほど徹底的に楽しませてくれました。

(当日のネタの一つはFBで紹介されていますのでどうぞ)

https://www.facebook.com/marion.spencer.10/posts/10155109558901112?pnref=story

 ご参加の皆さんも楽しんで下さったようです。当日のアンケートで寄せられた感想を一部ご紹介しますね。

「生のマジックやマジシャンの話を体験できる機会はなかなかないのでよかったです」

「奇術業界のお話、非常に興味深かったです。パフォーマンスも楽しかった」

「小説への理解・味わいが全く違ってきました。奇術は思っていたよりずっと魅力的です」

「同じ本を読んでいる会ならではのパフォーマンスが素晴らしく、感動しました」

「びっくりした。全部、見抜けませんでした」

 鮮やかに騙されることがとっても楽しいのはミステリー小説もマジックも同じですね。

 新鮮な驚きと笑顔、時にはほっこり幸せ気分にもなれたりして、マジックって奥深いんだな〜と感動しました。

 奇術(師)を題材にしたミステリー小説も多いので、またいつか、読書会にスペちゃん登場! ということもあるかもしれませんよ!

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