◆館から町へ! そしてふたりの運命は……◆(古屋美登里)

 ルーシー!!!

 クロッド!!!!!

 うわああああ!

 という悲鳴をあげずにはいられなかったのが、アイアマンガー三部作の第一巻『堆塵館』でした。はい。そして、読者のみなさまからは——

 まさか、そんな。ひえええっ! 

 ひどい、ケアリー。どうしてこんな……。

 次を早う! 

 助けて〜! 堆塵館から出られない!

 東京創元、二巻は? 第二巻だよ。 

 古屋、なにしとる、本気出せよ、ごらあ! 

 二巻が出ることを心から信じております! 

 あんまり待たせるなよ、なあ! 泣かすぞ、おい。

 この作品に巡り会えて幸せです! 

 こんな面白い小説を読んだのは初めてです! 

 次、どうなっちゃうの〜〜!

 ——という、身の引き締まるようなさまざまなお言葉をいただきました。本当にありがとうございます! みなさまがクロッドとルーシーの物語を、ひいてはエドワード・ケアリーの作品を応援してくださったおかげで、こうして第二巻を刊行することができました。そして来冬には第三巻『肺都』が刊行される予定です。翻訳者冥利に尽きるとはこのこと。感涙に次ぐ感涙!

 第一巻ではアイアマンガーの不思議な館で起きるさまざまな出来事が描かれていましたが、最後になってルーシーとクロッドはあんなことになってしまい、ふたりはもう、あろうことか、人の姿をしていません。そんなふたりが再会することはできるのでありましょうか。心配に次ぐ心配!

 第二巻冒頭は、ジェームズ・ヘンリー・ヘイワードという男の子の話から始まります(『堆塵館』を未読の方、ごめんなさい、ものすごいネタバレをしでかしました。でも、大丈夫。それでも充分に面白いのが『堆塵館』ですから)。

 舞台がごみの山からいきなりフィルチング、いまは「穢れの町」と呼ばれている貧民窟に移ります。かつてルーシーが暮らしていた町、ジェームズ・ヘンリーの家族がいる町です。ジェームズ・ヘンリーは家庭教師のクリュックシャンクス先生といっしょに巨大な「月桂樹の館」に住んでいて、金貨を肌身離さず持っているように言われています。どうやらこの館には何かを作っている工場があるみたいです。彼は館の外に出たくて仕方がありません。そしてある朝、機転を利かしてまんまと外に出られたのですが、お腹が空いていたために大事な大事な金貨で、なんと、パイを買ってしまうのです。ちょっと、ちょっと! ああ……ジェームズ・ヘンリーは大事な金貨を手放してしまいました。

 一方、堆塵館の外に広がる屑山の下には、不思議な生き物がいます。ビナディットという言葉しか発しない、ごみの精のようなものです。このビナディット、どういうわけかボタンが大好きで、屑山の上にときどき出ていっては、いろいろなボタンを探し出し、缶にしまって大切にしています。ある日、素敵なボタンを見つけました。彼はボタンのことを「ボットン」と言っています。

『堆塵館』に登場するアイアマンガーたちの変人ぶり、奇矯ぶりにはびっくりしましたが、『穢れの町』にもそれに負けないくらい面白い人物がたくさん住んでいます。「仕立屋」や「ホワイティング夫人」「ウンリー」「オッタ」など非常に印象的な人たちです。

 また今回もケアリーの描く独特な味わいの挿絵がたくさん入っていて思わず見とれてしまうはずです。

 アイアマンガー一族と屑山は、そして人と誕生の品はこれからどうなるのでしょう。裏表紙に描かれているクロッドは、どうしてこんなに悲しい表情をしているのでしょう。ルーシーはクロッドを見つけられるのでしょうか。

 町に暮らす人々との出会いを通じて徐々に明らかになっていく町の全貌。そして本書『穢れの町』は、次なる冒険への序章でもあるのです。

 さあさあ、今回も心をまっさらにしてケアリーの世界に突入してください。

 本書には、作家の深緑野分さんが「熱い」解説を寄せてくださいました。これほどケアリー愛に溢れた文章をわたしはほかに知りません。解説を読んだ方もこの熱病に全身感染し、ふと気づくとなにか別のものになっていたりするかもしれません。

 本サイトの「イベント・カレンダー」にも掲載されていますが、本書の刊行記念として六月十六日(金曜日)午後七時から代官山蔦屋書店一号館二階イベントスペースでトーク・イベントをおこないます。ゲストは翻訳家で法政大学教授の金原瑞人さんです。サインもどしどしいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。(詳細は こちら

古屋美登里(ふるや みどり)

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 著書に「BURRN!」で連載している書評をまとめた『雑な読書』(シンコーミュージック)。訳書に、映画「光をくれた人」の原作M・L・ステッドマン『海を照らす光』(ハヤカワepi文庫)、イーディス・パールマン『双眼鏡からの眺め』(早川書房)、エドワー・ケアリー『望楼館追想』(文春文庫)、ダニエル・タメット『ぼくには数字が風景に見える』(講談社文庫)、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』『兵士は戦場で何を見たのか』(以上亜紀書房)など。倉橋由美子作品復刊推進委員会会長。倉橋由美子の単行本未収録エッセイ集『最後の祝宴』(幻戯書房)を監修刊行。

 Twitterアカウントは @middymiddle

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■解説担当者・深緑野分さんよりひとこと■

『穢れの町』解説を担当しました深緑野分です。

 今回は訳者の古屋美登里さんとあわせてWみどりでやらせて頂いております。

 とりあえず今回言いたいのは、ケアリー、あんたなんでいつもいつもこんなに容赦ないの……ということです。

 悲惨でダークで、きりきりと不安にさせ、心の奥底をえぐってくる。

 それにもかかわらず、頭からおしりまで冒険活劇という大変見事な作品です。

 早く続きが読みたい、でもいつまでも終わってほしくない、終わるのがもったいない。

 読者を恋い焦がれるような気持ちにさせてくれるアイアマンガー三部作第二部『穢れの町』ぜひ、読んで下さいね!

(作家:深緑野分)   

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