今月は、吸血鬼のナサニエル・ケイドを主人公とした三部作(”Blood Oath”、”The President’s Vampire”、”Red, White, and Blood”)を上梓しているクリストファー・ファーンズワースの新シリーズ第一作、Killfile(William Morrow、2016年)を取り上げます。

 テレパスであるジョン・スミスは、株式市場の動向を読み取るソフトウェア、〈スパイク〉を開発して巨万の富を築いたエヴェレット・スローンからある依頼を受ける。

 スローンはデータマイニングを専門とする〈オムニヴォア・テクノロジーズ〉を興したイーライ・プレストンが開発した〈カッター〉は〈スパイク〉の模倣だと主張、〈カッター〉を盗み出すだけではなくプレストンの頭脳からもその記憶を消去してほしいと持ちかけてきた。

 かつて部下だったプレストンは〈スパイク〉のアルゴリズムを記憶することで社外に持ち出した、とスローンは見当をつけていた。

 報酬はワシントン州の沖合に浮かぶウォード島。スローンが所有している無人島で、自給自足が可能な住宅も既に建てられている。周囲の人々の意識が絶え間なく頭に流れ込んでくるジョンにとっては理想の環境だ。

 過去に一度だけ他人の記憶を消去したことはあるがもう一度できるか分からない、とジョンは答えるものの、スローンは「ウォード島で暮らしたければやり方を思い出すことだ」とにべもない。

 結局、一人で過ごせる環境の誘惑には勝てず、依頼を引き受ける。

 ジョンはスローンの部下、ケルシー・フォスターとともに新設されるデータマイニング部門の担当者という触れ込みでプレストンに接触する。しかし会見が始まった途端、どこからかEメールを受け取ったプレストンは突然ジョンを殺すよう護衛の部下たちに命じ、二人は逃亡を余儀なくされる。

 スローンはスイスで開催される著名な実業家や政治家たちとの会議に出席しており、連絡がとれない。また留守を預かっている弁護士のゲインズは、ジョンが恐喝行為に及んだというプレストンからの連絡をたてに救援要請を無視する。

 なんとか泊まっていたホテルに戻ると、既に〈オムニヴォア〉の保安部門の男たちが待ち構えていた。襲撃はかわしたものの、ジョンは銀行口座のみならず、全財産をプレストンに差し押さえられてしまう。

 孤立無援となったジョンはある男に連絡を取るが……

 他人の思考を読み取る力を持った主人公は孤児として育ち(ジョン・スミスという名前も孤児院でつけられたもの)、高校卒業と同時に里親の家を出て軍に入隊、隠していた能力を見出され、特殊部隊に編入される。

 相手の行動を操るだけでなく、苦痛や不快感を体験させる能力を習得して数多くの任務に駆り出されるものの、ある事件をきっかけに除隊、以後はテレパスの能力を活かしたコンサルタントとしての地位を築いていた。

 しかし常に他人の思考が頭の中に侵入してくるため頭痛に悩まされ、痛み止めや酒に頼らざるを得ない。また、その能力を発揮するには直接相手と対峙しなくてはならず、他人に苦痛を与えると自分にも幾分かは跳ね返ってくるのでその後遺症にも苦しめられている。

(余談ながら、石ノ森章太郎が1960年代に発表した『ミュータント・サブ』を読み返すとジョンの能力との共通点が多いことにあらためて驚いた。)

 物語は〈オムニヴォア〉との闘いと並行して主人公の生い立ちから入隊、そして除隊するまでの回想が織り込まれる構成で進められる。

 ジョンがその特異な能力に加え、特殊部隊で訓練された工作員としての本領を発揮して反撃する描写も読み応え充分だが、軍隊時代に経験した様々な任務等、彼がこれまでたどってきた人生も細やかに描かれているおかげで物語全体が奥行きのあるものとなっている。

 また事件に巻き込まれてしまったケルシーも最初こそ途方に暮れてジョンに頼らざるを得なかったものの、覚悟を決めた後は状況を冷静に分析、直接対決を主張するジョンに対してプレストンへの最も効果的な報復を提案するという活躍ぶりを見せる。

 2017年6月にはシリーズ第二作 “Flashmob” が発表される予定だが、ユニークな設定がどのように展開されていくのか、今から楽しみだ。

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀生半ばの生まれ。遅ればせながら2月に『シング・ストリート 未来へのうた』(監督:ジョン・カーニー、2015年)を鑑賞、幸福な気分を味わう。この作品で主人公の兄を好演したジャック・レイナーは『フリー・ファイア』(監督:ベン・ウィートリー、2016年)にも出演、短気で粗暴な犯罪者を怪演していました。

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