アメリカのベストセラー・ランキング

10月25日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

 

  1. 1. THE RETURN    Stay

Nicholas Sparks ニコラス・スパークス

医師として従軍したアフガニスタンで大怪我を負ったトレヴァーは、ノースカロライナ州へもどり、祖父が遺した小屋で蜂の世話をしながら暮らしはじめる。近隣のトレーラーハウスに住む10代の少女キャリーと知り合い、保安官代理のナタリーと恋に落ちて、ふたりとのかかわりから祖父の死にまつわる謎について知ることになる。

 

2. TROUBLES IN PARADISE    New!
Elin Hilderbrand エリン・ヒルダーブランド

事故死した夫ラスが生前家族に隠して二重生活を送っていたカリブの島へ移り住んだアイリーンは、突然やってきたFBI捜査官の話から、またも知らなかった夫の一面を知ることになる。ラスが乗っていたヘリコプターの墜落は事故ではなかったのか。“サマー・ノベルの女王”と呼ばれる人気作家が2018年から毎年秋に発表しているウインター・イン・パラダイス3部作完結編。

 

3. LEAVE THE WORLD BEHIND    New!
Rumaan Alam ルマーン・アラム

一週間の休暇をロングアイランドの別荘地で過ごそうと、豪奢な邸宅を借りてやってきた白人家族のもとに、物件の持ち主を名乗る黒人夫妻が突然現れた。夫妻はニューヨークじゅうが停電でどこへも行けないと言うが、テレビもインターネットも携帯電話も不通で街のようすはわからない。非日常の状況下で居合わせることになった2つの家族を通し、人種、階級、親子など現代の様相を描く。全米図書賞最終候補作。

 

4. THE INVISIBLE LIFE OF ADDIE LARUE    New!
V.E. Schwab V.E.シュワブ

17世紀末のフランスに生まれたアディー・ラルーは、望まない結婚と平凡な暮らしから逃れるために悪魔と取引をする。しかし魂と引き換えに、永遠の命とともに与えられたのは、誰と出会っても相手の記憶から消えてしまうという運命だった。孤独なアディーの人生に変化が訪れるのは300年が経ったころ、彼女を憶えていられる人物が現れたときだった。

 

5. THE SEARCHER    New!
Tana French タナ・フレンチ

都会の犯罪捜査と離婚のごたごたで疲れ果てた元刑事カル・フーパーは、25年務めたシカゴ警察を辞めてアイルランドの小さな村へと居を移す。だが、凶悪事件と無縁の土地で静かな暮らしを始めようとしていた矢先、行方不明になった兄弟を捜してほしいと助けを求める少年がカルのもとを訪れる。エドガー賞作家によるスタンドアロン・スリラー新作。

 

6. MAGIC LESSONS    New!
Alice Hoffman アリス・ホフマン

オーウェン家は代々魔女の家系で、200年前からの呪いにより、この家の女たちが愛した男は皆早死にしてしまう。一家にかかる呪いの発端は、彼女たちの祖先マリア・オーウェンズが生きた17世紀末のアメリカ、マサチューセッツ州セーラムで起きた出来事にあった。1998年に小説と同じタイトルで公開された映画の原作『プラクティカル・マジック』(集英社文庫)の前日譚。

 

  1. 7. THE EVENING AND THE MORNING    Down

Ken Follett ケン・フォレット

暗黒時代が終わりを迎えつつあった10世紀末のイングランド。ヴァイキングにさらわれた船大工、夫の故郷で暮らすために海を渡ったノルマン人の貴婦人、みずからの修道院をヨーロッパの学問の中心にしようと夢見る修道士らの波乱の人生を描く。世界的なベストセラーとなった『大聖堂』の前編にあたる物語。

 

  1. 8. THE BOOK OF TWO WAYS    Down

Jodi Picoult ジョディ・ピコー

大学院で古代エジプト学を研究していたドーンは、病気の母のために研究を諦めて帰郷し、やがて結婚して娘を出産、今はボストンの病院のホスピスで働いている。ある日、ドーンは乗っていた飛行機の事故で九死に一生を得たのち、ふと考える。自分の人生はこれでいいのだろうか、15年前に交際していた考古学研究者のワイアットは今どうしているのだろうか――

 

  1. 9. ANXIOUS PEOPLE    Down

Fredrik Backman フレドリック・バックマン

大晦日前のスウェーデン。子供の親権を失うまいと銀行を襲うも、あえなく失敗した犯人が、内覧会開催中のアパートメントへ逃げこむ。その場に居合わせた妊婦、老夫妻、銀行家など8人が人質に。警察の取り調べにより、その後の思いもよらない顛末が明らかになる。

 

  1. 10. THE VANISHING HALF    Down

Brit Bennett ブリット・ベネット

1960年代、肌の色の薄い黒人だけが住むルイジアナ州の小さな町を16歳で飛びだした双子の姉妹デジレとステラ。デジレはより肌の色の濃い夫との間に生まれた娘を連れて故郷の町へ戻るが、一方のステラは「白人」として生きることを選び、ブロンドに青い目の娘を産む――双子の姉妹とその娘たち、ふたつの世代の目を通じて黒人にとっての肌の色とアイデンティティの問題を描く。

 

 

【まとめ】

先週1位に登場したニコラス・スパークスの順位は変わらず、2位以下6位までの5作品がすべて新作に入れ替わりました。2位のヒルダーブランドは夏のベストセラー・リストの常連ですが、他シーズンの作品も人気があり、本作は昨年、一昨年と秋に発表されたウインター・イン・パラダイス3部作の3作目となります。3位の“LEAVE THE WORLD BEHIND”は、サム・エスメイル監督、ジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントン主演で映画化が進んでいるほか、2020年度の全米図書賞の最終候補作としてノミネートされている話題作です(発表は11月)。4位は、Victoria Schwab名義でも児童書・YA作品を多数発表している人気作家による歴史ファンタジー。著者の脚本による映画化が進行中とのこと。5位は長編デビュー作でダブリン殺人課シリーズ1作目となる『悪意の森』(集英社文庫)でのエドガー賞新人賞受賞をはじめ、多数の受賞歴をもつアイルランド在住作家。アイルランドを舞台にしたミステリを書きつづけています。本作は前作“THE WITCH ELM”に次ぐ、スタンドアローン2作目。6位のホフマンは現実にファンタジーが織りこまれた作風で知られ、邦訳はほかに『ローカル・ガールズ』(みすず書房)、『恋に落ちた人魚』(アーティストハウス)など。その他15位までのリストに新作はなく、“WHERE THE CRAWDADS SING”(『ザリガニの鳴くところ』)は12位で今週も健闘しています。

    1. 吉井智津(よしい ちづ)

      翻訳者。10月15日に最新訳書アンナ・シャーマン『追憶の東京 異国の時を旅する』が早川書房より刊行されました。英国在住の作家による新しくて懐かしい東京案内のエッセイです。訳書はほかにナディア・ムラド『THE LAST GIRL―イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(東洋館出版社)など。