日本には「盆と正月が一緒に来たよう」というめでたさを表す言葉がありますが、中国では「クリスマスと正月」が一緒くたにされるケースがあります。クリスマスの飾り付けが年を越してもそのまま残され、「メリークリスマス」と「ハッピーニューイヤー」の文字が同じ景色の中に並ぶのです。このクリスマスムードがいつまで残っているかというと、大体「春節」(旧暦の正月)までです。中国人にとってはクリスマスどころか1月1日のニューイヤーも眼中になく、本命は「チャイニーズ・ニューイヤー」とも言われる旧正月です。しかしアジアを見てみると、韓国とか東南アジアにも春節はあるので、日本のように旧暦の行事がほとんどなくなってしまった国の方がアジアでは珍しいかもしれません。

 

北京のショッピングモールで新年を祝うクリスマスツリー

 

 西洋行事を祝うことに関する議論はたびたび中国で巻き起こり、今年も中国の大学寮で感謝祭のお菓子を配った管理人が学生から大学に通報されかけるという事件が起きています。このように西洋行事は一部ではまだデリケートな扱いです。しかし一般的に言うと、公共の施設に西洋の飾り付けがされることは少なく、商業施設やマンションなどにはツリーもあればサンタやベルの飾りもあり、一般人がクリスマスを祝うのは問題ありません。

 

クリスマスパーティー仕様のライブハウス

 さて今回はせっかく掲載日がクリスマスイブとなっているので、クリスマスを題材にした華文ミステリーの短編作品をピックアップしようと思います。日本語タイトルはほぼ仮訳、発表・掲載年はあくまで自分が確認できたものなので、間違いがあるかもしれません。

 

● 羅修:『聖誕夜両大疑案』(クリスマスイブの二大事件)(2006年) 
 1999年12月25日、蒙太奇学院の学生たちが上演した『オペラ座の怪人』で事件が起こる。エリック役の衛子駿が胸を刺されて本当に死んでしまったのだ。警察の疑惑は劇中でエリックを刺したクリスティーヌ役の田冶に向けられるが、彼女は本番前に衛子駿から直接ナイフを受け取ったと言い、その時は確かに偽物のナイフだったと主張する。そこに「阿修羅」というあだ名の学生・羅修が現れ、事件の捜査に乗り出す。
 そして2000年12月26日、田冶から女子寮で行うパーティに誘われた羅修は、田冶の隣室の学生・陸敏秋の自殺に遭遇する。彼女が生前、彼氏の楊天と仲違いをしていたことで楊天による殺害が疑われたが、彼はその時間帯にゲームをしていたと言う。そのゲームは20分ごとに自動セーブがされ、計画殺人でもない犯行でその20分の間に陸敏秋を殺し、現場を片付けて男子寮の自室に戻るのは不可能だった。
 二大事件と言いながら、その二つに関連性が全然ないのが逆に驚きます。どちらもパソコンやゲーム、Eメールというデジタルなものが事件の鍵を握っていて、羅修がその方面での捜査能力を発揮するという展開が共通点でしょうか。
 ちなみにこの羅修という作家は1980年に生まれ、2007年に亡くなった早世の作家で、現代中国ミステリーの初期に活躍しました。

 

● 林斯諺:『聖誕夜奇跡』(クリスマスイブの奇跡)(2007年)
 毎年、サンタクロースからプレゼントをもらっていた少年は、サンタの存在を否定するクラスメイトたちをクリスマスイブに家に招き、サンタのプレゼントを実際に見せてその存在を証明する。時が経ち大人になった少年は、サンタの正体が「父親」だということに気付いたが、当時父親は自分たちのそばにいて、プレゼントが置かれた部屋が密室だったため、その方法までは分からなかった。そこで彼は探偵にサンタ探しを依頼する。
『子どもに捧げるミステリー』(参照:第62回:中国で子ども向け短編推理小説集発売http://honyakumystery.jp/12371)に収録されており、殺人などが起きない密室を題材にした日常ミステリーです。

 

● 等待者:『聚散戯劇之六人』(集散ドラマの6人)(2008年)
 
クリスマスを一緒に過ごすために雪の別荘に集まった戴等らミステリー小説マニアの6人。別荘には翻訳ミステリーなら全て読んだという熊志摩、エラリー・クイーンの大ファンの笵嘉儀、グループ内から突如姿を消した奇人の江子揚らがいたが、発起人で館の主人である裘冲の姿はなかった。そして嫌な雰囲気が漂う中、雪の密室で笵嘉儀と江子揚の死体が見つかる。さらに地下室には裘冲の首吊り死体が。
 ミステリーマニアの集いを描いているだけあって、セリフに数々の古今東西のミステリー作品が登場します。披露される推理の中に新たな手掛かりが、些細な行動の中に事件の核心が潜んでいて、読み進めるほどに謎の配置の妙にうならされる力作です。

 

● 王稼駿:『聖誕夜的悲劇』(クリスマスイブの悲劇)(2008年)(未読・未購入)
 同名タイトルの短編集に収録されている作品なのですが、その本が手元にないため内容が確認できず、ネットにはあらすじすらも見つかりません。王稼駿のシリーズではおなじみの名探偵・左庶が活躍する話のようです。

 

● 御手洗熊猫:『聖誕夜的詛呪』(クリスマスイブの呪い)(2010年)
「神」を名乗る男が有名人の死を次々と予言。その予言はどれも実現し、彼が指名した人物は密室で焼死、国旗のポールで縊死など不可解な状況下で死ぬ。そして男は最後に自分自身の死を予言すると、実際に背中を刺されて死んでしまった。一体誰が予言の内容を実行しているのか、そしてその目的は何か。
 どの被害者も実現不可能に見える方法で殺害されていて、真相を知った読者は被害者間の関係性に思わず清涼院流水の『コズミック』を思い浮かべることでしょう。
 本作は御手洗熊猫のお馴染みの『御手洗濁』シリーズの一作で、日本を舞台としていて、鮎川や天城など聞き覚えのある名前のキャラクターが登場します。面白いのは、犯人の犯行動機について御手洗濁が、外来のクリスマスが流行して自国の伝統的な祝日が忘れ去られていることに対する憎しみが原因だと述べ、御手洗濁自身も同様にそれについて怒り、嘆いている点です。これは、作者の目を通して当時の日本の排外主義的な雰囲気を描写しているのか、それとも当時の中国の状況を日本に置き換えて作者が思いを吐き出していたのかは不明です。

 

● 夏日猫:『聖誕老人是小偷』(サンタクロースは泥棒)(2010年)
 
家庭に恵まれず、小さな頃から窃盗で生計を立ててきた永寧と雅韵の兄妹。父親の誕生日でもあるクリスマスに雅韵が永寧のために用意した「仕事着」袋にはサンタクロースの衣装セットが入っていた。仕方なくサンタの格好をして盗みに入った部屋には子どもがおり、サンタと勘違いされてしまった永寧はプレゼントの代わりにその子の願いを聞き、公園に飛んでいってしまった風船を探すことになる。風船には子どもが両親に宛てた手紙がくくりつけられており、手紙を持って永寧が部屋に戻ると、そこには若い夫婦しかいなかった。そして、夫婦の息子は2日前に事故で死んだと言う話を聞かされる。
 幽霊の存在を信じたくなるような話ですが、部屋にいた子どもの正体は一応推理されます。しかし正体が幽霊でも本当の人間でも、心温まる話には変わりありません。

 

● 騰騰馬:『衆里尋她千百度』(大勢の人の中から彼女を探し回る)(2011年)
 
男子大学生の「あなた」は、クリスマスイブに金持ちのボンボンと行方をくらました恋人・党静を見つけるため、彼女らの昨日の足跡を辿る。25章で構成されている本作は、ゲームブックのように各章の終わりに「○○なら2に進む。☓☓なら25に進む」という選択肢がついており、選択肢に従いページを前後にめくっていくうちに恋人が何らかの犯罪事件に巻き込まれていると気付く仕掛けになっている。「あなた」はあらゆる場所で恥をかいて必死に恋人を探し、ついには恋人のために正義か悪かの二者択一に迫られることになる。
 第1回華文推理グランプリで3等賞になった作品。作者の騰騰馬は2015年に長篇ミステリー『烏鴉社』を出していて、これもまた恋愛のせいで行動に見境がつかなくなる男子学生を描いています。(参照:第21回:サークルの枠組みを超えた学生団体を描く中国ミステリ『烏鴉社』

 

● 陳浩基:『聖誕老人謀殺案』(サンタクロース殺し)(2012年)
 
ホームレスになったテイラーは、クリスマスにニューヨークの街角で仲間たちと暖を取っているとき、ジョンという男からサンタクロースにまつわるお話を聞く。空から降りてきたトナカイのソリにサンタの首無し死体があったという話を聞き、死体の様子に違和感を覚えたテイラーはその犯人を当て、犯人と自身の境遇を照らし合わせる。
 数ページほどの掌編小説。本作は『ディオゲネス変奏曲』(訳・稲村文吾)に収録されています。

 

● 暗布焼:『聖誕節謎案』(クリスマスの事件)(2014年)
 
秘密組織がクリスマスにデパートのイベントで薬物を散布するという情報を掴んだ羅半夏は現場で茂威汀から捜査の協力者を紹介される。そしてイベントの開幕式で開けられたくす玉からは、協力者の死体が出てきた。だがそのくす玉はずっと吊るされ、事前に開けられた形跡もなかった。
 どうやらシリーズ物らしく、重要人物の名前や過去の因縁話が次々出るのですが全然没入できない。ただ、デパートのクリスマスイベントが「派手」なものとして扱われ、にぎやかなムードの場所が事件の舞台に選ばれているのがポイント高いです。

 

● 呉非:『Beijingle all the Way』(ベイジングルオールウェイ)(2019年)
 
雪が降るクリスマスイブに偶然久しぶりの再会を果たした2人が、深夜に串焼きを食べながら交通情報を提供するラジオを聞いていたところ、あるタクシードライバーからラジオDJに向けた電話が流れてくる。内容を聞いた2人は、ドライバーが危機的状況にあることに気付き、ドライバーを救うために行動に出ます。
 以前、第65回:誘拐ミステリーで上海観光?!で取り上げたことがあります。作者いわく、北京を舞台にしたサスペンスと本格要素が融合した作品で、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』に収録されたようです。

 

 以上、紹介した作品は他者の協力もあって探し出せたもので、これらが全てではありません。台湾・香港ミステリーをさらに漁るともっと見つかったでしょう。また、日本を舞台にした作品もありましたが、それはここで取り上げませんでした。
 ラインナップからも分かる通り、タイトルに「聖誕」と書いてくれたら分かりやすいし、検索にも引っかかりやすいのですが、それ以外だと見つけるのがとても大変です。不可能です。

 今回、SNSでアドバイスを求めもしましたが、役に立ったのが中国のミステリー専門雑誌『歳月推理』及び『推理世界』でした。毎年の12月号を開いてクリスマス関係の短編が載ってないかを調べられた他、2006年にクリスマス・スペシャル号が出ていると知って電子書籍を購入し、羅修の作品を読むことができました。その結果、クリスマスのムードや要素がミステリー小説の題材としてすでに成立していることが分かりましたが、どうもここ数年はこれをテーマにした作品が出ていないようです。『歳月推理』は電子書籍に移行して今でも毎月更新されていますが、短編よりも長編作品を連載しているので、やはり投稿自体が少なくなっているのでしょう。クリスマス短編集が出てほしいのですが、だったら先に春節短編集を出せという意見が上がると思うので、今の時代の風潮だと難しいかもしれません。しかし作家には今後もクリスマスだろうがバレンタインデーだろうが、どんどんネタにしてほしいですね。

阿井幸作(あい こうさく)

 中国ミステリ愛好家。北京在住。現地のミステリーを購読・研究し、日本へ紹介していく。

・ブログ http://yominuku.blog.shinobi.jp/
・Twitter http://twitter.com/ajing25
・マイクロブログ http://weibo.com/u/1937491737







現代華文推理系列 第三集●
(藍霄「自殺する死体」、陳嘉振「血染めの傀儡」、江成「飄血祝融」の合本版)


現代華文推理系列 第二集●
(冷言「風に吹かれた死体」、鶏丁「憎悪の鎚」、江離「愚者たちの盛宴」、陳浩基「見えないX」の合本版)

現代華文推理系列 第一集●
(御手洗熊猫「人体博物館殺人事件」、水天一色「おれみたいな奴が」、林斯諺「バドミントンコートの亡霊」、寵物先生「犯罪の赤い糸」の合本版)


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