お待たせしました。当サイトの名物連載である〈書評七福神の今月の一冊〉が本になります。

 タイトルは『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリガイド2011-2020』。ちょっと長いけど、本屋さんには「書評七福神の本」で伝わるのではないかと思います。収録期間は七福神が現行のメンバーになってからの約9年間で、2010年代の翻訳ミステリー界はこの本を読むことで全体像を眺望することができるはず。ブックガイドとしてぜひご活用ください。

 ずっとネットで読んでくださっている方もたくさんいると思います。ご存じのとおり、この連載は到着順で原稿を配置しているのですが、実際にそれで並べてみると本では読みにくい。同じ本が何度も出てくることになりますから。なので、一冊の本に関するレビューはまとめて、執筆者が多い順に並べ直してあります。また、ところどころに書下ろしのコラムも挿入しました。内容は見てのお楽しみ。ブックガイドとして利用していただくための配慮として、索引もがんばりました(編集部が)。作品順、作者名順まではよくありますが、この本には訳者名順の索引がついています。訳者のお名前で引けるブックガイドというのは、ちょっと珍しいんじゃないかな。これは版元の意向です。これだけたくさんの海外作品を読めるのはひとえに翻訳者あればこそなので、少しでもそのご尽力のほどがわかるように、ということなのです。「充実の索引!」と本当なら表紙にも書きたいぐらい。ちなみに七福神が9年間でとりあげた作品数は520でした。数えました(編集部が)。

 この連載は本サイトが誕生したのと同時に始まりました。開設に際し、最初に決めたのが毎日何かの連載が更新されるサイトにしようということです。そのために案を出していきました。連載のいくつかは杉江の発案ですが、どれがそうだったかはもう忘れてしまいました。たしか「【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!?【毎月更新】」なんかは私が考えた気がするなあ。もう10年以上昔のことなので、忘れてしまいました。

 覚えているのは、当時mixiで更新していた霜月蒼の「アガサ・クリスティー攻略作戦」をこっちに持ってきてもらおうと説得したことです。これは私が言い出しっぺではなくて、当時の事務局で話しているときにいつの間にかそうなったはず。「これは翻訳ミステリーのためのサイトで、翻訳ミステリーについて必要な情報は全部入っている場所になるんだから、あの連載も当然来るべきだ」と当人の意志を確認する前に、じゃあ火曜日に書いてもらおう、たぶん週一で大丈夫なんじゃないか、そうしよう、と決めていたのを覚えています。もちろん後で快く承諾してくれたわけですけどね。

 では、七福神の言い出しっぺは誰か。

 これは北上次郎さんです。

「え、俺なの。違うだろ、松恋だろ」

 いや、そうなんですよ、北上さん。忘れちゃいましたか。そうですか。

「翻訳ミステリー大賞シンジケート」が創設されたのは、『ハヤカワ・ミステリマガジン』誌上連載で北上次郎さんと田口俊樹さんがホスト役を務めていた対談連載がきっかけです。翻訳ミステリーファンのために何かやれることはないか、とみんなが考えていく中でポータルサイトが一つあったらいいね、という話になったわけですね。そのご縁で初期には北上さんにだいぶお知恵を借りていました。相談をしている中で、情報サイトなんだから新刊書評だっているだろう。最前線の書評家が、自分のお気に入り、もうこれっきゃないって本を毎月薦めるんだよ、これは絶対必要だろ、な、と北上さんがおっしゃったので、そういうことになったわけです。書評七福神という名前もその雑談のときに決めたんじゃないかな。7人だから七福神。今にして思えば、七賢人とか七本槍とか他にもいろいろあった気がするんだけど、まあ七福神にしてよかったんじゃないですかね。おめでたいし。

 いろいろ連載が始まりましたが、終わってしまったものものたくさんあります。その中で書評七福神はみなさまのご愛顧をいただき、今日まで一度の中断もなくずっと続いています。もろもろの事情あって遅れてしまう月もあるわけですが、そこはまあご容赦ください。これからもずっと、七福神の誰かが、もういいや、やーめた、と言い出すまではこの陣容で続けていくつもりです。次に本になるのは2030年か。そのときにはみんな何歳になっているんだろうか。でも気長にがんばっていきますよ、これからも。

 大事なことを書くのを忘れてた。発売は5月23日予定、定価1980円(税込)です。版元は福岡のおもしろいことをいろいろやっている出版社、書肆侃侃房さん。本当だったら発売を記念して七福神でいろいろイベントをやれたらいいのだけど、残念ながらコロナ蔓延がまだ終息していないのでできません。ですけど、この機会に翻訳ミステリーフェアをやってみたい、という書店さんがあったらぜひお声がけいただけると嬉しいです。版元も乗り気なので、ぜひ何かやりましょう。また、東京の書店さんでポップを書かせてやるからちょっと来てよ、というところがあったらそちらもぜひ。とりあえずはまず七福神を代表して杉江松恋がお伺いします。店舗規模にかかわらず、遠慮なくどうぞ。

 あと何か書くことなかったっけな。あ、そうでした。電子書籍でも出ます。そちらもぜひ。

杉江松恋