田口俊樹

  明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。
 正月一日二日、ビートルズの長篇ドキュメント『ゲットバック』を堪能しました。ファンにはたまらんお宝映像満載の傑作です。遅刻したジョンを待つあいだ、残りの三人が音を出し合い、タイトル作の『ゲットバック』が徐々に形を成していくシーンなどぞくぞくしました。
 ただ、思いきって、勇気を持って、反論覚悟で言うと、ちょっとオノ・ヨーコ女史、出すぎ。まあ、あの頃はジョンと文字どおりべったりだったんで、しかたないと言えばしかたないんですけど。それと、そう、そんなふうに女史のことを快く思えないのは、女史への十代の頃の嫉妬をこの歳になっても引きずっているからなんでしょうかね?
 撮影されたのは1969年の1月で、私事ながら、私はちょうど大学受験のための試験勉強真っ最中でした。今日ここまで勉強したら、そのあとは文庫で小説を何時間読んでもいい、なんて決まりを自分でつくっていたのを思い出します。
 あれからなんともう半世紀以上も経ったのかと思うと、出るのはため息ばかりですが、いつかは過ぎる。それが時間ってもんですよね。だから明かぬ夜はないなんてこともいうわけで、このコロナ禍も過ぎますように。今すぐにでも!

〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕

 


白石朗

 翻訳ミステリー大賞の予備投票の締切が明日(7日)に迫っています。これをお読みのみなさま、ぜひとも昨年のおすすめ本を投票で教えてください(投票方法や要項は昨日掲載のこの記事を参照のこと)。

 年末の12月に、たまたま新刊訳書2冊の見本が到着しました。イアン・フレミング『007/ロシアから愛をこめて』(創元推理文庫)とジョン・グリシャム『冤罪法廷』(新潮文庫)です。前者はおなじみジェームズ・ボンドがオリエント急行の車内で活躍するシリーズの代表作で、同文庫の新訳プロジェクトの一冊。後者は新潮文庫では久しぶりのグリシャム作品であり、作家自身が熱心に活動している冤罪死刑囚の救済活動をテーマにした、やはりグリシャム邦訳作品ではひさびさの本領、リーガルもの。お手にとっていただければ幸いです。

〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS

 


東野さやか

 あけましておめでとうございます。
 二〇二二年になって最初に読み終えた本は、琉球料理家の山本彩香さんのエッセイ、『にちにいまし』(文藝春秋)でした。彩香さんの日々のていねいな暮らしが黄金言葉(くがにくとぅば/沖縄の先人の知恵と体験から生まれた教えの言葉)とともにつづられています。
 そのなかで、「六十代は、年(にん)のよーい。七十代は、月(ちち)のよーい。八十代は、日々(ひーびー)のよーい。九十代は、時(とち)のよーい。」という言葉が紹介されています。「六十代は、一年ごとに弱る。七十代は、一月ごとに弱る。八十代は一日ごとに、九十代は一時間ごとに弱る。」という意味で、彩香さんはこれを、「人はこうして年を取るのだから、気をつけなさい」という人生の先輩たちからのアドバイスと受けとめ、あと五年ほどで迎える九十代に心してそなえると結びます。わたしがその境地に達することはあるのでしょうか? いつまでもじたばたするような気がします。 

〔ひがしのさやか:最新訳書はM・W・クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ文庫)。ハート『帰らざる故郷』、チャイルズ『スパイシーな夜食には早すぎる』、クレイヴン『ストーンサークルの殺人』、アダムス『パーキングエリア』など。ツイッターアカウント@andrea2121

 


加賀山卓朗

  Facebookの韓国ドラマ愛好会みたいなところをときどきのぞくのですが、NetflixやAmazon Primeで新作が出ると、あっという間に全エピソードを見て感想を書く強者が何人かいらっしゃいます。どうやってそんなに早く……と思っていたら、どうも通勤電車とかで1.5倍速で観ているらしい。なるほど筋を追うだけならそれでいけるかもしれない。ここぞという場面だけ通常速度に戻すのかしら。自分でやろうとは思いませんが。ちなみに、その会で現在一番人気のドラマは『恋慕』です、たぶん。
 私がいま観ているのは『静かなる海』。水が配給制になった未来、月面でなんらかの事故により封鎖された宇宙ステーションに調査チームが派遣され、そこで異常な事態に……というストーリーは謎が多くておもしろいのですが、私の年来の疑問がまた復活しました。すなわち、懐中電灯を刀や包丁式に持つのは日本人だけだろうか? 西洋人はみんな、電車のつり革のような持ち方をして、上のほうから照らしますよね。『静かなる海』では、韓国人もそうしている(なんせステーション内の暗い場面ばかりなので)。たしかに高い位置から対象物を照らすほうが合理的な気はしますが。世界のどこかに、ほかに包丁式に持つ人たちはいるのでしょうか?? 新年早々どうでもいい話題でごめんなさい。

〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳。最近の訳書はスウェーデン発の異色作で意欲作、ピエテル・モリーン&ピエテル・ニィストレーム『死ぬまでにしたい3つのこと』〕

 


上條ひろみ

  あけましておめでとうございます。
 今年も長屋衆をよろしくお願い申し上げます。

 2022年もおもしろい翻訳ミステリーにたくさん出会えますように。
 まずは翻訳ミステリー大賞の予備投票ですよね。
 締め切りは明日、1月7日。まだ間に合います!

 十二月に読んだ本で私的ベストはミシェル・ビュッシ『時は殺人者(上下)』(平岡敦訳/集英社文庫)。コルシカ島を舞台に、一九八九年と二〇一六年の出来事が交互に描かれる衝撃的な本格フランスミステリーです。海ではイルカが泳ぎ、険しい山では登山もできる魅力的なリゾート地コルシカで、十五歳のクロチルドはバカンス中に車の転落事故で両親と兄を失ってしまいます。その二十七年後、夫と娘とともにコルシカ島を訪れた彼女の周囲で奇妙な出来事が起こりはじめ……。横溝正史風の謎めいた田舎の古いしきたり、リゾートの開放感と闇、若さゆえの悩み、何かを隠している人びとと彼らを苦しめる記憶。ラストを読んで目のまえに広がる光景は、この本を最後まで読んでよかったと心から思えるものでした。「時」は殺人者にもなるけど、救済者にもなるのですね。

〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』など。最新訳書はエリー・グリフィス『見知らぬ人』。1月15日にハンナシリーズの邦訳最新刊『チョコレートクリーム・パイが知っている』が出ます〕

 


高山真由美

 世間には「怠け者の節句働き」などという言葉もあるようでございます。……まあなんとでも好きに言ってけろ、と思いつつPCに向かっていた年末年始でございました。本年もどうぞよろしくお願いします。
 そんななか、細切れ鑑賞ではありましたがハマっていたのが〈バーフバリ〉(いまさらながら配信レンタルで初見)。いやあ、スケールがちがいますねー。じつはミュージカル映画がちょっぴり苦手なのですが、あれだけ豪華絢爛だと細かいことはどうでもよくなります。そしてわたしにとっていまでも謎なのがカッタッパ。どういう因縁であんな破格の待遇で王家に仕えることになったのか、彼の忠誠心の源流はどこにあるのか、そしてなぜ○○○を○○したのか……スピンオフ〈カッタッパの物語〉があればいいのに。

 ところでみなさま、翻訳ミステリー大賞の予備投票はお済みですか? 投票締切はあした(1月7日)です! このサイトのトップページ、ポー顔の横からも投票フォーム記載のページに飛べますので、清き一票をよろしくお願いいたします。 

〔たかやままゆみ:最近の訳書はポコーダ『女たちが死んだ街で』、ヒル『怪奇疾走』(共訳)、サマーズ『ローンガール・ハードボイルド』、ブラウン『シカゴ・ブルース(新訳版)』、ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』など。ツイッターアカウントは@mayu_tak

 


武藤陽生

  あけましておめでとうございます。

 去年は「ディスコ・エリジウム」というゲームの翻訳に携わっていたため、大忙しの1年でした。このゲーム、分量が100万ワード以上(ハリー・ポッター全巻を合わせたのと同じくらい)あり、それをすべて自分ひとりで1年以内(厳密には10ヵ月以内)にチェックするというとんでもない仕事でした。あとはLQAという、翻訳したテキストを実機で確認する重要な工程があるのですが、今のところ時間的に自分ができるかどうかはっきりしておらず、とりあえずは一段落というところです。僕は100キロマラソンを完走したことがあるのですが、正直なところ、それよりしんどかったです。

https://www.youtube.com/watch?v=OXy_5Yq55GE

 記憶喪失のアル中刑事が奇怪な殺人事件に挑むという内容で、酒もドラッグもやる刑事、労働組合が大きな力を持っていて、警察に対して非協力的な住民たち、ストの真っ最中で思うようにいかない捜査、そして何より音楽(ディスコ)が欠かせない味つけとして使われているあたり、ショーン・ダフィ・シリーズにすごく似ていると自分は思っています。ちょっとネタバレしちゃいますと、首を吊るされた死体が発見されるのですが、その口のなかから弾丸が発見され……という感じで、いやあ、これは『コールド・コールド・グラウンド』じゃないですか! 地の文の量も非常に多く、そのすべてが現在形で書かれていて、翻訳作業は難航しました。派手なところはないですが、まさに大人のためのゲームです。機会と環境があったらぜひプレイしてみてください。
(今は『レイン・ドッグズ』に続くショーン・ダフィ・シリーズ6作目を翻訳しています)

〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕

 


鈴木 恵

 おかげさまで、年末の各種ベストテンではアレックス・パヴェージ『第八の探偵』が上位にランクインしました。じつはわたし自身、昨年読んだミステリー小説のなかでは、この作品がいちばん好きでした(いや、もちろん贔屓目ですけどね)。でも、びっくりさせてやろうという著者の稚気みたいなものが伝わってきて、最後のほうはニヤニヤしっぱなしでした。
 さて、そのパヴェージさん、作風からもわかるとおり黄金期本格ミステリーがお好きなようで、とあるサイトに、御本人が外せないと考える8作を挙げています。8というのは『第八の探偵』にちなんでいるのでしょうかね。リストは以下のとおりです。みなさんの読書の参考(もしくは話のタネ)になさってください。

  • 『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー
    『牧師館の殺人』アガサ・クリスティー
    『学寮祭の夜』ドロシー・L・セイヤーズ
    『三つの棺』ジョン・ディクスン・カー
    『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー
    『スイート・ホーム殺人事件』クレイグ・ライス
    『魔の淵』ヘイク・タルボット
    『時の娘』ジョゼフィン・テイ
〔すずきめぐみ:この長屋の万年月番。映画好きの涙腺弱め翻訳者。最新訳書はライリー・セイガー『すべてのドアを鎖せ』ツイッターアカウントは @FukigenM