今回は、迷いながらも前に進みつづける女性探偵が活躍するクリステン・レピオンカの The Last Place You Look をご紹介します。

 探偵業を営むロクサーヌ・ウィアリーは、ダニエルという女性から兄ブラッドの無実を証明してほしいとの依頼を受ける。
 15年まえ、高校生だったブラッドのガールフレンド、サラの両親が殺害され、サラが行方不明になるという事件が発生した。そして、ブラッドの車のトランクから凶器であるナイフが見つかったことで、彼は犯人とされ死刑を宣告された。当初から彼は無実を訴えていたが、サラは依然として行方が知れず、彼に有利な証言や証拠はひとつもなかった。
 ダニエルによると、数日まえに地元のガソリンスタンドでサラを見かけたという。ちょうどその日、死刑執行日が決まり、ブラッドに残された時間は2カ月になっていた。それまでになんとしてでもサラを見つけて証言をさせ、ブラッドの冤罪を晴らしてほしいというのだ。

 ロクサーヌは、ブラッドの友人であり、ダニエルとともにサラらしき人を目撃したというケニーに話を聞きに行くが、手がかりになりそうな情報は何も得られなかった。また、事件当時17歳だったサラの写真をもとに現在の似顔絵を作成し、ガソリンスタンド近辺で聞きこみをするが、その絵に似ている女性が見つかっただけだった。
 その後、サラの事件があったころに、似たような事件が起きていないか調べたところ、マロリーという少女が殺害されていたとわかる。マロリー事件は未解決で、ロクサーヌはふたつの事件に関連性があるのではないか、同一人物の犯行ではないかと思い、マロリー事件を追うことにする。彼女の遺体が発見された森を探っていたところ、偶然にも、マロリーと同様に防水シートでくるまれた少女の遺体が見つかる。その後の警察の調べで、遺体はコリーンという、ブラッドやサラたちと同じ高校に通っていた少女と判明する。

 マロリー、サラ、コリーン。同じ高校だったこと以外に共通点はあるのか。マロリーとコリーンは問題児でドラッグもやっていたが、サラはそれにあてはまらない。しかも殺害されたのは両親で、もしサラが殺されているとしても、遺体は発見されておらず、森に埋められた形跡もなかった。
 ここにきてロクサーヌは、ケニーに疑惑の目を向ける。事件が起きたのは小さな町だが、ケニーの父親は地元の名士で、町でも裕福な人が暮らす地域に住んでいる。いっぽうブラッドやサラたちは、中流あるいはそれ以下の人たちが暮らす地域にいる。彼らのあいだに支配関係があり、ブラッドは死刑判決がくだるとまでは思わず、ケニーの罪をかぶったのではないか、とロクサーヌは推測した。
 またケニーはマロリーについては「顔と名前を知っている程度だ」と、コリーンについては「知らない」と言っていたが、ケニーが友人にドラッグを売っているという情報があったことから、彼がマロリーにドラッグを融通していた可能性は充分あったし、コリーンの父親が、現在ケニーが経営しているイベント会社で働いていたことがあるため、ケニーがコリーンをまったく知らないというのも疑わしかった。さらには、マロリーとコリーンの遺体が発見された森は、ケニーの家の裏手にあった。ロクサーヌはケニーの身辺を探ることにした。

 そんなある日、またひとり少女が行方不明になる。彼女がいなくなった時間帯のケニーのアリバイが弱かったため、ロクサーヌは彼に対する疑念を深めるが、彼がその時間に少女と接触できたという確証も得られなかった。くわえて、ロクサーヌが追及したところ、ケニーはマロリーと男女の関係にあったことやドラッグを流していたことを認め、一連の事件への関与をいっさい否定した。ケニーを信用していいのか、真犯人はほかにいるのか、ロクサーヌに迷いが生じはじめる。

 本作はクリステン・レピオンカのデビュー作です。主人公のロクサーヌは30代前半、警察官だった父親を9カ月まえに失い、そのショックから立ち直れず、酒に逃げることもしばしばです。ブラッドには時間がないのに、そんなところで酔いつぶれていていいのか、と思う場面も。また恋愛に関してはバイセクシャルで、男性と寝ながらも、胸のうちには長年の友人である女性への思いを秘めていて、もやもやしたり、嫉妬にかられていらいらしたり、父親のこともふくめて気持ちのもっていき場が見つかりません。
 それもあってか、探偵としては推理の冴えわたる凄腕とまではいきませんし、感情に揺さぶられるところもありますが、そこが人間らしくて好感が持てます。そんな彼女がどのように父親の死を乗り越え、探偵としてどのような道を築いていくのか。ロクサーヌを主人公に据えた作品はシリーズ化されるようなので、次作でまた彼女に会えるのを楽しみに待ちたいと思います。

高橋知子(たかはしともこ)
翻訳者。朝一のストレッチのおともは海外ドラマ。三度の食事のおともも海外ドラマ。お気に入りは『NCIS』と『シカゴ・ファイア』。訳書にジョン・サンドロリーニ『愛しき女に最後の一杯を』、ジョン・ケンプ『世界シネマ大事典』(共訳)など。

 

●AmazonJPで高橋知子さんの訳書をさがす●

【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!? バックナンバー一覧