11 月の気持ちよく晴れた午後、第9 回調理実習をおこないました。今回とりあげたのは『レベッカ』です。マンダレーのお屋敷で午後4 時半きっかりのティー・タイムに登場するクランペットと謎めいたサンドウィッチ。「何をはさんであるのか、謎めいた風味のとてもおいしいサンドウィッチ」は、若竹七海さんの短編集『静かな炎天』を参考に、クミンをきかせたひよこ豆のペースト、つまりフムスと解釈し、それと定番中の定番キュウリのサンドウィッチをこしらえるつもりです。
 さて、問題のクランペット。ミステリーにかぎらず、英国を舞台とした小説でよく目にするものの、実際に召しあがったことはない方が多いのではないでしょうか。なにを隠そう世話人一同も未経験で、試食のときにうかがったら、召しあがったことがあるのはゲストの♪akira さんおひとりでした。普通にスーパーで売っているそうです。
 調理実習は発酵させるのに時間がかかるクランペットの生地作りから始まりました。講師は森嶋マリさんです。小麦粉やドライイースト、調味料を合わせたものに人肌に温めた牛乳を少しずつ加え、よく混ぜたあと、ラップをかけて室温でしばらく置いておきます。
 あとは発酵するのを待つばかり、ということで、講師は宮﨑裕子さんに交替し、サンドウィッチへ。まずはキュウリをピーラーでごくごく薄くスライスし、塩と白ワインビネガーでマリネします。

 おつぎはフムスです。ひよこ豆、タヒニ(生の白ごまをペースト状にしたもの)、ニンニク、オリーブオイルなどをフードプロセッサーで混ぜ合わせたらできあがり。クミンとコリアンダーの量はお好みで。ペーストのかたさもそれぞれで、滑らかにする班もあれば、あえてお豆の食感を残した班もありました。

 フィリングができたので、パンにバターを塗って、いい感じにお味がなじんだキュウリとフムスをそれぞれ挟みます。今回はキュウリはグラハムブレッド、フムスはライブレッドにしました。できあがったサンドウィッチは軽い重しをして、しばらく置いて味をなじませます。
 さあ、いよいよクランペットを焼いてみましょう。生地は発酵してぽつぽつと泡が見えます。このぽつぽつがクランペットのキモというか、大事なんだそうです。焼き上がりに残るぽつぽつに、バターや蜂蜜がよくからんでおいしいんだそう(ゲスト♪akira さん談)。フライパンにバターをひいて、紙のセルクルに生地を流しこみます。ホットケーキを焼く要領で、弱火でじっくり火を通しましょう。端が乾いてきたら、頃合いを見てひっくり返します。いい感じに両面きつね色に焼き色がついたらできあがりです。

 最後にサンドウィッチの耳を落とし、小さくカットして盛りつけたら、お待ちかねの試食タイムです。マンダレーよりも 40 分ほど早めのティータイムとなりました。
 クランペットに添えるのは、お約束(らしい)ゴールデンシロップ、クロテッドクリーム、メイプルシロップ、森嶋マリさんお手製の英国の林檎ブラムリーのジャム、ルバーブのジャム。たっぷりミルクティーを淹れて、いただきます!

 ゲストの♪akira さんのお話は、映画、原作ともに多岐にわたり、とても充実した時間となりました。ヒッチコック監督は映画『レベッカ』で大胆に原作を改変しているという話から、原作を大胆に変えている映画といえば?という話になり、いま公開している『ザ・サークル』『わたしの中のあなた』や、話題の『オリエント急行殺人事件』などの名前が挙がりました。♪akira さんはいま発売中の『ミステリマガジン』で『ザ・サークル』のポンソルト監督にインタビューしたそうで、その様子も詳しく語っていただきました。映画はもちろん、そのインタビューも読みたくてたまらなくなったのはわたしだけではないはずです。
 そうそう、当会名物(?)余った具材でもう一品。今回は余る具材がないので難しいですねと話をしていたのですが、最後にサンドウィッチをカットしたら、耳が出現! 当然それが見過ごされるはずはなく、おいしい一品ができあがっていました。
 このように和気藹々とたのしい午後を過ごしましたが、残念ながら終わる時間がきてしまいました。参加してくださったみなさま、どうもありがとうございました。あの作品に出てきた、こんなお料理をこしらえてみたいというご希望がありましたら、どなたでも mys.cooking@gmail.com までお寄せください。

翻訳ミステリーお料理の会、世話人一同

武藤崇惠(むとう たかえ)
 翻訳者。〈翻訳ミステリーお料理の会〉世話人。
おいしいものを食べるのも、読むのも大好き。
訳書ワダムズ『北極がなくなる日』、ワイルド『ミステリ・ウィークエンド』、ウィーヴァー『奥方は名探偵』、フィルポッツ『だれがコマドリを殺したのか?』他。

 

◆翻訳ミステリーお料理の会レポート・バックナンバー

2013-12-14 第1回調理実習レポート “ハンナのクッキー”をつくってみました(執筆者・芹澤恵)
2014-07-04 第2回調理実習レポート “ミントソース”なるもの(執筆者・芹澤恵)
2014-10-09 第3回調理実習レポート  “ルバーブ”ってなに?(執筆者・芹澤恵)
2015-05-31 第4回調理実習レポート  ピッツア奮闘記(執筆者・芹澤恵)
2015-11-27 第5回調理実習レポート  みかんドレッシングのにんじんサラダ&マカロニチーズ(執筆者・上條ひろみ)
2016-07-23 第6回調理実習レポート エスニックな昼下がり(執筆者・芹澤恵)
2016-12-10 第7回調理実習レポート スペンサーの食卓(執筆者・よしだ熊猫)
2017-06-17 第8回調理実習レポート ニール・ケアリーのチーズバーガー(執筆者・宮﨑裕子)

 

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