開催から早くも2ヶ月が過ぎている事実にガクゼンとしている浜松の世話人でございます。
 読書会当日の頃はまだ初秋だったのに、今やすっかり冬ですね。皆さま、如何お過ごしでしょうか?

 さて、去る10/21(土)、M・J・カーター(高山真由美:訳)『紳士と猟犬』を課題書に読書会を開催しました。
 当日は台風21号が接近中でもあり、悪天候。ゲストの高山さんを始め、帰路に不安を覚えつつも遠方から参加してくださった方々に改めて感謝を!

 ひどい天候も建物の中に入ってしまえば影響は全くなく、今回の会場に借りたのは和室だった事もあり、少々まったりとした雰囲気が漂う中、読書会が始まりました。

 ここで改めて課題書の粗筋を簡単に。

 英国の支配下にある19世紀インド。英国東インド会社に軍人として雇用されてこの地にやってきたエイヴリーは上官にインド奥地で消息を絶った著名詩人の行方を捜すように命じられる。この任務に同行するのはブラッドハウンド(猟犬)の異名を持つブレイク。出会った当初から反りが合わない二人だが、数人のお供と共に詩人捜索の旅に出る。一行を待ち受けるのは野生動物や危険な犯罪集団、さらには陰謀までもが潜む密林地帯。二人は無事に任務遂行出来るのか!?

 この粗筋を書いてるだけでワクワクが蘇ってきたんですが、読んでの通り、ミステリーと言うよりも時代冒険活劇の要素が多かった課題書を楽しんでいただけたのかがまず気になるところでした。

 読書会開始早々まず飛び出た意見が「タイトルの紳士って誰?」というもの。猟犬がブレイクなのは書いてあるから解る、が、紳士は? え? まさか、このエイヴリーが紳士なの? えー(笑)? ……といった感じ。

 翻訳者高山さんの補足説明によると「紳士gentlemanという階級の種類で、エイヴリーは特権階級に属しているんです。だからどんなに未熟者でも紳士なんですよ」とのこと。
 英国時代物を読み付けている人とそうではない人の知識の差もあるとは思いますが、いかにエイヴリーが皆の思い浮かべる紳士のイメージとは遠いところにいたのかがわかります。
 この邦題は突き詰めると英国とインドの関係性を象徴してるようにも見えると言う意見も出ました。
 ちなみに課題書邦題は担当編集さんが決められたそうです。

 主人公であり、語り手でもあるエイヴリーがあまりにも物を知らない若者(21歳!)だから、読者も彼の気付きや成長と共に人々や世間の裏事情を見られるようになっていくところがいいと言う方も。過酷な旅を通してエイヴリーがどう成長していくのかを楽しめる作品なのです。

 そんなちょっと情けない紳士とは正反対の多種多彩なスキルを身につけている猟犬ブレイクは「英国人ながら、インド側の事情に通じ、そちらの立場にいる人物」として描かれています。出てきた時は酒や薬に溺れて「人間やめますか?」的生活をしていて身なりにも構わなかった男が、ある時、劇的ビフォーアフターよろしく華麗に変身する場面は個人的に大好きな場面です。変身後の姿を見て、エイヴリーが「意外にカッコイイ」と認めるところがいいんです!

 このブレイクが行方不明の詩人マウントスチュアートと同一人物じゃないかと考えた参加者がそれなりにいたのはミステリー作品テンプレのひとつ『一番意外な人物がまさにその当人だった』を当てはめた結果でしょうか。

 この作品のキーワードはやはり東インド会社です。

「世界史の授業で聞いたような……」
「私、日本史専攻だったから〜」
「え? 秘密結社じゃないの?」
……という意見が出た通り、「東インド会社? 何それ、美味しいの?」な方が多かったようです。
 確かに世界史の授業でも「コレは試験に出るぞ!」ポイントとしては押さえても詳細は全く説明されなかったなぁ……
 ここで下調べをしていた世話人から英国東インド会社についての簡単な説明をしましたが、付け焼き刃の知識なのもあって説明下手で申し訳ないくらい。『金の女子ミス銀の女子ミス』でもお馴染み、書評家大矢博子さんにより詳しく、かつ端的に補足していただけたので本当に助かりました。改めて感謝致します。

 登場人物のそこかしこに実在の人物がいるので、どこまでが史実でどこからが創作なのか? という歴史時代物に有りがちな疑問を持った方もいました。
もう一つの重要なキーワード「犯罪集団サグ」についてはネタバレに通じるのでここでは触れないことにしておきます。

「バディ物を想像して読み始めたらなかなかそういう展開にならなくて……」という方もいました。確かに1/4過ぎた辺りからようやく心が通じ合い始めた感じ。小説の展開としてはゆっくりめかもしれません。

「エイヴリー、ブレイク、マウントスチュアートの3人の関係性が髙村薫ッポイ」という意見も。この意見に「わかる〜!」と思われたあなたはきっと『腐萌え』を少々嗜んでおられるとみました。
 読書会中、『読んで、腐って、萌えつきて』の♪akiraさんから「実は作品を読む前に萌え要素の有無を判断できるポイントがあるんです」と軽く爆弾投下が。「えー! どこ? どこを見るんですか!?」と身を乗り出す参加者たち(詳細は企業秘密、ライヴオンリーです)。

 その他にも「サグってインド料理でよく聞く名前だから読んでて美味しそうで〜」とか「プロローグの使い方が秀逸!」とか「この時代の英国ではインド行ってたってのは経歴詐称の常套句だったんだね」とか……楽しかったり、面白かったり、目からウロコが落ちたりするご意見が多数出てきたのですが、割愛させていただきます(ちなみにインド料理のサグと犯罪集団サグは全くの無関係です)。

 最後に《次に読むならコレ!》で上がった作品をご紹介します。

 歴史時代物を読んでみたいけど、どれから読んだらわからない方に、大矢博子『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』がおススメ!
 大英帝国の斜陽を感じたいならノーベル文学賞を受賞した今が読み時! カズオ・イシグロ『日の名残り』、インドの深淵に触れたいならヴァーツァーヤナ『バートン版カーマスートラ』(この作品は高山真由美さんが熱心におススメされていました)。その他19世紀英国と言えばホームズは外せません。
 犯罪・暗殺者集団サグと関連して、伊藤計劃『虐殺器官』、グレゴリー・ディヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』、高殿円『カーリー』、課題書のようにインドで失踪した友人を探して旅をするアントニオ・タブッキ『インド夜想曲』、また、実在の登場人物に因んで佐々大河『ふしぎの国のバード』R・キプリング『少年キム』などが上がりました。
 その他、課題書より後年になりますが英国支配下のインドが舞台の神坂智子『蒼のマハラジャ』や坂田靖子『バジル氏の優雅な生活』なども。

 さて、次回の浜松読書会はまだ課題書も開催時期も未定です。何かオススメがあったら、ぜひお教えください。近々決めたいと考えていますので、発表されましたらまたよろしくお願い致します。

浜松読書会世話人:山本三津代(ツイッターアカウント:@nirokuya