全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 あっというまに師走ですねえ。日頃は忙しくてなかなか読書の時間が取れない方も、年末年始のお休みは、大物に取りくむ良いチャンスではないでしょうか。というわけで今回は、なんと全3巻(計6冊)のヒストリカル・スパイ・スリラー、ロバート・ゴダード〈1919年三部作〉『謀略の都』『灰色の密命』『宿命の地』(北田絵里子訳/講談社文庫)をご紹介します。
 
 元英国陸軍航空隊のパイロット、マックスことジェイムズ・マクステッドは、航空機整備士であり、最も信頼していたかつての部下サム・トゥエンティマンと二人で、航空学校開設に向けて着々と計画を進めていました。すると突然、パリにいる父親の訃報が入ってきます。おりしもパリでは第一次大戦後の講和条約締結のために各国の代表団が集まっており、街は微妙な緊張感を漂わせていました。現地に赴いたマックスと兄が驚いたことに、元外交官の父サー・ヘンリーの遺体が見つかったのは、ややいかがわしい界隈にあるアパルトマン。しかも屋根裏部屋の窓から転落死したというのです。不審に思ったマックスは真相究明に乗り出すのですが、その結果、思いもよらなかった父の行動が明らかになります。それでもまだ納得がいかず、真実を見つけ出そうとするマックスの行く手には、国家を揺るがすほどの恐るべき陰謀が!
 


 父親が残した謎のメモの秘密を探っていくと、敵なのか味方なのかもわからない怪しい人物がぞくぞくと登場。危険をかえりみず、果敢に真相を追求するマックスが次々に事件に巻き込まれる第一部『謀略の都』は、スピーディな展開のスリル満点な冒険小説として大変楽しめます。さらにはマックスの行動力に目をつけた英国内務省局員アップルビーが、マックスをスパイとしてスカウトするというゴージャス展開!
 

 続く第二部『灰色の密命』では、晴れてスパイとなった(?)マックスが、父の死にも関係していたドイツの大物スパイ、レンマーを仕留めるべく、命をかけた諜報活動に挑みます。二重スパイや内部の裏切りなど、スパイ小説の醍醐味に満ちた第二部ですが、ここでのもう一つの大きな読みどころは、手に汗握るチームプレイ! マックスを心配してイギリスから来たサムに、謎の巨漢スクールズや、秘書のマロリーらと繰り広げる大胆不敵な計画とそのチームワークは、まるで『ワイルド・スピード』シリーズなんですよ!
 

 そして怒濤の完結編であり、シリーズ最大、いやもしかしたらゴダード史上最大の問題作(?)『宿命の地』。イギリス、フランス、ドイツと、世界を股にかけた一大諜報戦は、なんと日本でクライマックスを迎えるんですが……ええええええっ!? いやもうこの第三部、著者名を二度見しかけたほどの超展開!!! マジっすか!! これは実際に読んでびっくりしていただくのが一番ですが、一つだけ書いておくと、ミッション・インポッシブル@キョート・ダンジョン! そしてすべての謎と主人公の出生の秘密も明かされるという、てんこ盛り大団円を迎えるのでありました。 
 
 などと最終章の展開がいかに凄かったかを思い出し、うっかり腐読みどころを紹介するのを忘れるところでした(笑)。
 
まず冷静沈着で勇敢な主人公マックス(27歳)の描写を見てみましょう。

 中年を迎えても苦みばしった魅力を放つであろう端正な顔立ちをしていて、少年のように無造作な金色の髪と淡いブルーの瞳を持ち、わずかにゆがめた口もとが皮肉屋の雰囲気を感じさせる。(原文ママ)

 イケメンなのはともかく、中年以降のルックスまで保証するとは、ゴダード先生、かなり気に入ってますね!
 そしてバディのサムはというと、背が低めで厚みのある体型で――

 サムはマックスより五歳上で、癖のある茶色の髪には白いものが混じっているものの、バラ色の頬をした丸顔と猟犬を思わせるひたむきな雰囲気のせいか、マックスより若く見えた。(原文ママ)

 ――これこそまさに『紳士と猟犬』(笑)。歳は上でも軍隊での階級が下だったので、マックスに敬語を使っているところもポイント高いです!

 とにかくこの二人が仲良しさんで、萌えポイントは枚挙にいとまがないほど。たとえば――

 サムは一度たりともマックスを失望させなかった。そんな忠実な人間はほかにだれもいない。
 
 また互いに会えて、マックスはサムに負けないくらい嬉しかったけれど、自分のほうがややうまくそれを隠した。

 などなど。気になる方は、ぜひ大量のふせんを用意してお読みください。
 
 そしてもう一人、〈ばかでかいとまではいかないが巨漢と言っていい男〉、〈日にさらされて荒れたいかつい顔〉、〈過去に一度ならず折れたことがあるような鼻〉と描かれるアメリカ人のスクールズ・モラハンも要チェックです! なにやら過去のある人物なのですが、うさんくさいパートナーに対しても義理堅く(ここはちょっと萌えどころ)、頼りになる男。そして〈足の裏にキャスターでも付いているのかもしれない。〉と言われるほど静かに歩ける特技もあります(笑)。
 
 かように面白要素と萌えどころ満載の本書、巻が進むにつれて登場人物表がどんどん長くなっていくのは、いかにも大河!って感じでご愛嬌なんですが、登場人物が多すぎて困るという人も、そこはさすがのゴダード! どのキャラも特徴があり、しっかりと書き分けてあるので心配しなくても大丈夫ですし、講談社文庫なので人物表が書いてあるしおりつきのため、不安な方はお手元に置いて読めますよ! ちなみに最終巻のしおりは幅がなんと7.5センチです(笑)。


 
 やっぱりスパイは世界各地で活躍しなきゃね! ということで、その華麗で過激で型破りな内容で全世界をとりこにしたスパイアクション映画『キングスマン』から2年、舞台をアメリカに移した待望の続編『キングスマン ゴールデン・サークル』が1月5日(金)から公開となります!

 ロンドンはサヴィル・ロウの一角にある高級テイラー「キングスマン」。しかしその実体は、「マナーが人を作る」をモットーに、敏腕エージェントたちを擁する世界最強の秘密スパイ組織。育て上げてくれた師のハリー(コリン・ファース)なきあと、ギャラハッドの名を継いだエグジー(タロン・エガートン)は、いまや立派なエージェントに成長していた。しかしある日突然、謎の敵の奇襲により基地は全滅。キングスマン存続のため、エグジーとメカ担当のマーリン(マーク・ストロング)は、アメリカはケンタッキー州にあるという同盟組織ステイツマンに向かう。
 
 冒頭のカーアクションから目が釘付け! 前作でああなったあの人やこの人が、まさかの再登場! 血の気の多いジーンズとバーボン軍団 VS マナー重視のスーツとスコッチチームの対決はいかに? フィフティーズが流れるカラフルなダイナーで行われている恐怖の粛清とは? 次々に明かされる驚愕の事実! そしてクライマックスではあの曲が!
 
 前作では、華麗な衣装や七つ道具がずらりとそろった魅惑のクローゼットにうっとりとした方(はーい私もです!)も多いことでしょう。しかし今回はそれらがあっさりと破壊され、もはやあの愉悦は味わえないのか……と思った方、ご安心ください! 今作の面白さは別のところにあるのですよ! その一つがスパイの英米対決! 服装はもとより、秘密兵器のアイテムの違いや潜入方法などなど、古今東西のスパイ小説や映画に親しんでいる方なら、より楽しめること間違いなしです! チャニング・テイタムやジェフ・ブリッジス、そしてTVドラマ『ナルコス』のペドロ・パスカルが、あの世界観でどう活躍するのかお楽しみに。007シリーズへの目配せもぬかりなく、ブラック・ユーモアと感動もぎっしり詰まった見どころてんこもりの141分。2018年の映画初めにぜひ!
 

 

 


 
 


作品名:『キングスマン:ゴールデン・サークル』
公開表記:2018年1月5日(金)TOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー
 
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース ジュリアン・ムーア タロン・エガートン マーク・ストロング ハル・ベリー エルトン・ジョン チャニング・テイタム ジェフ・ブリッジス
原題:Kingsman The Golden Circle /2017年/ イギリス映画
配給:20世紀FOX映画
コピーライト:画像 © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
 動画 © 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/kingsman/

 
 

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho



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2017.02.01訳者自身による新刊紹介 ロバート・ゴダード〈1919年三部作1〉『謀略の都』(執筆者・北田絵里子)

 


 


 

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