――横山啓明さんの最期の贈り物

 ジョージ・P・ペレケーノスやジョン・ダニングの翻訳などでわれわれミステリファンを楽しませてくれた翻訳者の横山啓明さんが逝去されたのは、2016年6月のことでした。
 翻訳ミステリー大賞シンジケートのHPでも横山さんの訃報が伝えられています。 http://honyakumystery.jp/1467415480

 本書『生活の発見 場所と時代をめぐる驚くべき歴史の旅』は、当初は横山さんに翻訳をお願いし、また作業は順調に進行していました。しかしご病気が見つかったことで、序文から第4項「仕事」の途中まで訳したところで翻訳を続けることが難しくなりました。
 そこで三橋曉さんのご紹介により、こちらも翻訳ミステリファンにはおなじみの加賀山卓朗さんに残りの部分の翻訳をお願いし、ご快諾いただきました。

 結果的に横山さんの遺作となった本書はミステリーではありません。しかし、「驚きに満ちた本」という意味ではミステリにも通じるところがあります。

「どのように生きるべきなのか」。
 これまで多くの本がこの問いに答えようとしてきました。大昔から繰り返されてきたこの問いは、現代社会にあっても喫緊の課題となっています。
 思い悩んだ時、つまずいた時、ヒントが欲しい時に、何を手掛かりにすればよいのでしょうか。本書の著者ローマン・クルツナリックはこう言います。
 過去を振り返るのだ、と。

「ほかの時代、文化のなかで人々がどのように生きてきたか探し求めていけば、日々生活していくなかで意欲を燃やし、よりよい人生の好機をつかみとるための教訓を引き出すことができる」と著者はいいます。

 本書が取り上げるテーマは以下の通り。
 愛、家族、感情移入、仕事、時間、お金、感覚、旅、自然、信念、創造性、死生観。
 誰もが一度はぶつかる問題ばかりです。

 歴史を紐解くことで、いま私達が当然だと思っている価値観や考え方が大きく転換します。そして、新しいとされている考えも実は過去に存在していたということにも気づかされます。

 例えば、家事・育児などを担当する夫のこと「主夫」と呼び、ここ近年家事をする男性が注目されています。
 本書は「主夫」の起源を探ります。
 まず、西コンゴ盆地のジャングルに住むアカ・ピグミー族が、一日のおよそ47%の時間、子どもたちを抱いていたり、手の届くところに置き、男性がそのほとんどに関係することを明らかにします。
 また産業革命以前においては、家事と労働がほとんど分かちがたく結びついており、「19世紀までは労働といえば、家事のことであり、〈夫〉といえばほとんどが〈主夫〉だった」ということを述べています。

 古代ギリシアから近代アメリカまで、歴史や地域を縦横無尽に飛び越え、圧倒的な情報量で「どのように生きるべきなのか」のヒントを提示してくれているのが本書です。

 あっと驚く「歴史的事実」がたっぷり詰まった本書をぜひご一読ください。
横山啓明さんと加賀山卓朗さんの共同作業による見事な翻訳も読みどころです。

(フィルムアート社営業担当/京都読書会世話人・宮迫憲彦)