全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 筆者同様、バディものがお好きな方も多いと思いますが、コンビを組む二人が違うタイプであればあるほど、萌え度が高くなりません? というわけで今回は、NY市警の刑事二人のキャラも素敵な、ノスタルジー溢れるほろにがノワール、デイヴィッド・C・テイラー『ニューヨーク1954』(鈴木恵訳/ハヤカワミステリ文庫)をご紹介します。


 舞台は1954年のニューヨーク。ソ連との冷戦が続く中、共和党のマッカーシー上院議員による共産主義者の取り締まりおよび弾圧運動“赤狩り”が猛威をふるっていた。市警の刑事キャシディは、通報を受けた現場で拷問を受けた若い男性の無残な遺体を発見する。被害者はブロードウェイの無名ダンサーにもかかわらず、犯行現場となった彼の安アパートにはあきらかに不相応な高級家具や衣類などが見つかった。ゆすりの線で相棒のオーソー刑事と捜査を始めるが、犯行現場で不審な侵入者に暴行を受け、取り逃がしてしまう。署に戻った彼の前に現れたのはFBIだった。
 
 怨恨による殺人と思われた事件は、FBIの情報で新たな側面が浮かび上がります。捜査でわかったことを逐一報告するよう要請されたものの、彼らの一方的な秘密主義にキャシディとオーソーはかえって闘争心を燃やし、臆することなく自由に捜査を進めるのです。と書くとなんとなく二人が聖人君子のように思われてしまうかもしれませんが、二人とも正義感は人一倍あるものの、血の気が多く豪胆、なおかつ少々非合法なことには目をつぶるようなしたたかさの持ち主。キャシディは自分の案件に早めに手をつけてもらおうと知り合いの鑑識に賄賂を渡すし、オーソーはというと、警察から支給された武器の他に、新聞にくるんだ鉛管を持ち歩いたりしてるのですよ! この仕込み新聞でポン引きをどついたりするんですが、今だったら確実に内部調査で停職や免職を食らうレベル。そもそも警察に入ったとたん、先輩警官から「現行犯でとっ捕まえたら、そいつを徹底的にぶん殴れ」と飲み屋で叩き込まれるといった具合。その大胆というかいいかげんな行動から、よくも悪くも当時の時代性が見えてきます。
 
 捜査が進むうちに、この奇怪な殺人事件の背景には、ある大きな秘密と、それを覆い隠そうとするたくらみが見え隠れしてきます。そしてなんと赤狩りの魔の手がキャシディに近づいてくるのです。FBIの妨害と政治的陰謀だけではなく、かつて自分がホテルの窓から放り投げた汚職警官に狙われたりと、心身ともに安らぐことのないキャシディの前に現れたのは……。それはナイショにしておきますが、この人物の登場で物語にセンチメンタルな趣が加わって、ハリウッドのモノクロノワール映画のような、なんともいえない余韻の残るラストになっています。
 
 それでは本欄のメイン、バディ二人を詳しくご紹介しましょう! まず主人公のキャシディですが、身長は百七十九センチ程度、体重は七十五キロぐらい。父親はブロードウェイの有名プロデューサーで、いわゆる金持ちの息子です。住まいはグリニッチヴィレッジにある元倉庫を改装した最上階(お洒落〜)。女性からはつねに熱い目で見られるハンサムで、高い服を着用し頭も切れるので、署内では少々浮いた感じ。相棒のオーソーは、“百八十五センチを優に超える長身で、体重は九十キロあまり。肉付きのいい好色家の顔をしている(原文ママ)”。 キャシディよりいくぶんワイルドな感じの彼も、同じく服装にはこだわるタイプ。給料の四ヶ月分にあたるスーツや絹のシャツを着込み、高級ホテルの床屋でヒゲをあたってもらい、マニキュアまでしています。しかし法廷に証人として出るときは、安物の吊るしのスーツにナイロンのワイシャツ、おまけに磨りへった靴といういでたちで向かいます。というのも以前、いつもの高級スーツで証言した際、正直な警官にしては身なりがよすぎる=汚職警官じゃないのか?と陪審員に誤解され、被告が無罪になってしまった過去があるのです。自分では“証人スーツ”と命名してるのですが、これってつまり“貧乏刑事コスプレ”ですよねえ(笑)。
 
 そんな二人が鉄壁のチームワークで巨悪に立ち向かいます。引くことをしらないキャシディがしょっちゅう危機に陥るたび、オーソーがいい感じで助けに入るのがたまりません! オーソーには「おまえのやりたいようにやろう」とか殺し文句(?)が満載ですが、入院したキャシディのお見舞いに赤いリボンをかけた高級チョコを持っていくくだりには心拍数上がりました(笑)。
 
 実在の人物も多く登場し、アクションあり、陰謀あり、バディ要素ありと盛りだくさんの本書、これが長編デビューの著者テイラーは二十年以上も映像関係の仕事に携わっており、父親も著名な脚本家でした。鈴木恵さんによる訳者あとがきに詳しく書かれていますので、ぜひお読みください。実はこの作品、ある映画を観た人なら早いうちに真相に気づいてしまうかもしれません。もちろんそれがわかっても本書の面白さは損なわれないので、どうかご心配なく!
 
 余談ですが、赤狩りといえば、ハリウッドを追われた稀代の脚本家ダルトン・トランボの凄絶な実話を描いた『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015/米)という映画も見応えがありました。下院非米活動委員会により弾圧されたトランボが脚本を世に出せなくなり、友人の名前で出すように託した脚本がアカデミー賞を取ったのが、本書と同じ1954年の3月。イアン・マクラレン・ハンター名義のその脚本のタイトルは『ローマの休日』でした。
 
 タイプが違うバディもの映画でイチオシなのはこれ! 2月9日(金)公開の『コンフィデンシャル/共助』(2017/韓国)は、北朝鮮の特殊部隊に所属するエリート刑事と、ソウルの警察署に勤めるボンクラ刑事ジンテが、韓国に侵入した共通の敵を捕らえるために(しぶしぶ)タッグを組むという二国間バディ刑事アクションです!!

 特殊部隊のイム・チョルリョン刑事(ヒョンビン)は、国内で米ドルを偽造している組織のアジトに張り込んでいると、不審な動きを感じ、上官であるギソン隊長(キム・ジュヒョク)にさからって突入。すると武装した集団が原版を盗み出そうとしていました。激しい銃撃戦の末、犯人たちは韓国へと逃亡。国家の緊急指令により、使節団として韓国に渡ったチョルリョンを迎えたのは、仕事をするのは最愛の娘にスマホを買ってやるため! という庶民派刑事カン・ジンテ(ユ・へジン)でした。
 
 イケメンでナイスボディで頭脳明晰、おまけにとてつもない殺人テクニックをも備えた北の刑事と、嫁と居候の妹にすら頭があがらない意識低い系の中年刑事が南の都会勤務という、両国のイメージを覆すような大胆な設定! 双方ともに思惑があり、腹の探り合いが続く中、狂犬のような敵グループを捕まえるのにリミットはたったの3日間! そんなストーリーの面白さに加え、街中でのスゴ技カーチェイスや、大量の敵を相手に脅威の殺人マシーンと化す怒涛のイケメンアクションがてんこもり! さらには笑いと涙まで盛り込まれるという文句なしの快作!
 
 ヒョンビンのファンの方にはもちろんオススメですが、てきとー父ちゃん刑事役のユ・ヘジンがもう最高!! オ・ダルス(『ベテラン』)、チェ・ミンシク(『新しき世界』)と並んで、この人が出ている映画は絶対にハズレなし! 2017年上半期韓国映画動員ナンバーワンのこの作品、韓国映画に馴染みのない方もぜひご覧ください。

タイトル◆ コンフィデンシャル/共助
公開表記
◆ 2月9日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国公開
コピーライト◆ © 2017 CJE&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
配給◆ ツイン
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原題:공조
英題Confidential Assignment
監督:キム・ソンフン
出演:ヒョンビン、ユ・ヘジン、キム・ジュヒョク、ユナ(少女時代)ほか
2017年/韓国/カラー/デジタル/韓国語/124分

  

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho



 

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