みなさま、こんにちは。寒い日がつづいています。東京でもまとまった雪が降りましたが、慣れない雪かきで筋肉痛になっていませんか? インフルエンザも流行っています。体調には充分気をつけつつ、こんな季節はおうちでぬくぬく読書がいちばんですね。

 では、今月も読書日記におつきあいください。シリーズものが多くなってしまいましたが、登場人物の過去や意外な面がじわじわ明らかになっていったり、人間関係が微妙に変化していくのが楽しくて、好きなんですよねぇ、シリーズもの。

 

■1月×日

 ヴィッキ・ディレイニーの『クリスマスも営業中?』は一年じゅうクリスマスという町を舞台にしたコージーミステリの新シリーズ第一弾。ぜひとも十二月中に読もうと思っていたのに、一月になってしまった。でも、訳者あとがきにも書かれているとおり、一月に読んでも二月に読んでもまったく問題なし。ルドルフの町は、一年じゅうクリスマスという特殊な町だから。

 クリスマスというのはいくつになっても胸躍るイベントだ。クリスマスキャロルが流れる街や店にいるだけで、師走のせわしなさにもかかわらず、なんとはなしにウキウキした気分になってしまう。そしてついついいろいろと買ってしまう。この心理を利用して(?)観光客にお金を落としてもらおう、ちょうど町の名前も赤鼻のトナカイと同じルドルフだし。ということで、一年じゅうクリスマスという、クリスマスのテーマパークのような町ルドルフが誕生。町の名前のルドルフにまつわる裏事情もなかなかふるっているのだが、それは読んでからのお楽しみ。

 主人公のメリーはニューヨークでライフスタイル誌の副編集長をしていたが、とある事情で故郷ルドルフに戻ってきて、今はクリスマスグッズ専門店の店主。前ルドルフ町長のメリーの父は、サンタクロースそっくりで名前もノエル(ちなみにメリーの妹たちの名はイヴとキャロル)。元オペラ歌手の母アイリーンは声楽教室の先生で、クリスマスキャロルの指導は本格的。ほかにも焼き菓子店を経営する親友のヴィクトリアなど、個性的な登場人物が多くて楽しませてくれます。トイレトレーニング中のセントバーナードの子犬のマッターホルン(通称マティー。生後後二カ月半で十四キロ!)もかわいいぞ。

 そんな楽しい町で殺人事件が発生。イギリスから来た旅行誌の記者が、ヴィクトリアの焼いたジンジャーブレッドクッキーを食べたあと、死体となって発見されたのだ。観光客が来なくなったら、町にとってはそれこそ死活問題。親友ヴィクトリアのため、そしてルドルフの町のために、事件を解決しようと奮闘するメリー。ちなみにメリーは、イケメンふたりがとりあうほどの魅力的な女性らしい(コージーあるある)。朴訥な職人系イケメンと人当たりがよくてくったくのないイケメン、あなたはどちらがお好み?

 ルドルフはニューヨーク州北部の雪深い小さな町で、クリスマスの町のイメージにぴったり。本書ではまさにクリスマス時期が舞台だけど、次回はぜひ真夏のルドルフの町がどんな様子なのか知りたい。

 

■1月×日

 三巻目から紹介され、四、一、二巻の順で翻訳されたシリーズといえば、そう、ネレ・ノイハウスの〈オリヴァー&ピア〉シリーズ。ようやくこれまでのことをふまえた上で楽しめる五作目の登場です。『穢れた風』は、風力発電をめぐるさまざまな思惑が人びとを巻きこんでいくサスペンスフルな警察小説。今回も人間関係のドラマが濃密に描かれていて、ページをめくる手が止まりません。

 風力発電施設建設会社ウィンドプロの社屋で、夜警の死体が発見され、オリヴァー・フォン・ボーデンシュタイン主席警部率いるホーフハイム刑事警察署捜査十一課が捜査に当たる。ウィンドプロは風力発電施設の建設をめぐって、土地の所有者や動物愛護団体ら反対派住民ともめていた。やがてその関係者が殺害され、事件は混迷を深めていく。

 多視点で描かれるそれぞれの事情と思惑をからめながら、二転三転するストーリーのあざやかなこと。最後の最後まで目を離せない展開。いやあ、堪能いたしました。

 それにしてもオリヴァー、ダメダメすぎるだろ。女性がからむととたんにダメさが露見するのがお約束とはいえ、毎回フラフラと女性に引き寄せられ、それが原因で失敗していて、もはや犯罪心理捜査官のセバスチャンといい勝負。さすがにもう「隙があってかわいい」とは思えなくなってきたわ。「妻が浮気をして結婚が破綻してから、人が変わってしまった」っていうけど、自分は浮気しまくりだったくせに……まあ、女性問題以外でも今回はいろいろ大変なんですけどね。

 そんなオリヴァーのことを心配し、あきれながらもリスペクトしつづけるピア。危険を顧みずに暴走しちゃうところもあるけど、読んでいて共感できるのはやっぱりピアだなあ。ピアには幸せになってほしいわ。さすがに今回はやばいよボス……と思っただろうけど。オリヴァーはピアがいてこそなんとかまともでいられる。「リスペクトしてくれる女子」というのが大きいんだろうなあ、オリヴァーのような人にとっては。まちがっても恋愛関係にだけはならないでくれよ、とつねに念じながら読んでます。本書ではオリヴァーに代わってピアが捜査十一課を率いる場面も多く、ピアファンとしては胸熱。個人的に苦手だったフランクがいなくなって、ストレスがなくなったのも大きい。

 ラストにはオリヴァーの爆弾発言もあるので、次作が激しく気になります。

 

■1月×日

 猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ最新刊『冷酷な丘』。今度はそれほど寝かせずに読んだぞ。偶然だけど、『穢れた風』につづいてこれも風力発電をめぐる事件だ。

 余談だが、お正月休みに行った静岡で、丘の上に立つ風力発電のタービンをたくさん見たなあと思ったら、一月から見はじめた日本テレビ系ドラマ「anone」にも海沿いにあるそれがよく登場していて、さらに『穢れた風』を読んだあとに『冷酷な丘』。あまりにもかぶりすぎで、落ち着かないものを感じる。何かの陰謀か、あるいは今年はわたし的に風力タービンイヤーなのだろうか(なんだそれ)。

 それはいいとして、『冷酷な丘』だ。『狼の領域』はシリーズ最高傑作と言われたが、それにつづく本書も負けてはいない。

 ジョーの義母ミッシーの五人目の夫で、大富豪の開発業者アール・オーデンが殺害され、風力タービンに吊るされた死体をジョーが発見する。しかも回転するブレードの先で、遠心力に身を任せた状態で(ゾゾッ)。アールは百基の風力タービンを擁するウィンドファームの建設を計画しており、犯行は反対派のしわざかと思われたが、逮捕されたのは義母のミッシーだった。ジョーは妻のメアリーベスに懇願されて真犯人をつきとめようとする。

 一方、ジョーの友人で鷹匠のネイト・ロマノウスキにも恐ろしい出来事が起こる。山中の秘密の住処に破壊力絶大なロケットランチャーが撃ち込まれたのだ。ネイトをねらうのはだれなのか? ネイトの過去に何があったのか? そのあたりのこともほんのちょっとだけ明らかになるけど、よけいに食欲がそそられちゃう感じです。もっと知りたいよ〜! 次作はネイトが主役らしいので、もうちょっとの辛抱だ。

 前作でジョーとネイトのあいだにかなり大きな確執が生じたため、今後ふたりの関係はどうなるのだろうと気になっていたのだが、ほんのふたことみこと言葉を交わしただけで通じ合えるふたりの友情は健在。それぞれの思いが凝縮された、ゆるぎない信頼と理解を感じさせるその短い会話にしびれた。

 それにしても、鬼姑ミッシーの逮捕で、耐える婿ジョーもちょっぴり溜飲がさがったのでは? でもそれをあからさまにしないのがジョーのえらいところ。捜査だってメアリーベスにたのまれなくても正義感からやっていただろう。そのまっすぐさがミッシーをいらつかせるのかもね。

 最後の最後まで息もつかせぬ展開で、ミステリーのおもしろさを堪能しまくり。エピローグまで油断するな!

 

■1月×日

 思わせぶりなラストからのつづきが気になっていたベルナール・ミニエのマルタン・セルヴァズ警部シリーズ。缶チューハイを見るたびに思い出す一作目の『氷結』(フランスでテレビドラマ化されたらしい)は、極寒のピレネー山脈が舞台だったけど、二作目の『死者の雨』は、暑い暑い夏の(といっても六月だけど)トゥールーズおよび〝フランス南西部のケンブリッジ〟と呼ばれる架空の学園都市マルサックが舞台。寒い季節に読むとちょっぴりあったかくなれるかも。雨はザーザーだけど。

 ピレネー山脈での事件から一年半後。二〇一〇年六月十一日、サッカーW杯南アフリカ大会のフランスの初戦で沸く嵐の夜、学園都市マルサックで名門高校の女教師の変死体が発見され、その場にいた教え子の少年ユーゴが逮捕される。ユーゴはセルヴァズがかつて愛した女性マリアンヌの息子で、息子を助けてくれと彼女にたのまれたセルヴァズは、学園都市マルサックへ。ユーゴは犯行を否認しているが、状況証拠は圧倒的に彼に不利だった。ユーゴと同じ学校の生徒であるセルヴァズの娘マルゴは、ユーゴと仲のいい三人の男女の動向を探るうちに、不審な会話を耳にする。

 マルサック高校受験準備学級がセルヴァズの母校で、かつてのクラスメートが教師や生徒の母、現在は娘のマルゴが在学中となると、客観的な捜査はむずかしい。セルヴァズの過去もいろいろとからんでくるしね。だからこそ読むほうは興味津々。繊細な文系男子のセルヴァズはこうやってできあがったのか……なんてこともわかっちゃいます。

 ちなみにセルヴァズも女に弱い。セバスチャン、オリヴァー、セルヴァズ……わたしが好きなシリーズって、どうしてみんな主人公が女に弱い設定なのかなあ。惚れっぽいセバスチャンやオリヴァーとちがって、セルヴァズの相手は学生時代の大恋愛の相手だから、特別っちゃ特別だけど。でも、部下の奥さんに手を出すのはやめておこうよ……

 一年半まえにピレネーでセルヴァズとともに捜査をしたイレーヌ・ジーグラー憲兵隊大尉も大活躍。いいところでアシストしてくれます。そして、ピレネーで姿を消した気になる「あの人」のその後も……

 シリーズ二作目だけど、本書を読んだあとで一作目を読んでもいいように、前作でのいきさつを必要最小限に抑えてあって、とってもユーザーフレンドリー。でもやっぱり一作目から読むとおもしろさ倍増です。

 

■上記以外では……

 謎に包まれた冷戦時代のアイスランドにスポットが当てられる、アーナルデュル・インドリダソンの『湖の男』が骨太でおもしろかった。相変わらず人に気持ちを伝えるのが下手すぎるエーレンデュルにハラハラするけど、「言うこともなすことも嘘のない人」と思ってくれる理解者が現れて、ちょっとほっとした。

 

 カタリーナ・インゲルマン=スンドベリの『老人犯罪団の逆襲』は老人犯罪集団ネンキナー団のお達者犯罪ライフを描くシリーズ二作目。例によって老人であることを最大限に生かした(「大丈夫。ボケたふりをすればいいの」)犯罪計画を立て、バカすぎるバイク野郎たちとの仁義なき戦いを繰り広げる老人たちのスペックの高さに驚く。殺人も暴力も描かれないドタバタ喜劇風犯罪小説なので、暗くヘビーな作品のあととかに読むといいかも。

 

 ジュリー・ハイジーの大統領の料理人シリーズも大好きなシリーズ。シリーズ5巻『誕生日ケーキには最強のふたり』も一気読み。強くやさしく、行動力があって仕事きっちりのオリーは憧れです。6巻の『休暇のシェフは故郷に帰る』も出ているので読まなくちゃ。

 やっぱり全部シリーズものだ!

 

上條ひろみ(かみじょう ひろみ)
英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズ、バックレイ〈秘密のお料理代行〉シリーズなど。趣味は読書と宝塚観劇。最新訳書はジョアン・フルークのハンナシリーズ18巻『ダブルファッジ・ブラウニーが震えている』。紹介が止まっている〈B&B〉シリーズではないけれど、カレン・マキナニーの新シリーズをただいま翻訳中。

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