◆第51回 特殊部隊もの続々登場。生き残るのはどれ?◆

 
 アメリカのテレビ界では時々、よく似た設定のドラマが同時に放送開始することがあります。どう考えても、誰かが情報をリークした結果のパクりあいなんですけど、いったい、どれくらいのお金が飛び交ってるんでしょうね?
 テレビ局同士の情報戦の実情はともあれ、今年もまたまたよく似た新番組が同時に登場しました。それも2つじゃなくて3つも。
 
 それがCBSの『シール・チーム(SEAL Team)』、NBCの『勇士(The Brave)』、そしてCWの『剛勇(Valor)』です。
『シール・チーム』はその名の通りアメリカ海軍の特殊部隊「シール」の一小隊、『勇士』はアメリカ陸軍の極秘救出部隊、『剛勇』はやはりアメリカ陸軍の極秘ヘリコプター部隊と、それぞれ特殊部隊の隊員たちが世界各地で隠密作戦を行う姿を描いた、いわゆる「特殊部隊もの」です。
 小説の世界ではこの手の特殊部隊ものはコアなファン層による根強い人気があって、どんどん新作が描かれているのですが、さすがに地上波テレビのドラマのように、老若男女すべてを相手にしている媒体となると、人気を得るのは難しいようで、3作品とも視聴率的には苦戦を続けているのが実情のようです。
 
■『シール・チーム』予告編

 中でも一番評価が高いのは、特殊部隊員たちの日常も含め、シビアでリアルなトーンで描いている『シール・チーム』です。主人公を『バッフィー』、『エンジェル』、『ボーンズ』などでテレビではすっかりお馴染みのデイヴィッド・ボレアナズが演じているところも強みでしょう。『バッフィー』の頃は20代だった彼も今や40代後半。すっかり渋いオヤジになっているところも、オトナのドラマらしさが出ているのかも。
 
■『勇士』予告編

 一方、『勇士』のほうは、海外で紛争などに巻き込まれて命の危険にさらされているにも関わらず、正規のルートでは救出できないでいる民間人たちを、緊急脱出させるための極秘部隊の活躍を描く、かなり娯楽作っぽい作りになっています。そういや、昔、望月三起也さんが『優しい鷲JJ』という、ほとんど同じ設定のマンガ(もちろん、日本の秘密組織になってましたが)を描いてましたね。
ともあれ、こちらは難しいことは考えず、主人公たちの毎回の冒険を楽しめるようにできているのですが、それが逆に「今どき、こんなアメリカ万歳の脳天気な特殊部隊ものでいいのか?」という感じになってしまっているところが、作品としての弱みになってるような気も。
 
■『剛勇』予告編

 3作品で一番人気がないらしいのが『剛勇』です。女性が主人公、しかもメインメカはヘリコプターという、他の作品とはひと味違うひねりが入っているのですが、これもどちらかといえば裏目に出ている感じです。というか、『シール・チーム』ほどリアリティ重視でもなく、かといって『勇士』ほどアクション重視でもない、中途半端に生真面目な作りが、いまいちパッとしない理由なのかも。
ちなみに、どのドラマも現時点では、2シーズン目続投か、1シーズンで終了か、結論は出ていません。最悪の場合、3本そろって討ち死にの可能性もあるのですが、いったいどういう結果になりますやら。てか、一本くらいは日本でも放送されるといいなあ。
 
 さて、現代の特殊部隊ものといえば、やはり〈ニック・ストーン〉シリーズアンディ・マクナブと、〈ジョーディー・シャープ〉シリーズやテレビシリーズ化された『反逆のレスキュー・ミッション』などのクリス・ライアンの名前を忘れるわけにはいかないでしょう。どちらもアメリカ人じゃなくてイギリス人ですが。
 というか、どちらも湾岸戦争時に軍曹として、英陸軍の特殊部隊であるSASの、ブラボー・ツー・ゼロという部隊に所属、作戦行動中に敵の激しい攻撃を受けた経験があるのです。ただし、この作戦で、かたやマクナブは捕らわれて6週間の拘束、かたやライアンは逃げ延びて単独逃走の記録を作るという、対照的な運命に見舞われており、その後、めちゃくちゃ仲が悪いんだとか。
 ともあれ、二人とも長年の軍隊生活で得たリアルな描写が作品のウリで、物語としてのおもしろさより緻密な作戦描写が特徴かと。いや、だからこそ、マニアックなファンがたくさんいるんですけどね。


堺三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャ・バットマン』も2018年公開予定。
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