全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 現役大統領が、大統領補佐官の解任をSNSで(勝手に)発表とか、ひと昔前だったらフェイクニュースとしか思えないことが次々に起きるすごい時代になりました。こんなトップを警護する人も大変だよなあ……というわけで今回は、アメリカ大統領死亡事故の謎に潜む巨大な陰謀を描いた法廷ミステリー、ジェームス・W・ヒューストン『マリーンワン』(村田薫訳/小学館文庫)をご紹介します。
 


 
 ある激しい嵐の夜、ホワイトハウスからキャンプ・デーヴィッドに向かっていた大統領専用ヘリコプター〈マリーンワン〉の機体に突然異変が起き、メリーランド州の山中に墜落。大統領を含め、パイロットやシークレットサービスなど乗員全員が死亡する大惨事となります。主人公のマイク・ノーランは、アナポリスで小さな事務所を経営する弁護士。元海兵隊のヘリコプターパイロットだった経験を活かし、ヘリコプター事故で訴訟が起こされた航空機メーカーの弁護が主な仕事です。いつも組んで仕事をしている航空保険会社の依頼で、マイクは墜落機の製造元であるワールドコプター社弁護のために調査を始めます。
 
 マイクと大統領といえば、ある特定の方々(筆者含む)がまっさきに思い出すのは、ジェラルド・バトラー演じる元シークレットサービスのマイク・バニングと、アーロン・エッカート演じるアッシャー大統領の壮大な愛と殺戮の連続アクション映画『エンド・オブ・ホワイトハウス』『エンド・オブ・キングダム』! 大統領さえ助けられれば、官邸をぶち壊そうが他国の観光名所を根絶やしにしようが大したことではない! と言わんばかりの強引でスットコな展開が楽しい作品ですので、未見の方はぜひ。さて落ち着いて本題に戻りますと、本書の大統領は一言もしゃべることなく冒頭で死んでしまいます。<これでエンドオブ展開はなし
 
 訴訟を起こす側と被告側の双方があらゆる可能性を考慮に入れた調査を徹底的に行いますが、弁護側にもっとも不利な点は、墜落したヘリがフランスのメーカー製だということ。もっとも頑丈で、なおかつ精密であるべき大統領専用機が海外の欠陥品だったということになれば、どれだけの大問題に発展することになるかは火を見るよりも明らか。品質には絶対の自信を持つメーカー側スタッフとマイクら弁護団の前に、国家運輸安全委員会や国務省、そして未亡人となったファーストレディが立ちふさがります。必死の調査を進めていくと、海兵隊のナンバーワンだったヘリコプターの第一パイロットは、大統領を毛嫌いしていたことが発覚します。しかも事故当時の天候状態は最悪で、なぜ車で移動しなかったのかという疑問も生じてくるのですが、頼みの綱のボイスレコーダーが謎の動作不良を起こし、事故の核心部分となるはずの箇所が消えていたのです。調べれば調べるほど不可解な点が浮かび上がり、知らぬ間に陰謀の真っ只中に巻き込まれたマイクは、命の危険にさらされながらも真相に近づいていきます。
 
 前半は事故原因の調査がかなり詳細に描かれていて興味深く、後半は、手に汗握るアクション場面や、百戦錬磨の狡猾な相手と火花を散らす法廷シーンが楽しめます。結末に明かされる真相は、筆者のように思わず驚きの声をあげる人も多いのではないでしょうか。
 
 さて本書の萌えどころはというと、かつての海兵隊仲間で今は私立探偵のティニーとマイクとのやりとりでしょう。厳しい訓練や実戦を耐え抜いてきた者同士の気のおけない会話の中に、ある種の矜恃のようなニュアンスが感じられます。もう一人同じ仲間だったジェイソンは、連帯意識が強く、仲間に嫌疑をかけるなどもってのほか。真相究明のために友人を利用することに抵抗を感じるマイクでしたが、実は彼にも仲間にすら隠しておきたい秘密があったのでした……。
 
 ジョン・グリシャムを始め、弁護士から作家になった例は少なくないと思いますが、本書で日本初登場のジェームス・W・ヒューストンは、なんと元アメリカ海軍のベスト・オブ・ベスト、トップガン! その後除隊してロースクールに入り弁護士資格を取得しますが、また海軍に戻り、今度は海軍情報部に数年在籍して退職。そしてサンディエゴで法律事務所を開き、そのかたわら小説を書き始めて2作目でニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに入り、本書は7作目の著作となります。リアル『トップガン』から『ザ・ファーム/法律事務所』! しかし不死身のヴァンパイアにはなれず、2016年に亡くなられたそうです……。
 

 ある時は元CIA秘密工作員、ある時は元殺し屋、そしてある時は元”ディープ・スロート”。多彩な元◯◯を演じてきたリーアム・ニーソンですが、最新作『トレイン・ミッション』では、元刑事で今は保険の営業マン・・・だったのですが、突然のリストラで無職になったその日に、とんでもない事件に巻き込まれてしまいます。
 


 警察を退職してから10年間NYの保険会社に勤務するマイケル(リーアム・ニーソン)は、定年まであと5年となった今、突然会社から解雇を言い渡されます。貯金もなく、家のローンや息子の学費のことを考えると、偶然電話してきた妻にも言えず、ちょうど飲む約束をしていたかつての相棒マーフィー(パトリック・ウィルソン)にだけは打ち明けたのですが、いつもの通勤電車に乗り、帰宅してどう切り出すか暗い気持ちでいたところ、見知らぬ女性が目の前に座ります。ジョアンナと名乗るその女性(ヴェラ・ファーミガ)は、マイケルに奇妙な提案をしたのです。
 


 パトリシア・ハイスミス『見知らぬ乗客』はもちろん、最近ではピーター・スワンソンによる話題作『そしてミランダを殺す』をほうふつとさせる魅力的なシチュエーションですが、この作品はもう一捻りされています。ジョアンナはマイケルに、「この列車の乗客の中から、ある荷物を持った一人を探し出してほしい。見つけ出せたら10万ドルがあなたのものになる」と言い、〈常連客ではない〉〈終点で降りる〉〈プリンと名乗る〉という3つのヒントを出します。与えられた時間は終点の到着まで。顔も年齢も性別さえもわからない相手をどうやって見つけるのか、その荷物とは何なのか、そしてそんな大金を出してまでその人物を探す目的とは? マイケルは知らないうちに恐ろしい罠にはまっていたのです。それにしてもこの設定、日本だとまず不可能なんですよね。出社の時はともかく、退社時間が毎日決まっていて、確実に同じ列車で帰るなんて、サービス残業が当然の日本では絶対無理。なんともうらやましい限りです……。リアルタイムで物語が進行するノンストップサスペンス。刻々と迫る恐怖のタイムリミット、はたして結末はいかに? その答えは劇場で!
 
3/30(金)公開『トレイン・ミッション』予告編

 

監督:ジャウマ・コレット=セラ『ロスト・バケーション』
出演:リーアム・ニーソン『96時間』シリーズ/ヴェラ・ファーミガ『ディパーテッド』/パトリック・ウィルソン『オペラ座の怪人』/サム・ニール『マイティ・ソー バトルロイヤル』/エリザベス・マクガヴァン『タイタンの戦い』/ジョナサン・バンクス『ビバリーヒルズ・コップ』/フローレンス・ピュー
 
提供:ポニーキャニオン・ギャガ 配給:ギャガ(GAGAロゴ)
原題THE COMMUTER/2018/アメリカ、イギリス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/105分/字幕翻訳:伊原奈津子
公式サイト:gaga.ne.jp/trainmission
 
コピーライト表記:© STUDIOCANAL S.A.S.
3月30日(金) 全国ロードショー
TOHOシネマズ日比谷にて3月29日(木)特別先行上映!

 
 

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho







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