全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 今回のお題は、後ほどご紹介する映画を観終わった瞬間、猛烈なアドレナリンの放出とともに「よし! ついにアレを出せる! アレしかない! やったー!!」と心の中でガッツポーズした、スティーヴン・ハンター『四十七人目の男』(公手成幸訳/扶桑社ミステリー)です!


『極大射程』でスタートした偉大なるスワガー・サーガの主人公である孤高のスナイパー、ボブ・リー。その神々しいまでのストイックでプロフェッショナルな兵士としての生きざまには、男女問わず惚れぼれする人も多いはず。銃に関するこだわりのうんちくや、好敵手との息詰まる死闘の数々に胸をときめかすこの人気シリーズで、本書は間違いなく異色中の異色作です。なぜなら本書を一言で説明すると――

 歌舞伎町の大物“ショーグンAV”と悪の剣士・近藤勇の陰謀を阻止せんと
 日本刀で武装したボブ・リー・スワガーが討ち入りをする。

 ――という、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』もあっさり凌駕するほど謎すぎる設定。しかし! これが意外なほどスワガー・サーガの精神に則っているのです! 以前ご紹介した最新作『Gマン 宿命の銃弾』の三種の神器(?)が、〈ギャング・銃撃戦・美老人〉だったのが、本書では〈ヤクザ・斬り合い・美老人〉。還暦間近のボブ・リーが、言葉がまったくわからない極東の地で綿密に計画を立てて悪を倒すという、設定はキテレツでも本質はかなりまっとうな冒険小説なのですよ!
 
 アイダホ州の奥地に住むボブ・リーの元に、フィリップ・矢野という一人の日本人が訪ねてきます。元陸上自衛隊の大佐で海外の特殊任務の経験も豊富だという、真面目で礼儀正しいその男性は、ボブの父アールが硫黄島で日本軍と闘ったことについて話を始めるのですが、彼の父をその戦闘中に殺したのはアールだったらしいというのです。それで、もし父の軍刀をアールが戦利品として持ち帰り息子のボブ・リーに託していたら、ぜひそれを譲ってほしいと頼みに来たのですが、アールは戦闘の記念品を持ち帰るような人物ではありませんでした。しかし矢野の話と真摯な態度に感銘を受けたボブ・リーはすぐさま行動に移り、刀を探し出して矢野に直接手渡しに行くことに。
 
 ここからボブ・リーが初めての日本で体験する様々な出来事が描かれます。自称レッドネックのボブ・リーは、訪問することを前もって知らせると客を迎える支度などで矢野の家族をわずらわせてしまうから、と先方に知らせずに直接家を訪れるという妙に細やかな気づかいを見せるのですが、普通の日本人の家ならむしろ突然お客が(しかも外国から)やってきた方が困るんじゃ……とやや不安に思うところ。しかし矢野一家は驚きはしたものの、ほぼ完璧なおもてなしでボブ・リーを迎えます。このエピソードをはじめ、本書ではそこかしこに“日本人の美徳”的なコメントが出てくるのですが、それらがあまりにも立派すぎていて「いや? 全然そんなんじゃないので!」と、忠臣蔵の知識はもちろん、日本史に果てしなく弱い筆者は思わず謝りたくなるという(苦笑)。一方ボブ・リーはというと、サムライ映画のDVDをかたっぱしから観てトシロー・ミフネに傾倒し、ティーとフィッシュの朝食をとり、体力作りにランニングをした後はスシやコーベ・ビーフを食べる日々を送ります。
 
 このようにあまりにもすさまじいエピソードがてんこもりのため、大事な腐要素がなかなか見えづらいのですが、実は! ボブ・リーと矢野の関係に着目してください! ボブ・リー、とにかく矢野のことが好きすぎるとしか思えないほど、彼のあらゆることを褒めちぎってます。そして惨殺された彼とその家族の仇をとるために、サムライになる厳しい修行に耐え、クライマックスではシリーズ中最大の超法規的行動に出ます。いやこれマジで、愛がないとできないでしょ!!
 
 いつもの硝煙たなびく戦闘シーンにかわり、血しぶきと臓物が飛び交うスプラッターな場面がやたら詳しく描かれるところにも、ハンター先生のこだわりが感じられます。いろいろとすごい本書ですが、後半で明らかになる矢野一家が皆殺しにされた理由にはびっくり! ボブ・リーじゃなくても、そんな外道は何が何でも征伐しなければならないと思わずにはいられません! それからアメリカ大使館員の日系アメリカ人スーザン・オカダが、今思うと『シン・ゴジラ』の石原さとみテイストなのでファンの方はぜひ。なお前述の『Gマン』は映画『パブリック・エネミーズ』へのカウンターブローでしたが、それに先立つ本書は、当時のアメリカ映画にうんざりしていたハンター先生が日本映画『たそがれ清兵衛』(2002 英題 The Twilight Samurai )を観て心が洗われ、その後2年間サムライ映画漬けになったことで実を結んだそうです。

 なぜか扶桑社さんにはこうしたユニークな作品を期待してしまうのですが、最近出たシェイン・クーン『インターンズ・ハンドブック』(高里ひろ訳)がまさにいかにもな扶桑社テイストで、案の定扶桑社ミステリー通信にズバリと指摘されておりました(笑)。スコット・スミス『ルインズ―廃墟の奥へ』(近藤純夫訳)なんか最高だったし、おできにメシの催促をされるスコット・シグラー『殺人感染』(夏来健次訳)の続編もずっと待ってるんですけど(笑)。今後もそのセンで頑張ってください!
 


 そして! 冒頭で書いたようにぜひあわせてご紹介したかった映画とは、同じくアメリカ人訪日案件、6月15日(金)公開のアニメ『ニンジャバットマン』です!! タイトルとポスターだけで観たいと思った方には、その期待を裏切ることはまず無いでしょう。今まで誰も観たことのない、めくるめくアクション・エンターテインメント時代劇なのです! しかも、このHPでもおなじみの堺三保さんが設定考証をされているんですよ! 

 ある日、ゴッサムシティからジョーカーをはじめとする悪党どもが消えてしまいます。彼らはなんと日本の戦国時代にタイムスリップしていたのでした。このままでは世界の歴史が変わってしまいます。バットマンも彼らを追ってその時代に舞い降りますが、現代のテクノロジーに頼れない彼がどうやってヴィランたちを倒せるのでしょうか?

 とにかく画がすごい!!! その動きといい、キャラの和風デザインといい、その完成度は画面から目を一瞬も離したくないほど! セリフのキレもいいし、物語の起承転結も文句なし……と、いいとこだらけなのですが、筆者がもっとも感動したのはバットマン戦国バージョンのガジェットの数々! バットスーツを甲冑にしたらあんなにかっこいいなんて! コウモリの家紋のデザインもたまりません! そして驚きのクライマックス!

 涙無くしては観られない大傑作『レゴバットマン ザ・ムービー』に続き、アニメ版DC映画のあらたなる名作が誕生しました。85分間、楽しさと興奮がぎっしり詰まったこの作品、エンドクレジットの堺さんのお名前もぜひ劇場の大スクリーンで探してくださいね!

映画『ニンジャバットマン』 日本用トレーラー

 

 

タイトル:『ニンジャバットマン』(米題:BATMAN NINJA)
 
公開表記:2018年6月15日(金)新宿ピカデリー他ロードショー
 
配給クレジット:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社

コピーライト:Batman and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics. © Warner Bros. Japan LLC

【公式HP】 http://wwws.warnerbros.co.jp/batman-ninja/
【公式Twitter】 @batmanninja2018

   

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho









 

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