「双子だから助けを求めているのがわかる、声が聞こえるんだ」
 小説や映画でこういうシーンをたまに見かけますが、実際はどうなのでしょう? 双子にしろ歳が違う兄弟にしろ(時には親友同士も?)、絆が固ければ何かを察知できるもの?

 1989年9月、テキサス州東部の町ロングビューでルーシーという10歳の少女が、学校に行こうと自宅近くのバス停に向かう途中に忽然と姿を消した。誘拐されたと思われたが、目撃者はおらず、警察も手がかりをつかめなかった。
 その数日後、ルーシーの4歳年上の姉リーアは、父親の書斎でうたた寝をしているときに奇妙な夢を見る。触ってもいないパソコンのカーソルが明滅しだし、「リーア」と名前が打たれたのだ。彼女がパソコンに飛びつくようにして「ルーシー、あなたなの?」と打つと「イエス」と、ついで「森の近くの地下」という答えが返ってきた。それから連日、リーアはルーシーが語りかけてくる夢を見るようになる。リーアは両親に夢のことを話すが、「妹を思うあまり、そういう夢を見たのだ」ととりあってもらえなかった。

 1か月ほど経ったころ、警察からよからぬ情報がもたらされる。以前から近隣の町で子どもの行方不明事件が起きており、うち何人かが、失踪からおよそ1か月後に遺体で見つかっているという。いずれの事件も未解決だが、悪魔崇拝のカルト集団との関わりが疑われていた。リーアたちの両親は最悪の事態を受け入れる覚悟をせざるをえなかった。
 しかし、リーアはちがった。妹は生きている、助けを求めていると信じ、夢に出てくるルーシーが口にした言葉を手がかりに、ひとりで妹探しを始める。

 そのころ、ルーシー失踪事件の動向を不安な思いで見ている女性がいた。75歳になるシルヴィアだ。彼女は若いころ、看護師として精神科病棟で働いていた。そこにある日、ディーリアという19歳の女性が運びこまれる。ディーリアは「わたしを保護して、あいつらが追ってくる」と叫ぶばかりで、気になったシルヴィアは毎日ディーリアの病室に足を運び、少しずつ話を聞きだしていった。
 ディーリアによると近隣の町スターヴィルでカルト集団が活動しており、子どもを誘拐して監禁し、女の子は性の奴隷にしているとのことだった。ディーリアもそのひとりだったが、必死の思いで逃げてきたという。シルヴィアは彼女の話を警察に伝えるが、精神に異常をきたした者の妄言だとして一蹴される。その後、ディーリアは遠方の親戚のもとへ送られ、彼女の話の真偽はわからないままになった。

 それから数十年、シルヴィアは子どもが行方不明になるたびに暗澹たる思いにとらわれていた。というのも、ディーリアから聞いたカルト集団のリーダーに心当たりがあったのだ。カルト集団はいまも活動している、ルーシーも彼らにさらわれたにちがいない、と彼女はなんとか警察やルーシーの両親に自分の話を伝えて信じてもらい、事件を解決してほしいとその道を探る。

 本書はリーアの視点で語られる章と、シルヴィアの視点で語られる章とで構成されている。リーアの章は、「ルーシー失踪から1日後」「2週間と1日後」などと時間を追って進み、シルヴィアの章は現在と過去を行き来しながら進む。リーアの物語は比較的シンプルだが、そこに人生の紆余曲折を知るシルヴィアの物語がからむことで、俄然話はおもしろくなり、すいすいと読み進められる。

 シルヴィアがカルト集団のリーダーに心当たりがあった理由は後半まで明かされず、前半では彼女は何者なのか、事件と何か関わりがあるのかという興味がつきない。最初のほうでは、単に子どもの失踪事件に関心があって、事件を報じる記事や、牛乳パックに印刷されているような行方不明者の写真を集めている怪しいおばあさんに思えなくもないのだが、最後は自分の命を差しだしてでも子どもたちを救いたいと行動を起こす、なかなか強いおばあさんである。

 それにひきかえ、と思ってしまうのがリーアたちの父親カールだ。ルーシーが行方不明になったのは、リーアと母親が先に家を出たあとのことだ。カールがルーシーとの朝食中、少し席を離れているあいだにルーシーが学校に向かってしまったため責任を感じているのだろうが、事件後、酒量が増え、家に帰らなくなってしまった。そんなことしているより、ルーシーを見つけるために動けよ、リーアにも心を配れよ、と思うのだけれど、まあ後悔と悲しみに苛まれているのなら仕方がない。

 本書はメイ・コッブのデビュー作である。著者のHPによると、次作はジャズ・ミュージシャンのラサーン・ローランド・カークに関する書のようで、今後ミステリーを書くのかどうかは不明だが、強い女性・かっこいい女性が登場する作品をまた書いてもらいたい。

高橋知子(たかはしともこ)
翻訳者。朝一のストレッチのおともは海外ドラマ。三度の食事のおともも海外ドラマ。お気に入りは『NCIS』と『シカゴ・ファイア』。訳書にジョン・サンドロリーニ『愛しき女に最後の一杯を』、ジョン・ケンプ『世界シネマ大事典』(共訳)など。

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