◆第57回 装いも新たに帰ってきた新生『私立探偵マグナム』!◆


 どもども。アメリカではついに秋の新番組シーズンが始まって、こちらも新番チェックに大忙しとなっております。
 さて今回は、そんな新番組の中でも放送前からひときわ話題になっていた作品『マグナムP.I.(Magnum P.I.)』を紹介します。
 
 これは、1980年代、アメリカで爆発的な人気を誇ったテレビドラマ『私立探偵マグナム』のリブート版で、オリジナル版同様、元軍人で私立探偵のトーマス・マグナムが、仲間たちとともにハワイで起こる数々の難事件を毎回解決していくというスタイルの、明朗アクションとなっています。有名作家の別荘に居候してるとか、その作家の車を勝手に乗り回してるとかという設定もそのまんまで、大きく違うところはオリジナル版では男だった別荘の管理人が、今回は女性キャラになっているところ。
 このところ、『HAWAII FIVE-0』のヒットを受けてか、『リーサル・ウェポン』、『S.W.A.T.』等々、かつての人気アクションもののリブートが盛んなのですが、この『マグナムP.I.』もそんな流れの中の一本ということが言えるでしょう。製作側の力の入れようは相当なもので、一話目の監督を、映画『ワイルドスピード』シリーズの3~6作目を監督して大人気シリーズへと育て上げたジャスティン・リンに任せて、アクション満載で仕上げたと言えば、どれくらい力が入っているか、わかるのではないでしょうか。
 問題は、アクションはど派手にパワーアップされてても、お話の方があまりにもストレートすぎるところでして、よく言えばオリジナル版の雰囲気を残しておおらかな、悪く言えば古くさい感じがしていて、個人的にはこの調子ではなかなか人気を得るのは難しいような気がしています。
 
 だいたいこの手のリブートって、『ラッシュアワー』とか『トレーニング・デイ』とか『96時間 ザ・シリーズ』とか『ザ・シューター』とか、うまく人気が出なくて短命で終わっちゃった屍も累々だったりもするんですけどね。でも、企画の流れは止まることを知らないようで、やはり80年代の人気作品だった『マイアミ・バイス』のリブート企画も進行中なんだとか。はたして『マグナムP.I.』は生き延びることができるのでしょうか?
 ちなみに、オリジナル版の『私立探偵マグナム』は、やはりハワイを舞台にした人気番組『ハワイ5-0』の後番組として始まったんですが、今回のリブート版『マグナムP.I.』は、今も放送中のリブート版『HAWAII 5-0』と同じ製作者たちが作っており、なんと1話目でも5-0について言及するセリフがあったり、『HAWAII 5-0』に出てくる女性検視官がこちらにも登場したりしていて、明確に「同じ世界のお話」であることが強調されてました。双方の主人公たちが共演するクロスオーバー回が、絶対どこかで作られる予感がひしひしとしております。

■『マグナムP.I.』予告編

 
 さて、小説に登場する私立探偵といえば、それこそハードボイルドものの主役たちがきら星のごとく存在しています。サム・スペードやフィリップ・マーロウ、リュウ・アーチャーといったクラシックな御三家から、一世を風靡したスペンサーや、その衣鉢を継いだと言っていいエルヴィス・コール、イギリスに目を向ければ競馬シリーズ屈指の名キャラクター、シッド・ハレー等々、数え上げればきりがないくらいなのですが、今回イチオシさせていただきたいのは、ジョン・D・マクドナルドが生み出した無免許探偵トラヴィス・マッギーです。
 彼を主人公とする、いわゆる《カラー》シリーズ(タイトルに常に色の名前が入っているため)は、1963年の『濃紺のさよなら』から1984年の The Lonely Silver Rain(銀色の寂しい雨)まで21作が発表され、アメリカでは絶大な人気を博していました。翻訳はちょうど半数ほどしかされていないのが、少し残念なシリーズです。
 舞台はフロリダ。主人公のマッギーは元軍人で、港に浮かべたハウスボート暮らしのプレイボーイ。クルマはロールスロイスの改造車。免許は持っていないけれど、助けを求める(たいていは警察や探偵に頼むには都合の悪い事情がある)人のために、毎回一肌脱いでみせるという、アウトローっぽさがアメリカ人にウケていたようです。
 ちなみにマッギーは無免許探偵の草分け的存在として、その後の無免許探偵もの(たとえば今ならリー・チャイルド《ジャック・リーチャー》シリーズとか)に多大な影響を与えていると言われています。また、後のテレビドラマ『マイアミ・バイス』の主人公、ソニー・クロケット刑事の設定は、かなりこのマッギーから借りてきているのは一目瞭然です。
 もちろん、フロリダとハワイの違いはあれ、温かい南国に住み、派手なクルマで事件を追う元軍人のプレイボーイ、といったあたり、『私立探偵マグナム』もまた、トラヴィス・マッギーの子供たちの一人なのです。

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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