今回は、2年ほど前に取り上げたメイソン・クロスの最新作、Presumed Dead(Orion、2018年)を取り上げます。失踪人の追跡を専門とするコンサルタント、カーター・ブレイクを主人公とするシリーズの5作目です。

 ブレイクは知人の紹介でジョージア州の小さな街、レイク・ベサニーに住むデイヴィッド・コナーを訪ねる。ここは15年前に連続殺人事件が起こった場所で、メディアは近くにある山の名前から犯人を〈デビルマウンテン・キラー〉と呼んでいた。
 犯人は逮捕されないまま事件は終息していたが、デイヴィッドは数か月前に犠牲者の一人だった妹のアデリーンをアトランタで見かけたとブレイクに語り、彼女を探してほしいと依頼する。
 アデリーンの遺体は発見されなかったものの、現場には大量の血液が残されていたため、警察は生存の可能性はないと断言していた。デイヴィッドの依頼を受けて調査を始めた私立探偵のウィーラーはアトランタでカージャックに遭って命を落としていたことも明らかになる。
 ウィーラーの足跡をたどりながらアトランタへ向かったブレイクは市警察からの情報でアデリーンと思しき人物が一緒にいた男、ゴンザレスもウィーラーと一日違いで殺害されていたことを知る。
 レイク・ベサニーに戻った翌日、ブレイクは突然保安官のマグレガーに逮捕される。アトランタに向かう前、ブレイクと諍いを起こした州外からの旅行者の二人が死体で発見されたためだった。
 すぐにアリバイが成立して釈放されたものの、旅行者たちは〈デビルマウンテン・キラー〉と同じ手口で殺害されていた。15年の時を経て犯人が戻ってきたのか、模倣犯の仕業なのか、レイク・ベサニーの住民の不安が募る中、ブレイクはアデリーンに酷似した女性の捜索を続けるが……
 
 物語はブレイクの視点だけではなく、レイク・ベサニーの副保安官、イサベラ・グリーンとドワイト・ヘイコックスの視点からも語られる。
 グリーンの父親は〈デビルマウンテン・キラー〉の犠牲者の一人、ヘイコックスは事件に魅入られてレイク・ベサニー勤務を希望したという設定で、二人の事件との関りが徐々に理解できる巧みな構成となっている。
 デイヴィッドが目撃した女性がアデリーンなのか、なぜ15年前の事件は終息したのか、更には〈デビルマウンテン・キラー〉の正体は……と畳みかけるように物語は目まぐるしく展開し、結末まで息つく間もなく進んでいく。

 著者は1979年のグラスゴー生まれながらシリーズはすべて米国が舞台で、本作でもレイク・ベサニーという小さな街がしっかりと描かれて雰囲気づくりに大いに貢献している。
 デビュー作と2作目でも連続殺人犯の追跡がテーマとなり、3作目と4作目ではかつて所属していた組織との戦いを含め、ブレイクの過去が明らかにされていた。
 そして本作ではこれまでスリラー色の強かった傾向が少し弱まり、シリーズの中では最も謎解きに重点を置いた内容となっただけでなく最後の最後まで読者を欺き続ける力技も披露され、著者の懐の深さがうかがえる出来栄えとなっている。
 2019年には6作目となる What She Saw Last Night が出版される予定で、こちらは初めてブレイクが登場しない作品らしい。個人的には早くブレイクの活躍を読みたいものの、新作がどのような形で出来栄えとなるのか、今から楽しみでもある。

作品リスト(出版社はすべてOrion)
The Killing Season(2014年) デビュー作
The Samaritan(2015年)
The Time to Kill(2016年)
Don’t Look For Me(2017年)
Presumed Dead(2018年)

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀半ばの生まれ。先日『Godzilla/決戦機動増殖都市』(監督:静野孔文、瀬下寛之)を鑑賞。アニメーション映画を観るのは十数年ぶりであったが、予想以上に楽しめた。 20世紀半ばの生まれ。先日『2001年 宇宙の旅』のIMAX版を鑑賞。映画が始まる前から音楽が流れ、15分ほどの休憩を挟むといった上映形式に感激した。驚いたのは、エンドロールが終わって館内が明るくなってもBGM(『美しく青きドナウ』)が最後まで流されたこと。自宅では聴けない音量で堪能しました。

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