みなさま、あけましておめでとうございます。韓国ジャンル小説愛好家のフジハラです。本年もミステリーをはじめ、SF、ホラー、ゾンビモノなど、韓国ジャンル小説を幅広く紹介できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 
 さて、今年初の当コーナーは吉報から。
 2014年に『金来成探偵小説選』『魔人』(いずれも祖田律男訳、論創社)が出版されてから4年半ぶりに韓国推理小説の父、金来成先生の邦訳本、『白仮面』(祖田律男訳、論創社)が登場!


 こんなブキミな表紙ですが、こちらは1937年、月刊『少年』で連載された、レッキとした子ども向けミステリーです。このたび刊行となった『白仮面』には『白仮面』『黄金窟』の二作品を収録。1939年に発表された大作『魔人』(近年も新たな刊行が相次いでいます!)をはじめ、数々の作品に登場する名探偵(であり探偵小説家でもある)劉不乱(ユ・ブラン)が登場し、子どもたちとともに悪党どもを征伐する物語です。『白仮面』では発明家、姜(カン)博士の「秘密手帳」を狙う白仮面が、博士の息子、水吉(スギル)の目の前で博士を誘拐。水吉とその友人の大準(デジュン)が、機転を利かせて白仮面を追跡します。劉不乱も合流した追跡の過程では、行方不明になっていた大準の父の影や、誘拐事件の裏に隠された重大な意図が少しずつ見え隠れし、少年読者たちの謎解きゴコロも刺激します。読者へ向けられた語り口調、たびたび届く白仮面からの犯行予告状、人の目を欺く見事な変装など、少年探偵モノならでは! のしかけでノスタルジーを感じさせながらも、ピストルをバンバンぶっ放すシーンもあり、豪快。もちろん劉不乱探偵の助けが大きいとはいえ、少年たちの無鉄砲な行動とその活躍は、暗い時代を生きなくてはならなかった当時の少年読者たちにゴラクを味わう喜びと大きな活力を与えたであろうことは、想像に難くありません。
 
『黄金窟』の主人公は、孤児院に暮らす少年少女たち。施設にきたばかりの少女、白姫(ペッキ)は、父親が遺した小さな木製の仏像をいつも手にしています。それは父親が生前、山賊に追われていたインド女性を助けた際、その女性からもらったものでした。財宝のありかを記した暗号が秘められているというその仏像を狙う輩から白姫を守りながら、孤児院の模範生、学準(ハクチュン)と友人たちは劉不乱とともに大海原へと出発。大冒険が始まります。当時も今も孤児の多い韓国ですが、ラストは孤児院の子どもたちを温かく、力強く励ます形で幕を下ろします。
 

 次にご紹介するのは、『白仮面』のあとがきでもちらりと言及されている方定煥(パン・ジョンファン)の『七七団の秘密』。著者の方定煥は、朝鮮で初めて児童月刊誌を創刊した作家で、彼の名を冠した方定煥児童文学賞という文学賞も存在します。
『七七団の秘密』は、著者の創刊した児童月刊誌『オリニ』に1926年より不定期連載された物語。時代柄というかなんというか、悪党集団=日本人という描かれ方をしていますが、日本のサーカス団の団員として育ったサンホとスンジャの兄妹がサーカス団を抜け出すまでの冒険を描きます。偶然出会った叔父の力を借り、サンホが一足先にサーカス団から脱出しますが、スンジャを救う計画はことごとく失敗。スンジャは脱出の機会を逃したまま、中国へと連れ去られてしまいます。妹救出のため、助力者とともに中国までやってきたサンホは、悪党の巣窟を発見。ちょっとネタバレしてしまうと、この『七七』は悪党どもが用いる暗号を示しています。その暗号の存在を知ったサンホは危険を顧みず、暗号を使って悪党の巣窟に侵入します。ああ、しかし初めて足を踏み入れたその場所で緊急事態発生! 慌てふためき逃亡する悪党どもの波に飲み込まれ、真っ暗な地下道を進むサンホ。妹はいったいどこに! ……と、少年読者たちがさぞかし毎回、次号を心待ちにしたのだろうなあという展開。さらに、サーカス団は悪党どもの隠れ蓑にすぎず、朝鮮と中国を股にかけて活動する彼らの真の目的は別のところにあるという、ダイナミックな社会問題を含んだ結末が待っている、ある意味グローバルな児童書ミステリーとなっています。
 

 さて最後にご紹介するのは、近年の児童書ミステリー『少年名探偵チョン・ヤギョン』(ハン・イ著/オ・ユンファ画)。
 チョン・ヤギョンは、李氏朝鮮時代後期の実学者でもあり科学者でもあり哲学者でもあり……と、とにかくたくさんの肩書きを持ったスゴい人。正祖(イ・サン)の時代を描いたドラマや映画でもちょこちょこ登場する人物ですが、こちらは少年時代のチョン・ヤギョンを主人公とした物語。ある日、親しくしていたボングム姉さんの水死体があがり、自殺が疑われますが、他殺であることを見抜いたヤギョン少年。ボングム姉さんにつきまとい、事件の真犯人として目をつけられていたヨンダルまでもが死体で発見されると、現場検証で大人顔負けの鋭い推理を展開します。やがて明らかになったのは、貧しさが招いた悲しい真実。社会の不条理を目の当たりにし、大切な人との別れを経験しながらも、家族愛、友情に包まれて、ヤギョン少年は賢く、たくましく成長していきます。
 こちらの作品は児童書ミステリーとしての楽しみ以外に、当時の法律、裁判のしくみなどについても学べるというおまけつき。当時の裁判風景を写した貴重な写真や、中国からもたらされた法医学書「無冤録」、それを基に朝鮮で作られた「増集無冤録」や判例集「審理録」の解説など、資料豊富なコラムが子どものみならずオトナの知的好奇心をもくすぐってくれます。
 
 科学的視点でモノを見るスタイルがミステリーウケし、小説、映画やドラマにおいて探偵役として狩り出されることが多いチョン・ヤギョン。『チョン・ヤギョン 李氏朝鮮王朝の事件簿』『牧民新書~実学者チョン・ヤギョンの生涯』など、チョン・ヤギョンが主役を張ってるドラマのほか、JYJのユチョンや、なめらかお肌が美しいソン・ジュンギが出演する『トキメキ☆成均館スキャンダル』でも名優アン・ネサン扮するチョン・ヤギョンが、この世のものとは思えない美男子パク・ボゴムを一躍有名にしたドラマ『雲が描いた月明かり』にも、これまたアン・ネサン扮するチョン・ヤギョン(タサン先生)がちょこちょこ登場。……と若干主観的見解が入ってしまいましたが、本日の児童書ミステリーのご紹介はこの辺で。オトナミステリーマニアの皆さまには物足りなかったらスミマセン。機会がありましたらオトナ用、チョン・ヤギョンミステリー小説もご紹介できればと思います。

藤原 友代(ふじはら ともよ)
 北海道在住、韓国(ジャンル)小説愛好家ときどき翻訳者。
 児童書やドラマの原作本、映画のノベライズ本、社会学関係の書籍など、いろいろなジャンルの翻訳をしています。
 ウギャ――――!!ゲローーーー!!という小説が三度のメシより好きなのですが、ひたすら残虐!ただ残忍!!というのは苦手です。
 3匹の人間の子どもと百匹ほどのメダカを飼育中。













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