12年まえに失踪した親友カーラが戻ってきた。しかし、“わたし”ことエリーには、その女性が本物のカーラだとは思えなかった。カーラを名乗る女性が現われたことで、エリーの人生が狂いだす。
 今回は謎の女性が登場する心理サスペンス、ニコラ・サンダースの Don’t Believe Her (2024) をご紹介します。

 ロンドンで美容師をしていたエリーは生まれ育った町、リンドルトンに居を移し、恋人のニックとの結婚を目前に幸せな気分にひたっていた。ニックとは、父親の葬儀で戻った際に親しくなり、つきあいはじめたのだが、彼は高校時代の親友カーラの兄でもあった。当時、エリーはいつもカーラと一緒に行動し、ふたりでバンドを組んで曲づくりを楽しんだりしていた。
 しかし16歳のとき、カーラが忽然と姿を消す。町を離れたいと口にしていたことがあったため、自らの意思で家を出ていったものと思われた。
 それから12年、一度だけ母親のマージョリーにパリから葉書が届いたものの、カーラが実際にはどこで何をしているのかいっさいわからなかった。エリーは彼女の身を案じ、実録犯罪を扱うポッドキャストの配信者にエリー探しを依頼するが、真剣にとりあってもらえず頭を悩ませていた。
 そんなある日、カーラが見つかったとニックから聞かされる。彼はエリーに内緒で探偵を雇い、カーラの行方を追っていたのだ。カーラはパリで暮らしているが、一時帰国して家に戻ってくるという。
 このころエリーとニックは、マージョリーが手首を痛めて身のまわりのことがしづらくなっていたので、彼女の家で暮らしていた。そこにカーラが帰ってきて四人での生活が始まった。エリーはカーラと再会できるのを喜んでいたが、12年ぶりに会うカーラに違和感をいだく。首にあったはずの痣がなく、昔の話をしても、どこかズレが生じたり、カーラが憶えていなかったりするのだ。この女性は本物のカーラではない。エリーはその思いを徐々に強くしていき、マージョリーやニックに訴えるがまったく相手にされない。
 そこでエリーは、昔の友人や恩師を家に呼んでパーティを開き、カーラを名乗る女性にボロを出させようと計画を立てる。ところが、パーティにやって来た友人たちはカーラと楽しげに話をし、カーラが別人ではないかと疑う人はひとりもいなかった。それでもエリーの疑念は消えず、彼女はニックを説得して、カーラのDNA鑑定をおこなうことに同意させる。
 しかし結果はエリーの期待に反して、カーラが本人であることを証明したにすぎなかった。エリーはニックから、頭がおかしくなったのではないかと言われだし、ほんとうの娘のように接してもらっていたマージョリーからも冷ややかな目を向けられるようになる。
 そのうえカーラから、高校時代にはつきまとわれてうんざりしていたし、仲よくしていた憶えも、バンドを一緒に組んだ憶えもない、町を出たのもあなたから逃れたかったからだと言い放たれる。エリーは自分の記憶とまったくちがうことを言い出したカーラにとまどうが、ニックもマージョリーも彼女の肩を持ち、エリーは家のなかで孤立していく。
 そこでエリーは、この町に戻って以来勤めている美容院での友人、アシュリーに助けを求める。だが彼女から、さらにショッキングな話を聞かされる。エリーは昔からニックに執着し、町に戻ってきたのも彼に近づき、彼の家にはいりこむためだったという話を耳にしたというのだ。また、エリーがその美容院で職を得られたのは、従業員がひとり交通事故にあってやめざるをえず、欠員が出たからなのだが、その従業員を車ではねたのはエリーだったとも言われているという。エリーはすべてを否定するが、何ひとつ信じてもらえず、アシュリーからも冷たくあしらわれる。
 頼るすべのなくなったエリーは途方に暮れるが、そこにとどめを刺すかのように、ニックとマージョリーから家から出ていくよう告げられる。蓄えていたお金は、ニックが経営するジムの資金として提供していたので、どこかべつのところに行こうにも行けず、完全に窮地におちいる。

 誰が真実を話し、誰が嘘をついているのか。エリーは信用できない語り手なのか。だとすれば、なぜニックが結婚まで約束をし、マージョリーも暖かく彼女を迎え入れていたのか。行方不明になっていたカーラが戻ってきたことで、物語の様相は一変する。
 エリーはカーラと過ごした日々の思い出をすべて否定され、ニックやマージョリーにも手の平を返したような扱いをされ、自分でも頭がどうかしたのではないかと思うほど困惑していく。その度合いが強まるにつれて謎も深まり、読む側も誰を、そして何を信じていいのか迷走してしまう。そこにストレスを感じる読者もいるかもしれないが、後半、少しずつもやが晴れ、意外な真相が見えてくるときのゾクゾク感は、とくにサスペンス好きの読者をおおいに惹きつけるだろう。
 著者のニコラ・サンダースはイギリス生まれで、現在はオーストラリアで暮らしているとのこと。2020年に All the Lies でデビューし、2023年に Don’t Let Her Stay を、2024年に本作を発表している。新作の情報は見つからなかったが、本作の刊行から2年近く経つので、そろそろ出てほしいところだ。ここまでの3作はいずれも心理サスペンスで、好評も得ているので、次作もおもしろいサスペンスを期待できるのではないだろうか。気長に待ちたいと思う。

高橋知子(たかはしともこ)

翻訳者。訳書にマクファデン『ハウスメイド2 死を招く秘密』、デドブロス『シャーロック・ホームズ10の事件簿』、ガーニェ『ソシオパス「怪物」と呼ばれて』、ブラント『アイリッシュマン』、ロビソン『ひとの気持ちが聴こえたら』など。趣味は海外ドラマ鑑賞。お気に入りは『シカゴ・ファイア』

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