今月はまず「どくミス!2026」の告知から。

 読書会のサイトでもすでにお知らせしているとおり、今年も「どくミス!」を開催いたします。「どくミス!」とは、「読者が選ぶ翻訳ミステリー大賞」の略で、1年間でもっとも読者に支持された作品を顕彰するために、2013年から毎年開催されています。当初は「翻訳ミステリー読者賞」という名称でしたが、昨年から「どくミス!」と改称されて、今回が通算で14回目の開催となります。

 「どくミス!」のルールは至ってシンプルです。前年1年間(今回ですと、2025年1月から12月)に、国内で翻訳出版されたミステリー作品から、あなたがおもしろいと思った作品をひとつだけ選んで投票するというものです。参加資格はただひとつだけ。「翻訳ミステリーが好きである」ということです。年齢も性別も職業も関係ありません。翻訳ミステリーが好きで、上記の期間に刊行された作品をひとつでも読んでさえいれば、誰でも投票が可能です。

 というわけで、以下に今回の要項をまとめます。ぜひみなさん、熱い投票をよろしくお願いいたします。

【どくミス!2026 開催要項】

対象作品
2025年1月1日から12月31日までに刊行された翻訳ミステリー小説が対象となります。
※以下の点にご注意願います。
・国内小説や、ノンフィクションなどの小説外作品は【対象外】です。
・既刊の文庫化および復刊は【対象外】です。
・対象期間かどうかの判断は奥付の日付にてご判断ください。
・新訳、改訳は【対象】です。
・紙版と電子版の刊行日に差がある場合は、紙版刊行の日付に従います。
・複数巻で刊行が年をまたぐ場合は最終巻刊行年の対象とします。

投票方法
・専用のフォーム(Googleフォーム)より投票をお願いいたします。
・フォームのURL→ https://forms.gle/B22vVAxsvZzdPo2KA
・投票にはメールアドレスが必要です。
・フォーム内でいただいたコメントは、結果発表イベントやサイトなどでご紹介させていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
・投票は、おひとり1作品のみとなります。複数投票が認められた場合、最初の投票のみ有効となります。

投票受付期間
2026年4月27日(月)〜5月6日(水)※10日間

結果発表
2026年5月17日(日)14時より、YouTubeでのLIVE配信イベントでおこないます。
イベントURL https://www.youtube.com/watch?v=0TzKK83rTi0

 詳しい内容は、読書会サイトにてご確認ください。Xでも随時告知しております。

 みなさまの熱い投票をお待ちしております!


 というわけで、本の紹介へ。まず最初はオースマ・ゼハナト・カーン『黒い滝』(國弘喜美代訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)から。コロラド州はブラックウォーターフォールズという田舎町を舞台とする警察小説です。

 主人公はデンヴァー警察の地域対応班(CRU)に所属する女性刑事、イナヤ・ラフマーン。CRUは地元警察の行き過ぎを監視する役割を担っており、地域住民の安全を第一に行動しています。地元警察のグラント保安官は、白人至上主義を隠さず、福音派教会との癒着も疑われており、イスラム教徒のイナヤとは、常に緊張した関係が続いています。

 そんななか、シリア移民の少女ラザンが、モスクの壁にキリストの磔刑を模した姿で殺されているのが発見されます。CRUが事件を担当することになるのですが、保安官事務所はCRUへの協力を拒み、また福音派教会と関係の深いバイカー集団も絡んできて、捜査は難航。そのうち、ラザンの他にも行方不明になっているソマリア移民の少女たちがいることが明らかになるのですが、地元警察は単なる家出として処理しており、それ以上捜査がされていませんでした。

 イナヤと、そのパートナーであるラテンアメリカ系のキャット、そして地元コミュニティに深く関わりを持つ黒人弁護士のアリーシャは、人種差別を隠そうともしない教会と警察が力を持つ地域で、辛抱強く事件の真相を追い続けます。著者は、彼女たちの姿を通して、人種差別や移民問題、ヘイトクライムなどの社会問題を浮き彫りにしていくのです。

 本作では、上に挙げたさまざまな問題が、あくまでもアメリカ内部の問題として扱われているわけですが、ここで描かれている対立と分断の構図は、現在の世界情勢を見ても、また日本国内の状況と照らし合わせても、他人事ではないのだということを強く感じさせられます。

 日本という国にずっと住んでいると、どうしても異なる文化やルーツを持つ人々との共生という部分に対して、どこか他人事のような感覚があったりするわけですが、このような作品を読み、彼の地における現実を知ることも、海外のエンターテインメント作品を読むひとつの理由になるのではないかと思います。

 続いて紹介するのは、ロバート・ジャクソン・ベネット『記銘師ディンの事件録 木に殺された男』(桐谷知未訳 早川書房)です。記銘師というのは、見たものすべてを記憶できる能力を持つ者の総称です。この能力は生体改変の技術によって得られるもので、記銘師以外にも数理師、怪力師などの能力者がいて、社会のなかでさまざまな役割が与えられています。

 と、説明なしに書かれてもなんのことかわからないですね。この作品は、神聖カナム大帝国という異世界を舞台とした、ファンタジー作品です。そしてれっきとしたミステリでもあります。いわゆる「特殊設定ミステリ」ということになるのかもしれませんが、こうくくってしまうのもちょっとした違和感を感じるほど、本作は見事に作り込まれた設定で読ませる作品です。世界幻想文学大賞とヒューゴー賞を受賞し、エドガー賞の最終候補に残った作品だと言えば、そのジャンルレスな魅力が、多くの人に認められているのだということがわかるのではないでしょうか。そういえば、同じ著者の『カンパニー・マン』(青木千鶴訳 ハヤカワ文庫NV)もSFミステリでしたね。

 神聖カナム大帝国のなかでもいわゆる辺境の地であるダレタナで、記銘師ディンは上司である捜査官アナとともに、給与詐欺などの犯罪を捜査していました。そんななか、地元の有力者の屋敷で、政府高官が不可解な死を遂げたという報せが入ります。ディンは、指示により現場に赴き、そこで見たすべてのこと、とりわけ高官の異様な死に様について報告するのです。その高官の体はまるで体内から生え出たかのように、巨大な木に貫かれていたのでした。この時点では、植物の変異感染なのかそれとも殺人なのか、あるいは自殺なのか、まったく見当がつかない状況でしたが、ディンから詳細な報告を受けたアナは、ほとんど時間をかけることなく事件を解決に導きます。

 高官の死から二週間ほど経ったころ、今度は臨海防壁に近い軍用都市タラグレイで、ダレアナの事件同様、体から生え出た木によって、十人の技官がほぼ同時期に殺されるという事件が発生します。そしてその木が臨海防壁の一部を破壊してしまったのです。時は折しも雨季であり、巨獣リヴァイアサンの襲来が予測されるなか、防壁の不備はすなわち帝国の崩壊を意味していました。ダレアナでの事件を解決に導いた功績によりタラグレイに迎えられたアナとディンは、この事件と関わることによって、帝国を大きく揺るがす謀略の渦に巻き込まれていくのでした。

 先にも書きましたが、とにかく設定の作り込みがあまりにもすごすぎる上、安楽椅子探偵型変人のアナと、あくまでも職務に忠実であろうとするディンを始め、ディンと主に行動をともにする捜査官助手のミルジンやストロヴィといった脇を固める人物が大変魅力的に描かれており、その特殊な世界観にも大きな違和感なくスッと入り込むことができます。ミステリ好きにとって、アナとディンというバディはリンカーン・ライムとアメリアを思い起こさせるでしょうし、生体改変を受けた者たちと彼らによるバトルの要素は、SF小説の例を挙げればキリがない。謝辞によれば、そもそも著者はずっと《楽しい殺人ミステリを書きたい》と思っていたそうで、それがなぜこうなるの? と思わなくもないですが、楽しい殺人ミステリを書きたいというだけで、これだけ壮大かつ緻密な世界設定を作り上げることのできる著者の能力こそが異能と言えるかもしれません。本作によって異世界ミステリ、特殊設定ミステリのハードルは一段も二段も上がってしまった。今後は本作基準での評価になっていく。そう言い切れるくらいの傑作だと思います。

 さて、再度のお願いになりますが、「どくミス!2026」は、4月27日(月)から投票を受け付けます。2025年の翻訳ミステリーを回顧する、いまや唯一のイベントであると自負しております。精一杯盛り上げて行きたいと思いますので、みなさまの投票をぜひよろしくお願いいたします!

大木雄一郎(おおき ゆういちろう)
「どくミス!2026」はみなさまの投票で成り立っています。読者の気持ちを作り手に伝える意味でも、みなさまの熱い投票を心からお待ちしております!

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