今月もこんにちは! さすがにもう大丈夫だろうと思って便座の暖房を切ったけどまだ早かったかもしれません……。

*今月のタッグ本*
ヨルン・リーエル・ホルスト ヤン=エーリク・フィエル『クライムキャスト Vol.1 届かなかった叫び』(中谷友紀子訳/小学館文庫)

〈警部ヴィスティング・シリーズ〉のホルストと、日本初登場でノルウェー本屋大賞史上最年少受賞者のフィエルが共同で執筆した新シリーズが始まりました。主人公は未解決事件のポッドキャストで多くのリスナーを抱えるマルクス。彼はかつて警察官を目指していたのですが、ある理由でその夢は頓挫。ある日、15年前の少女失踪事件について、ローカル紙の記者マチルデが接触してきます。逮捕されたのは被害者の父親で、すでに刑務所内で自殺しており、地元では今もまだ生々しい事件だからと記事の掲載を断られたマチルデは、密かに取材を始めたのですが……。ヴィスティングのシリーズは毎回その真摯な捜査と警官としての矜持がぐっときましたが、本書は主人公が法執行機関の人間ではないため思うように調査できないハンディがある一方で、そうした縛りがないおかげで大胆な行動に出られるメリットを持つのが読みどころのひとつかと。なかでも相談相手となる服役中の父親が今後の展開にどう関わってくるか興味津々です。

*今月の続編本*
アンデシュ・デ・ラ・モッツ&モンス・ニルソン『死んでもいいくらいの掘り出し物』(久山葉子訳/創元推理文庫)

 大勢の人で賑わう青空骨董市で、遺品買取業者が殺されます。ストックホルムから休暇で来ているヴィンストン警部は偶然その場に居合わせたため、地元の刑事エスピングとともにまたもや捜査に関わることに。悪徳業者として知られた被害者は、事件の直前にとあるお宝を横取りしていた模様。どうやらそれ以外にも動機となりそうな事実がつぎつぎに判明し、捜査が進むほど真相の解明が遠ざかる始末。二人は無事犯人を逮捕できるのでしょうか。先日〈どくミス〉第1位となった『死が内覧にやってくる』の続編の本書は、今回も“悪気はないけど相棒を怒らすヴィンストン”と“都会のスカした警部にイライラさせられるエスピング”のコンビがなんとか協力して真相にたどりつくスリル(?)が存分に味わえます。残念ながらシリーズはこれで終わりだそうですが、なんとか続きが出るといいなあ。

*今月の300ページ未満本*
メイソン・コイル『ウィリアム』(山本佳世訳/ハヤカワ文庫)

 いつもは屋根裏で研究に没頭している外出恐怖症のヘンリーは、ハロウィンの日、妊娠中の妻リリーの同僚が食事会に訪れるのを緊張して待っています。彼はこの機会に研究の成果を披露するつもりでした。ところがやがて予期せぬ出来事が起き、家は血みどろの惨劇の場と化したのです。A・J・フィン『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』の主人公も広場恐怖症で家から出られず逃げられない設定でしたが、本書のヘンリーも家に囚われ……とこのぐらいにしておきます。ChatGPTどころかSiriすら使ったことのない自分は、これを読んで「絶対使えない……(泣)」と決意を新たにしました。短いのでぜひ一気読みで! 

*今月のじっくり読み推奨本*
クリストフェル・カールソン『暗殺の冬』(棚橋志行訳/文春文庫)

 作家の「私」は近所に住む高齢の女性と知り合いになります。警察官だった彼女の同僚スヴェンは、かつて「私」が子供の頃に知っており、その息子のヴィダルは同級生でした。30年前、、スヴェンが連続殺人犯に襲われた女性を見つけたものの、同じ夜にパルメ首相が暗殺されたため、大事件に紛れて現場の態勢が整わず、犯人を逃してしまったのです。物語は、長年にわたる真相解明への執念と、事件が及ぼした影響、そして父子のつながりと心の機微を丹念に描きます。〈十年に一度の傑作。〉と帯に謳われたからにはなんとしても読まねば! と手に取ったものの、500ページ超に恐れをなしたひともいるかもしれません。でも本書はじっくり、ゆっくりと文章を心に染みさせながら腰を据えて読んでほしい一冊です。なお関連書としてヤン・ストックラーサ『スティーグ・ラーソン最後の事件』(品川亮&下倉亮一訳/ハーパーBOOKS)もぜひ。

*今月のイチオシ本*
スティーヴン・キング『もし血が流れれば イフ・イット・ブリーズ』(白石朗 安野玲訳/文藝春秋)

 まず最初にすみません! 実は同時収録の「ラット」が読み終わらなかったので表題作のみでのイチオシとなってしまいますが、とにかくこれめちゃくちゃ面白い! そして怖い! しかも読後感スッキリ! という三大オススメポイントで超満足!
 クリスマス休暇前、中学校に届けられた荷物が爆発し、多数の死傷者が出ます。現場の中継映像を観ていたホリーは、惨劇を報道するレポーターになにか違和感を覚えたのですが、それは、その男が事件が起きるのを事前に知っていたのではないかという不吉な予感だったのです。『ミスター・メルセデス』に始まるシリーズ3作でだんだんと存在感を放ってきたホリーがついに主人公となった『アウトサイダー』。その続編が本書です。『アウトサイダー』はクライマックスの怖さが重量級でそれはもう震えながら読んだものですが、同時にホリーがここまで成長したのかと感心したのを覚えています。親との歪な関係のせいで他者と関わるのが苦手だったホリーが、ビルとの繋がりを経て、周囲のひとたちと信頼関係を築けるようになったのも嬉しい。本書はさらに進化したホリーの行動力が、邪悪で卑劣な存在にどう立ち向かうのかが読みどころです。このシリーズはミステリとホラーがいい感じに合体されているので、ホラーが苦手というひとにも初キングとしてオススメです。なお映画化のおかげでキングの初期の作品『バトルランナー』『死のロングウォーク』の二作が『ランニング・マン』『ロングウォーク』と改題のうえ復刊されてそちらももちろん面白いんですが、比べて読むと、やはり近作は貫禄が違うなあと思ったり。なおM・W・クレイヴンの〈ワシントン・ポー〉シリーズのティリーのファンのひとは、ホリーも気にいるんじゃないでしょうか。もし未読ならぜひこちらもおためしのほど。
 
*今月の新作映画*
『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』(2026年06月12日公開)



 ジャクソン(ロバート・パティンソン)と作家で妻のグレース(ジェニファー・ローレンス)の夫婦は、叔父の家を相続し、野中の一軒家で暮らし始めます。静かな環境で執筆活動がはかどるはずだったはずが、周囲の目を気にせずに愛し合い、自由奔放に過ごす毎日で、一向に筆は進みません。ほどなくしてグレースは妊娠し、子どもを授かります。そしてグレースの創作活動はさらに停滞し、家を空けるジャクソンに不満が募り、やがて夫婦の間に諍いが増えていき、追い詰められたグレースの精神は徐々に破綻していくのです。


 原作はアルゼンチンの作家アリアナ・ハルウィッツの第一作『死んでよ、アモール』(宮﨑真紀訳/早川書房)。発売日は6月4日ですが、ひと足先に読ませてもらいました。生命力に満ち溢れていて、幻想的で、詩のようなふしぎな作品です。映画版では映像自体が散文のようで、ジェニファー・ローレンスの動きはまるでダンスのように見えます。訳者あとがきで宮﨑さんが指摘されていますが、本作の映画は原作よりもホラー味が強い仕上がりになっています。監督のリン・ラムジーはアラン・ウォーナー『モーヴァン』、ライオネル・シュライバー『少年は残酷な弓を射る』、ジョナサン・エイムズ『ビューティフル・デイ』と原作ありの作品を手掛けていて、全て自らも脚本に関わっているのですが、とりわけ『ビューティフル・デイ』は原作よりも相当ハードな内容に脚色されていて驚きました。製作で加わったマーティン・スコセッシが惚れ込んで映画化にこぎつけたという原作『死んでよ、アモール』もぜひ読んでみてください。


 


タイトル:『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』

公開日:6月12日(金)より全国公開
キャスト:ジェニファー・ローレンス、ロバート・パティンソン、
監督:リン・ラムジー
原作:アリアナ・ハルウィッツ『死んでよ、アモール』(宮﨑真紀訳)早川書房刊
2025 年|アメリカ・イギリス|118 分|スタンダード|5.1ch|原題:DIE MY LOVE
字幕翻訳:平井かおり|配給:クロックワークス|PG12
コピーライト:© 2025 DIE MY LOVE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画公式サイトhttps://klockworx.com/diemylove/

 
◆6月12日(金)公開『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』本予告◆

 

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2025年8月には、リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(羽田詩津子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)と、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(田村美佐子訳/創元推理文庫)の解説を、2026年5月にはレオニー・スヴァン『ひつじ探偵団〔新版〕』(小津薫訳/早川書房)の解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho









 

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